君待ち猫
「にゃーん」
誰もいない部屋で、ゲージの中で1人待つ猫がいました。
「にゃーん……」
誰もいないのに、玄関の方を見ながら1人で鳴いています。
「にゃにゃにゃーん」
部屋はすでにカーテンが閉めてあります。
電気がつけてあるので暗くはないですが、猫は感覚とお腹の空き具合でもう日が沈んでいることが分かりました。
さっきまでお気に入りのハンモックに揺られて寝ていましたが、ふと目を覚ましました。
どこかで、ガチャリと家のドアを開ける音が聞こえたからです。
猫の家族はそんなに早くは帰ってこないと分かっていても、それでも少しだけ期待してしまいます。
「にゃーん……」
早く帰ってこないかな。
早く帰ってこないかな。
「……ぶるにゃん」
それでも動かない玄関のドアにしょぼくれて、猫は再びハンモックに体を委ねます。
「……にゃーん?」
そのあとも、マンションの住人が部屋を通り過ぎたり、他の部屋のドアが開く音がするたびに猫は顔を上げます。
ですが、自分の部屋のドアだけはなかなか開いてくれません。
「……ごろにゃーん」
猫は諦めて、壁の方を向いてふて寝することにしました。
その時、
ガチャ。
「たっだいま~!!」
「にゃーん!!!」
待ちこがれた家族のお帰りです。
「にゃにゃにゃ、にゃにゃーーん!
ごろにゃーん!!」
「はいはいはい、ただいまただいま。
良い子にしてたー?
そーなの?
そーなの!
ちょっと手洗ってくるからねー。
すぐご飯用意するからねー」
「にゃおーーん!」
猫は自分のご飯を取ってきてくれる家族を労います。
「はいはい、お待たせ~。
ゆっくり食べな~」
「にゃ、にゃ、にゃふにゃふ!」
猫は美味しそうにご飯を食べます。
いつも帰ってきたらすぐにご飯を用意してくれるから、猫はこの人が大好きでした。
「食べ終わったの~?
あら、毛繕いしてるの?
そうなの?
そうなの~。
お水も飲むんだよ~」
「にゃふん」
猫はお水も飲んで、口の周りを舐めてケアします。
それが終われば甘えんぼタイムです。
お膝に乗って、撫でろとせがみます。
普段は気分じゃない時はあんまりしつこく触られたくないけど、今だけは違います。
長い時間頑張って待っていたのですから、これぐらいのワガママは許してもらえるでしょう。
「ごろにゃーん。
ごろごろにゃーん」
「はーい、よしよし。
ちゃんと待ってて偉いねー。
あなたは天才ねー」
ナデナデタイムが終わると、どうやらお風呂に入るようです。
「にゃーん」
猫はお風呂までついていきます。
「お風呂だよー。
一緒に入るー?」
「……ぶるにゃん」
「やなのー?」
お風呂は嫌いでも、猫はドアの前で出てくるのを待ちます。
「いま洗ってるから、もうちょっと待っててねー」
「にゃーん」
体を洗い終わると、ドアを開けながら湯船につかってくれます。
顔が見えるだけで猫は安心です。
「今日はどんな1日だったのー?」
「にゃんにゃんにゃにゃんにゃーん」
猫は一生懸命に今日のことを伝えます。
「ふーん、そっかそっか。
全然わかんないねー」
「……ぶるにゃん」
しかし、それが伝わったことはありません。
「私は今日はねー……」
「にゃんにゃん」
なんて言っているのかは分かりませんが、猫はこうやって話をしたり聞いたりするのが大好きです。
「よっし!
じゃー、寝よっか!」
「にゃにゃーん!」
お風呂上がりにしっかり遊んでもらったら、一緒のお布団で眠ります。
猫はまだそこまで眠くはなかったですが、お布団の中はとっても暖かいので、すぐに眠くなりました。
安心するからというのもあるのかもしれません。
「じゃ、おやすみ~」
「にゃ~ん」
そして、2人は夢の中。
星降る夜に、2つの寝息。
今夜はどんな夢が見られるかな。
うちの猫もこんな感じ……だったらいいなぁ。