王都観光
「突然押しかけてしまいすみません。先程お伝えした学園について詳しい話を伝えに来ました。え? 秀人さんですか? 容姿が変わっております。」
宿にやって来たのは、数時間前、オリハルコンの剣を渡したユノさんだった。彼女から貰った異世界のお金のおかげで、俺の現実世界での生活は好転した。ユノさんには頭が上がらない。
「ちょっと痩せただけなので気にしないで下さい。それより、さっき誘われたばかりなのに話が早いですね。」
「すみません。ご迷惑でしたか? それでしたら、また後日にでも……。」
「いや。迷惑とかそういうのじゃないですよ。ユノさんには感謝の気持ちしかありません。俺達はこれから、この国の観光をしようと思っているんです。」
「感謝してもしきれないのはこちらの方ですよ。……あの。そちらのお2人は?」
「旅の仲間、陽菜と心愛さんです。」
「はじめまして。陽菜と申します。」
「心愛です。よろしくお願いしますね。」
「私はユノ シエスタ ユートピアと申します。そして、一緒にいるのが私の弟のラジです。」
陽菜がラジくんの目線にあわせて屈んだ。
「ラジ君。かわいい子ね。もし、時間があるなら、この国を案内してくれないかしら? ユノさんもお願い出来ませんか? 厚かましいお願いだけど、その間に学校とやらの話をすれば良いでしょう?」
陽菜は、クールな割りに子供とはすぐに打ち解けるよな。そこも純粋で可愛いん所なんだけど。
「はい。もちろん。良いですよね? 姉様も気になるでしょうから。」
「ラジったら何を……ご迷惑でなければ、それはもちろんでございます。」
ユノさんの頬が赤らんでいる。やはり陽菜のカリスマを当てられて同世代の子が普通でいられるわけない。その気持ちは痛いほどよく分かるよ。
「ご迷惑だなんてそんな。ユノさんさえ良ければ、是非お願いしたいです。さっきは適当にぶらついただけなので、この街に詳しい人がいれば安心出来ます。」
「やったーです。」
ラジ君が両手を上げて飛び跳ねると被っていた帽子が取れた。ラジくんは宿の店員さんみたいな亜人だった。
「け……うさみみ。かわいいっ。なんてかわいい子なの。ラジ君……抱きしめても良いですか? 良いですよね?」
「僕を抱きしめてくれるのですか? それは姉様と同じ愛ですか?」
「ユノさんと同じ愛ですよ。」
「……お願いします。」
ここでも心愛先生がラジ君に受け入れられた。2人ともとても嬉しそうにしている。
「……う……ありがとうございます。やはり、秀人さんもお仲間さんも亜人に対する抵抗が全くないのですね。……ラジ君。良かったね。」
「はいです。」
やっぱりそうだ。宿屋の店員さんも驚いていた。この国では普通の人間よりも亜人の方が立場が低いんだ。けど、物凄く低姿勢だけど……名前やあの大金から察するにおそらくユノさんはこの国の王女だ。
その弟であるラジ君も王子だよな。……いろいろと複雑そうだな。
「ユノさん。泣かないで下さい。生あるものとして、皆、平等に価値があります。私達はそこに優劣なんてつけませんから安心して下さい。」
少なくとも日本で生まれた俺達は種族に対して、皆が平等であると認識している。だから俺は即答出来た。
「なんて素晴らしい。そんな思想が広まったら、きっとこの世界は平和で満たされるでしょう。ご教示ありがとうございます。……心に刻みます。」
「大袈裟ですよ。ねー。心愛先生。」
「……けもみみ。かわいい。」
「……ラジ君に夢中。では、ユノさん。早速案内をお願いします。学園の話も聞きたいですし。」
俺達はユノさんの案内で王都を観光した。陽菜と心愛先生は、はじめて見る異世界に喜んでいた。
「やっぱり武器が見たいわ。」
「それは同意見です。先程の鑑定。私は魔法が使える魔法使いなのです。」
「分かりました。ちょうど連れて行きたい鍛冶屋があるんですよ。途中で、この国の名産品や面白い商店にもご案内します。秀人さんは行きたい場所はありますか?」
「俺は一通り観光したんで、行きながら学園の話を聞いても良いですか?」
