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Load of Store 生産職で魔王は倒せますか?  作者: 漆黒の炎
Another World
10/32

抜け落ちた記憶

「……ここはどこだ?」


 目を覚ますと知らないベットで寝ている自分がいる。


 6畳くらいの質素な部屋。四角い窓、小さな丸テーブルの上に花瓶とメモ帳と羽ペン、それだけがある簡易的な真新しい洋室。現実では考えられないような白い石造りの部屋。


 宿? それとも民家の客室?


 俺はベットから飛び起き、窓の外を眺める。

 そこには中世のヨーロッパみたいな街並みが並んでいる。

 

「……そうだ。香織姉ちゃん!」


 大声で叫ぶと、それに呼応するかのように部屋の扉からコンコンッというノックの音が聞こえて来た。


「あの、お客様、よろしいかにゃん?」


 身に覚えのない部屋で、お客様として扱われている。宿か。

 

「……はい。」


「失礼します。何か問題がございましたかにゃ?」


 宿の人が扉を開けると、俺はまた大声を出してしまった。

 

「えっ――!? あ…………ぅ。」

 

 猫耳の獣人が部屋に入って来た。俺の態度から不審者を見るような目つきをしていた。


 ……なんだこの状況。


 たしかに、俺は異世界モノのラノベやファンタジーのゲームは好きだ。


 しかし、子供じゃあるまいし、簡単には騙されない。


 理解した。ここは宿ですらないな。何かのセット。考えてみたら、今どきこんな時代錯誤な部屋はない。


「……ばばばば、馬鹿にしないで下さい。……外の景色にこの部屋。その耳も……気持ち悪い。何が目的なんですか?」


「……すみません。この耳……嫌ですよね。不快にしてしまいましたにゃ。」


 猫耳さんが悲しそうに俯いてしまった。今にも泣き出しそうな演技力につい罪悪感が込み上げる。


「ごめんなさい。嫌いとか不快とかではないです。この世界観を作った意図が知りたいというか……。」


「……意図?」


 何を惚けてるんですか。演者なんだから、それくらい分かるでしょ。一体誰が何の為に、こんな事をしているんだよ。


「僕を騙してますよね?」


「騙す? おかしな事を言うにゃ。」


「……え?…………え?」


 ……なんか……思い出した。


 俺はあの時、自分の妄想で自分を殺した。そこでは、ちゃんと痛みがあり死んだと言う実感もあった。神様に助けを求めて、女神様のような人が目の前に現れた。


―― どんな能力を望みますか? ――

 

 そこからの記憶がほとんど抜け落ちていた。


 死後の世界なのか。いや。死んだ気もするが、ショック死なんて現実的じゃない。


 意識を失っただけ?


 これは夢?


 バチンッ。

 

 自分の頬を叩いてみた。……痛い。

 

 改めて、窓の外の風景と目の前の猫耳を確認する。


「……いやいやいや。」


「大丈夫かにゃ?」


「全然大丈夫じゃありません。」


 混乱して、また意識を失いそうになる。


「……お客様……お客様。」


 痛い痛いっ。凄い勢いで頬っぺたを叩かれてる。


「お客様、大丈夫ですかにゃ?」


「……はい。大丈夫です。」


 現実だと考えると、めちゃくちゃ怖い。神様いたんだ。


 異世界に転生したのか? あれから何十年も経過して、ついに記憶が戻ったとか?


 さっきまで日本にいたし、それはないだろう。


 上着をめくってお腹を確認する。ぷっくりしている。転移の可能性が高いな。


「ちょ……お客様、何してるにゃ? 脱がないでください。ここはそういうサービスはやってま――」


「――ちっ違います。ちょっとお腹を確認しただけです。」


 転移か。だが困った。すぐに日本に戻らないと。


 香織姉ちゃんの事をどうにかしなきゃ。全部俺の責任なんだ。今は帰る方法を考えよう。

 

 

―― 出来っこない お前はここで野たれ死ぬんだ ――


  

「すみません。ちょっと記憶があやふやでして。……ここはどこですか? どういった経緯でこちらにお世話になっているのでしょうか?」


 猫耳さんは怪しみつつも質問に答える。間近で見ると猫耳やしっぽなどが動いていて、作り物には見えない。


「にゃ? ここはユートピア王国王都ブナパトスにある名もなき宿屋です。お客様は先程、こちらの宿屋にチェックインなさって、すでに朝晩2食付きで1か月分のお代を頂いておりますにゃ?」


 なるほど。あの神様の計らいか。最悪の場合、元の世界に戻れなくても、一ヶ月間は生きていける。


 しかし、見返りもなしにこんな事するか? 考えるのはやめよう。


――呑気かよ。最低だな臆病者。香織はお前の事を追い出さないでという約束で、今も風俗店で働いて金を稼いでるんだ。――

 

 ……そうだ。駄目だ。一ヶ月なんてとても待っていられない。これからは、ちゃんと考えて行動をするんだ。あの子に教えられたじゃないか。


―― それでも何も出来ないのがお前だがな。 ――

   

「……大丈夫かにゃ?」

 

「すみません。……物忘れがかなり激しくて。」


 察しのいい猫耳さんが、宿の予定を案内をしてくれた。


「では、夕飯まであと5時間はあるので、お待ちくださいにゃ。朝は6時から午前中いっぱい。夕食は17時から22時までに食堂にいらしてくださいにゃ。それでは、失礼しにゃす。」


「ありがとうございます。」

 

