究極刀匠のいたずら
俺は臆病者だ。
一度ユノさんを見捨てた。
俺は卑怯者だ。
可能性に気付いていながら、出来っこないと諦めた。
だからこそ俺は変わりたい。
だって
ユノさんの未来にいた俺は
間違いなく
とてつもなく大きな後悔を抱えていた。
そんな自分になるのは絶対に嫌だ。
「お願いします。ミスリルの剣。俺が絶対に作ってみせます。」
「よし。お手並み拝見だ。こいっ。」
これが万が一失敗した場合。
ユノさんは、家族を亡くすかもしれない。
それは未来視の言葉と
あれだけ取り乱していた態度で把握している。
でも、もし、成功したら、ユノさんのあの未来は回避されるかもしれない。
……本当に未来の事なのかも、分からないけど。
俺は無言でユノさんを見る。
ユノさんは素材の入った袋を俺に手渡した。
「これが素材です。よろしくお願いします。」
―― こんな所で油を売っていて良いのかよ だいたい王都中を駆け回って無理だったんだぞ
お前ごときには絶対に出来ない 失敗するぞ ――
うるさい。
―― そうだ それを持って逃げればお金になるんじゃないのか? 協力してやろうか?
話の流れからいって、素材も貴重だろ お前の目的が果たせるかもしれないぞ ――
だまれ。あの子を助ける。きっと、大切なものの為にあんなに必死に頑張っていたんだ。
―― 失敗したらお前はそれを背負えるのか その女の必死さを見たろ
その女は命がけだ 失敗したら自殺するかもな ――
「精一杯頑張ります。」
店に入ると、リンドブルクさんが無言で作業部屋まで案内してくれた。
ユノさんを残して、俺は部屋に入る。
作業部屋で装備に着替える。
すると、リンドブルクさんが生唾を飲み込み真剣な表情に変わった。
大きく深呼吸をする。
失敗は許されない。
作業台で幻銀を持ちアルティメットハンマーを構えた。
普通にはミスリルを打つ為のスキルは使えない。
いくら生産チートであっても
ミスリルを打つ為の高度なスキルはSPが足りない。
神様がくれた力の1つ アビリティー
アビリティー『究極変換』で初級のスキルを一時的に最高級のスキルに変換する。
ただ、これだけだと見せかけだけ変換したに過ぎない。
しかし、俺には31289のAPがある。
最初はこれが何の為にある数値なのか理解出来ていなかった。
本能レベルで微かにそんな気がすると感じた。
俺は試す。
大量のAPを消費し、偽りの能力を正しい物に作り変えるイメージ。
すると消費スキルは初級のままに、疑似最高級のスキルが完成した。
想像した通りだ。
ここからは決まった作業になる。
俺には鍛冶スキルの使い方が手に取るように理解出来る。
一心不乱にミスリルの剣を打った。
気を抜けば意識が飛んでしまいそうな程、大変な作業だった。
――作業終了
剣の生産は無事に成功する。
「やった……出来た。」
「信じられん。幻銀を打った事もそうだが、その過程のスキル回しがまさに神の技巧だった。下位のスキルでなら俺の作業工程にも応用できるぞ。」
ふらふらになりながらも、俺はすぐに作業場を出て、出来上がった剣をすぐにユノさんに手渡した。
「受け取って下さい。願わくば、ユノさんの未来が少しでも幸せになりますよう。」
「……ありがとうございます……。」
ユノさんは、泣きながら何度も何度もお礼を言い、最後に虫眼鏡のような物で剣を調べていた。
ユノさんは目を見開いて驚いている。
喜び過ぎて、俺は鑑定のスキルを使うのを忘れていた。
すぐに剣を鑑定する。
だが、出来上がった剣の名前やその材質を見て、血の気が引いた。
……失敗した。
木刀を作った時みたいに剣が違うものに変わっていたのだ。
その瞬間、ショックと無茶な事をした疲れからか俺は意識を失う。
―― ぎゃははは 臆病者のくせに 調子に乗るからだ ――




