最悪のパーティー
「邪魔だ。どけっ。」
「ひっ。」
「死にたいのか? 消えろ。」
「すみません。……ですが、僕は今日、この場所に用があって。『絆ファミリー』の荷物持ちの依頼があります。僕の今後の人生を大きく左右するような、大事なお仕事なんです。」
「けっ。……お前も一緒なのか。死にたくなければ、俺に馴れ馴れしく近寄って来るなよ。」
「はい?」
「……。」
僕は戦慄していた。それは冒険者パーティーの『絆ファミリー』が最悪だったからではない。目の前の不死者様がとてつもなく怖くて。彼が僕の依頼内容と同じものを受けているっぽいのだ。
もしかして、彼は僕のライバルなのだろうか。だとしたら、僕は全く勝てそうにない。
どれくらい時間が経っただろうか。体感で1時間弱、本当はたぶん数分。やっとサイゼさん達がやってきた。
「やあ。待たせたみたいだね。それでは自己紹介をはじめようか。僕はサイゼ。このパーティーのリーダーで希少なディフェンダーをやっている。2人の事は、ダンジョンでも優先して守るから安心してくれたまえ。」
「ふん。余計なお世話だ。自分の事は自分で守る。」
う。なぜか格下なのに不死者様の方が偉そうだ。
サイゼさんに続いて、中年で細身の男性が、面倒くさそうに自己紹介を始める。
「サブリーダーのココ、魔術師だ。このパーティーでは1番経験が長いので、分からない事があれば私に聞くと良い。」
その後ろからゴリラに似た大男が顔を出した。
「俺様はドンキーだ。このパーティーの斥候をやっている。遠隔攻撃が得意な上に、ダンジョンではモンスターや罠の探知もやっているパーティーに欠かせない存在だ。まあよろしく頼むぜ。使えない荷物持ちども。」
ちょっと意地の悪い自己紹介に、不死者様が唾を吐いて歓迎している。続いて、このパーティーに似つかわしくない高貴そうな美少年が前に出てきた。
「僕はロイヤル。天才剣士なのだが、一時的に席を置かせて貰っている。すぐに有名になるだろうから僕の名前を覚えておくと良いよ。」
次にこのパーティーの紅一点。控えめで優しそうな女性が頭を下げる。
「占術師のデニーです。パーティーのバフを担当してます。戦闘はあまり得意ではないけれどよろしくお願いします。」
最後に緊張で震えながら小さな少年が来た。おそらくは15歳になる僕よりも少し年下だろう。
「……ガストンです……その……呪術師を……やってます。」
「では、荷物持ちの二人も自己紹介をしてくれるかな?」
「ふざけんな。ジジイから聞いてんだろ? 俺はパスだ。」
不死者様が、お決まりの悪態をついたので、次は僕の番になった。
「……ジョイです。回復術師です。頑張りますので、よろしくお願いします。」
「おいおい。嘘だろ。」「……回復術師様が何で荷物持ちなんか。」「はじめて見る!」
絆ファミリーの皆さんがざわついている。僕も緊張して久しぶりに失態をおかしてしまった。ワンセットで補足しないとこんな風に騒ぎになる。
「すみません。聖属性魔法は使えません。回復術師のスキルは使えますが、それは応急処置程度のスキルなんです。」
「なんだ。ゴミかよ。そりゃ荷物持ちだわな。」
ゴリラさんが不機嫌な顔をする。そう言われても仕方がないのだけれど、侮辱されるのはいつまでたってもきついなぁ。
「こらっドンキー。失礼だぞ。Sランク冒険者を目指す私にとっては、お前等も出来損ないという意味では、たいして変わらん。」
「……リーダー。こいつらと比べたら酷いですよ。ゴミと、例の死にたがりですよ?」
「ココ。出来損ないには、お前も入っているのだが?」