「はい。かしこまりました。」
お店など心愛先生を中心に陽菜とラジくんが楽しそうにショッピングをしていた。一方で俺は道中でユノさんから学園の話を聞いていた。
「簡単に言うと秀人さんの入学許可は既に頂きました。学園長は優秀な人材を欲しています。陽菜さんや心愛さんについてはどうしますか? 」
陽菜とまた同じ学校で生活出来るのは嬉しすぎる。
「ええ。この国で2人と別行動をするのは考えられないです。」
「それなら、また、話を進めておきます。」
その調子で俺は観光の合間にユノさんから王立第一魔法学園について色々と聞いていた。王立第一魔法学園は国一番の優秀な生徒達や有力貴族の子供達が集まるエリート学校らしい。
「ユノさんはなんだか自分と似ている気がします。それにユノさんと話すととても楽しいです。俺には同世代の友達がいませんから、こういうのはとても憧れていました。」
陽菜は俺にとって、好きな人であり大切な人だ。友達だが、厳密には友達の感覚とは少し違う。
「ありがとうございます。実は私も一緒です。」
「げほっ。」
ユノさんには自分と同族のような心地よい親近感がある。俺は王都観光に喜んでいる心愛先生や陽菜の事も忘れてユノさんとの話に夢中になっていた。
そっけない態度の陽菜は置いておいて、同世代の友達との会話は、きっとこんな感じなんだろうと想像してしまった。学園の会話が一段落すると、はしゃいでいた心愛先生がやっと落ちつき、深呼吸をしている。
「それにしても、趣がある風景ですね。何もかもが別世界で、劣った文化でさえとても新鮮に感じます。」
その言葉にユノさんが悲しそうな顔をしている。そうだろう。みんなには言っていないがユノさんは王女なのだ。
「ユートピア王国は、心愛さん達が住んでいた国と比べてそんなに劣っていますか?」
「……ごめんなさい。嫌な表現になってましたね。国が違うのですから、優れた部分もあれば劣った部分もあります。その情景の違いに感動しているのです。それに、ここで生活している人々には活気があり、まるで知り合いかのように私達に接してくれる。こういうのは私達の国ではあまり見ません。」
「そうなんです。王都の国民はみんないい人ばかりです。そうですか。我が国の民は優れているのですね。それは何よりの褒め言葉です。」
「ユノさん。俺も最初にあなたに出逢えて、この国が好きになりましたよ。これからも仲良くして下さいね。」
ユノさんが顔を赤くして俯いてしまった。熱でもあるのだろうか?
「げほっ。」
陽菜も同じように顔を赤くして、咳き込んでいる。こっちはなぜか怒っているようにも見える。
この中で2人の顔が同じように真っ赤に染まっている。これは、もしかして、異世界の流行り風邪にでも感染したのかと少し焦った。薬屋さんあるかな。2人が心配だ。
そんな風に考えていると、陽菜が俺の裾を掴んできた。
「ねー。秀人。この手紙をあとで読んでくれない。大切な事が書いてあるの。……でも、私がいる時に見ちゃ駄目よ。」
今はモデルの仕事が忙しいけど陽菜は小学生の頃からお互いに唯一無二の友達だった。陽菜と友達になってから長いけど、今まで手紙なんて貰った事がない。お情けで友達になってくれたようなもので、いつもの態度から察するに好かれてはいない。
だからその手紙は悪い予感しかしなかった。サラッとキツい事を言う陽菜でさえも、俺には言葉に出せないような嫌な所でもあるのだろうか。
まさか……俺がキモい隠れファンだってバレたか?
見守っていたつもりだったけど、陽菜からしたら気持ち悪いよな。
「なんだろう。凄く気になるんだけど。……嫌な事じゃないよね?」
「それはあなた次第ね。とにかく絶対に私がいない所で見てよね。」
やっぱり、嫌な事だ。落ち込まないように一人の時に見よう。
「……分かった。」
俺は、かなり落ち込んだあと、ふと、心愛先生を見た。
「……薫にも見せたかったな。」
あんなに楽しそうだった心愛先生が、一瞬だけ悲しそうな顔をしていた。