 店員が消えると、俺はもう一度頭の中を整理していた。客室にある時計は、元の世界とほぼ同じで12時の少し前をさしている。


 まずは部屋の中を物色しその後で自分の事を調べてみた。

 すると腰の前に空間の切れ目みたいなものが見つかる。


 触ってみると空間の中に手が入り、その中に何かが入っている感触があった。

 

 四角くて薄い紙のようなものが何回か折られていた。


 手紙だった。


『秀人君。私が与えた才能について、要点をあらかじめ書いておきますね。

 と思ったんだけど、忘れるわけもないので、やめておきますね。

 ……念の為、最も重要な事だけを伝えるね。


 ステータスオープン的な事を念じるとウインドウがでます。

 ガイアを救うというお願いを叶えて貰うわけですから、転移には特典がいっぱいあります。

 秀人君本人だけですが、異世界の物を現実世界に移動させた時に、現実世界で正規に生産された物として変換され、自動的に登録もされます。その逆も同じです。そこから発生したお金の流れも正規のものとして変換され一生疑われる事もありません。それでは、良い旅を。』


 日本に戻れるんですね。俺は思わず神様に祈っていた。


「すみません。全部忘れてます。……神様が心配性で助かりました。」


「ステータスオープン。」

 

 ステータス画面を確認する。


『名前 秀人 鬼宮  Lv1 

 人種:人 紋:無し

 職業 格闘家

 

 HP12 AP31289 SP16 MP0

 攻撃力4 魔力0 防御12 魔防0

 攻撃速度4  装備重量8 会心0.3% 会心ダメ8

 

 筋力2 知力4 体力3 守6

 精神5 器用4 素早さ2 運1

 

≪ 天性(ネイチャー) ≫

 究極(アルティメット)生産(クラフター)

 

≪ アビリティー ≫

 究極変換

 究極刀匠

 

≪ スキル ≫ 

 【分身(アバター)

 【全言語理解】

 【異世界変換】

 【刀鍛冶】

 【刃材質上昇】

 【アイテムボックス∞】

 【 職業(ジョブ )選択(チョイス)Ⅳ】

 

≪ 武 技 ≫

≪ 職 技 ≫

>  

≪ 生産技 ≫ 

> 

≪ 魔 法 ≫


≪ 獲得職業 ≫

 真農民 極鍛冶師 極錬金術師 極彫金師 極鎧細工師 極木工師 極縫製職人 極薬師 極採掘師 極採集師 極剥取職人 オーナーシェフ 極鑑定士 豪商 トップデザイナー アイテムマスター極 転職神官 ジョブマスター……


≪ 称号 ≫

 異世界人

 

≪ ギフト ≫ 

 誠実

 コンボ:MP0』


「ガイアを救うって魔王討伐とかかな。だとしたら……神様のお願いと、俺に与えられた能力に少し違和感がある。」


『所有ジョブ

 真農民 極鍛冶師 極錬金術師 極彫金師 極鎧細工師 極木工師 極縫製職人 極薬師 極採掘師 極採集師 極剥取職人 オーナーシェフ 極鑑定士 豪商 トップデザイナー アイテムマスター極 転職神官 ジョブマスター……』

 

「戦闘に関係ない気がするけど、職業が物凄く多い。……でも、特典は今の俺に都合が良い。友達だって連れていけるんじゃ。」


 少しテンションを上げると、またいつもの妄想が邪魔を始めた。


 ―― 相変わらずきもいな 友達いねーじゃんお前 ――

 

 これは誰かを殺したい時のいつもの妄想ではない。こっちは過去に剣崎に言われた言葉などを持ち出したり、いつも俺を責める妄想の方だ。俺が何かを行動をしようとすると、もう一人の自分が呪いのように邪魔をしてくる。


「……うるさい。」

 

 ――興奮するな。お前にいったい何が出来る? 無能 無知 弱虫 卑怯者 お前にはどうせ何も出来っこない ――


「……もう……やめろ。」


―― 無理だよ 何もしてないからその体なんだろ

  ぶくぶくと太りやがって、でもサンドバックにはちょうどいいかあ? ――

  

「今回の俺は違う。もうお前には邪魔されたくないっ。」


―― 違うだろ 今までもさんざん失敗してきたじゃないか 

  お前の敵は挫折だ 何かをやればお前は必ず失敗する ――


  

「はぁはぁはぁっ。……頼むからもう消えてくれ。」

 



 俺のせいで、香織姉ちゃんが無理をしている。それを考えたら、何度失敗してもやり遂げる。毎日毎日暴力を我慢する事に比べたら、失敗なんて恐れる事じゃない。


 

 ―― どうせ無…… ――

 


 少しだけ冷静になった。気分を落ち着かせる。


 すると声が消えた。

 

 俺は手紙のあった空間に、もう一度手紙をしまおうと思った。


 だが、その時点でふと疑問がうまれる。その空間はいったい何なのかと。そこでもう一度ステータスを確認する。今度はスキルの情報など名前にも注目し詳細に確認した。


「やっぱりアイテムボックスだった。」


 アイテムボックスの中をまさぐると、いろいろなものが入っている手応えがあった。集中して探していると空間の中に入っている物がなんなのかその情報ごとイメージ出来る。


「大丈夫だ。これなら、きっと助けられる。」




「それに。ジョブにスキルにレベルアップ。……この世界なら、あの子に誓ったように、誰よりも強くなれるかもしれない。」


 

 


 ―― 臆病者(カワード)のくせに ――

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