不死者様だけのせいではなく、サイゼさんの言葉に全体の空気が悪くなった。それでも僕と同列にされたら気分が悪くなるのはわかる。だって、僕もいろいろと言われて、その度にいつも悲しいのだから。
それにしても、サイゼさんだ。あんなに笑顔で悪気もなく、よく酷い事が言えるな。先日のあれは素で言っていたのだと、今なら納得出来る。
見極めるもなにも、最悪のパーティーじゃないか。
空気が悪いままで、一行はダンジョンに着いた。
「今回は、荷物持ちを俺が庇う都合で、ロイヤルにアタッカーの他にサブタンクとしての役割を兼ねて貰う。ロイヤルは回避を中心に敵を翻弄してくれ。他の皆はいつも通りだ。荷物持ちの二人は俺の後ろに居てくれれば良いからな。やばくなったら俺も前線に行くが、君達を第一に考える。」
性格は悪いのに、僕たちには優しいんだな。どこまでもアンバランスな人だ。
「ありがとうございます。」
モンスターの戦闘では、最悪のパーティーの印象が変わった。というか、リーダーの言っていた事の意味が分かった。一人一人では普通のCランクよりも弱いかもしれない。
「……出来損ないか。」
だが、パーティーとしてはとても強いという印象だ。
一言で言うなら戦略特化型パーティー。サブタンクのロイヤルさんを前線の軸に、ココさんとドンキーさんが遠隔からの攻撃をしている。どの攻撃も弱い印象だが、それら全ての攻撃に占術師のデニーさんのバフが入り形になっている。
一方でモンスターには、後方のガストンさんからデバフが入りかなり弱体化している。
なるほど。バランスが良い。だが、ロイヤルさんが負傷しただけで、この陣形は一気に崩れる。だからこそ、補充するメンバーは、僅かに回復の可能性がある僕という選択なんですね。
戦闘は難なく進み、ダンジョンで何もない空洞、休憩地点に入った。
「ちょうど良い。ここで休憩しよう。」
「リーダー。罠があります。ちょっと待って下さい。酷いな。この罠は、うっかり左の壁に触ると空洞に閉じ込められる仕組みです。頭上を見て下さい。あの巨大な岩が落下してきますよ。」
「危ないな。よし、ドンキーの言うように、壁には十分注意して入ってくれ。」
「それでも休憩は取るのですね。」
「当たり前だ。お前らは冒険者としてとても弱い。一つが崩れると一気に総倒れになる。今日の戦闘でもう分かっただろ? 俺という最強の盾が居なければ、ロイヤルがいてもギリギリなんだよ。だからこそ、俺は、お前等を見限った。」
お互いが自分の役割りに徹していて、凄く考えられた陣形だった。ワンランク上の敵に挑んでいる感覚。あの戦闘でギリギリだったのか。今日は僕たちの守りで見れなかったけど、やっぱりサイゼさんのディフェンダーとしての力は、圧倒的だったのだろうか。
僕が言うのもおかしいのだけれど、一人一人は最悪だからといって、最悪のパーティーではない。戦闘に関しては、お互いが補いあって強くなれる。
だとしたら、僕にとって、それは最高の……。
「おいゴミ。ジョイ! さっきから、ボーっとしてどうしたんだ? 俺様の攻撃がそんなに素敵だったか? それとも、罠の発見に見惚れたのか? 凄いだろう。無能のゴミには真似出来ねーよな。」
僕は妄想から我に返るとゴリ……ドンキーさんではなく、その後ろに見える不機嫌そうなあの人を見た。そして、目が離せない。
……いったい何を夢見ていたのだろう。ライバルはあのモンスターに突撃していくという不死者様だよ。不死者は、まさにこのパーティーにこそ、うってつけじゃないか。
「うぜえ。騒ぐなマーダー。じっとし……」
見つめてごめんなさい。というか不死者様? 僕はジョイですよ。インスペクターって誰でしょう。そんな人いません。この人のやばさを改めて実感した瞬間だった。




