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Load of Store 生産職で魔王は倒せますか?  作者: 漆黒の炎
The Love of One’s Life
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冷たく燃えあがる乙女

 私は陽菜様の撮影現場に移動していた。そして、陽菜様を見に集まっていた一般人に紛れて、私も陽菜様の姿をこっそり見ている。


 同じ芸能事務所に所属しているからこそ出来る裏技。マネージャーから居場所を聞き出し、陽菜様をこっそり見守り、それが終わったらデートをする。これが私の大切な特別任務だ。


 

「良いわ~。最高。良い表情ねっ~。次は、ジャケットを脱いで挑発してみて。うん。ナイス~。最高。」


 撮影が終わり写真をチェックした後で満足した雑誌の編集長が出て来た。本来は現場に来るような人物ではないが、モデルが陽菜様級となれば話は別だ。


「はーい。陽菜ちゃん。お疲れ様でした。今日の撮影は終了よ。」

 

「お疲れ様でした。皆様、本日も撮影ありがとうございました。」


「飛ぶ鳥を落とす勢いの日本中から愛される話題の人が、いつも腰が低いわよね。あなた自分の立場を分かってるの? 天狗になってもおかしくないのよ? 」


「またまた。私なんてただの格闘家なんですから、今のこの状況がおかしいだけです。それに使って頂いてる以上は、皆様には感謝の気持ちしかありません。」

 

「本当にかわいい子ね~。うちの子にならない?」


 おい。なんで陽菜様がたかが編集長の娘になる必要がある。何のメリットもないだろ。もう少し陽菜様を眺めていたかったのに私は危うく飛び出しそうになった。私も女優だ。関係者がいるうちはまだ我慢しないと。


「やったー。編集長が私の親だったら、嬉しいなー。とても光栄です。ありがとうございます。でも、こう見えて私は大食いなので食費が高くつきます。ご迷惑は掛けられませんね。」

 

 さすが陽菜様。冗談だとしても本気だとしても、その答えなら嫌な気はしないわね。その時、小さな子供が撮影現場に飛び出して来た。

 

「ひなちゃん。サインちょうだい。」


「こら、駄目よ。撮影現場で、そういうのは全て断っているの。」


「編集長さん。よろしければ撮影は終わったので私に対応させて頂けますか?」


「陽菜ちゃんがそう言うなら良いけど。」


「何歳? 名前はなんて言うのかな?」


「レイラ。6さいだよ。」


「レイラちゃん。私は、サインを作っていないの。だから書くなら普通に名前になっちゃうけど、それでも大丈夫?」


「うん。ほしい。ひなちゃんだいすきなの。このふくにかいて。」


「そっか。じゃあ書くね。レイラちゃん、好きになってくれてありがとう。私も精一杯の愛を、この気持ちを込めて書きました。これからも応援してくれるかな?」


「うん。いっぱいおうえんするね。ありがと。ひなちゃん。だいすき。」


「こちらこそ、元気をくれてありがとう。またね。レイラちゃん。」 

   

 私のお姉様。このお方はなんて尊い存在なんだろう。私はもう我慢出来ずに飛び出して陽菜様に抱きついた。

 

「うう~。陽菜様。やっぱり尊いです。」


「あら、棘、やめてくださいよ。なんで来たのですか?」


「それはもう。陽菜様が現れたとあればどこへでも駆け付けまする。」


 

「あら棘ちゃん。雑誌のモデルは卒業したんじゃなかったのかしら?」


ふん。編集長。仕事にかこつけて陽菜様と仲良くしやがって。許せない。ばれたからには怒りをぶつけておくか。


「そうよ。分かっているなら、たかが雑誌の編集長はもう消えなさい。私はこれから陽菜様と濃密でラブラブな時間を過ごすの。」


「ほら陽菜ちゃん。今の陽菜ちゃんなら、こうなってもおかしくないって話よ。ではでは、お偉い人気女優さんが来たのでこっちも撤収しますか。」 


 しかし、陽菜様は私の行動を許さなかった。

 

「棘さんっ! 編集長さんに謝りなさい。もし謝らないのなら、この先一緒にいる時間は永遠に来ないわ。」


 なんで私の方が怒られるの。悪いのは編集長なのに。でも、陽菜様を怒らせちゃダメね。あんな事はもうコリゴリだもの。仕方ない謝ろう。

 

「編集長様。失言、すみませんでした。」

 

「編集長さんだけじゃないわよ。今は私がここのスタッフ皆様にお世話になっているの。一人一人に礼儀を持って接しないなら、ここには来ないで下さい。」

 

「はい~。ごめんなさい。」

 

普段は優しいのに、悪い人がいたらちゃんと叱れる2面性を持つ。怒られてしまったけど、そこには愛情を感じるわ。そして私はこの怖い時の陽菜様が1番好き。

 

「陽菜様。雑誌のモデルなんてやめて、一緒に女優業をやりましょうよ。今日も監督が次回作に陽菜様をキャスティングしたがってましたよ。それもメインヒロインに。陽菜様が出演したら今の低迷するドラマ業界に旋風を巻き起こす事間違いなしです。」


「んー。ごめん。テレビとか無理ー。」


「じゃあ。なんで、雑誌には出るんですか? いや……やっぱり聞きたくな――」


 

私の問いに陽菜様の顔が真っ赤に染まっていた。表情が愉悦に浸っている。

 

「なんでって、それは言ったじゃないですか。私の王子様が雑誌を見るのが趣味だからよ。」


 

なんで聞いてしまったのだろう。私はその表情を見て、 今日も絶望した。


 _| ̄|○


「ただ、それだけの事でも私にとっては大事な事なのです。」


 あいつの事を考える時の陽菜様は変態みたいな顔になる。何故その妖艶な表情は私には向けられないのだろう。


 その事実を本人のあいつだけが知らない。


「陽菜様。絶対に、あいつにはそんな顔を見せないで下さいね。痴女かと思われますよ。」


「あの人の前で、私は私でいられなくなります。素直にこの気持ちをぶつけられたらどんなに楽か。あなたも知っているでしょう。」



陽菜様は小学生の頃から、たった独りだけの孤独な学校生活を送っていたらしい。白馬の王子様が現れ、いつか自分を助けてくれるのではないかとよく妄想していたそうだ。

 

 陽菜様に対する虐めが女子からの嫌がらせだけでなく、不良男子に目を付けられたちょうどその時、転校生が男子に絡まれている陽菜様を助けてくれたそうだ。しかも、その転校生はとても弱く身を挺してまで陽菜様を救ってくれたらしい。


 その日、陽菜様は恋に落ちた。


 それ以来、陽菜様のせいで虐められるようになってしまった王子様を守る為に必死で強くなる為に行動し、いつの間にか空手の全国大会で優勝する程の腕前になったそうだ。だが、そのひたむきな努力も一切報われずに、結局、陽菜様はあいつを虐める不良には今までに一度も勝つ事は出来なかった。


 陽菜様は、いつか自分があいつを守れる存在になった時、告白をしようと心に誓っていたらしい。しかし、その誓いは思わぬ副産物を生んでいた。最初は告白をサプライズにする為、なるべく気持ちを悟られないようにあいつに対してだけはそっけない自分を演じていたという。しかし、その辻褄合わせの為に自然と行動がエスカレートしていき、今では自分の感情とは真逆の対応をしてしまう程にこじらせている。


 基本誰にでも優しい陽菜様は、あいつに対してだけはツンデレな陽菜様を完璧に演じきっている。しかも、その度に普段抑圧しているあいつへの気持ちもが爆発し、今ではあいつがいない場所であいつの事を考えるだけで、タガが外れたように恋愛痴女モードに変貌するのだ。

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