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建国神話と御伽話

「今から遠い昔のこと。この地に五人の若者がやってきました。はるか西の国からやってきた彼らは、立ち寄った村でこんな話を聞きました。


『あの大きな山には恐ろしい竜がいて、山に立ち入る者をみな喰らってしまう』


『隣の村では娘を生贄に寄越せと言われたらしい』


 腕に自信のあった五人は、その恐ろしい竜を退治しようと決めました。


 そこは岩だらけの、高くそびえる山でした。竜はその頂上に棲んでいるといいます。


 どんどん頂上に向かって登るうちに、疑問に思います。


『この山は、生き物が暮らせるような山ではない。そんな山に棲む竜が、生き物を喰らうだろうか』


 西から来た彼らは、何も食べなくても生きることが出来る存在を知っていました。守護獣です。

 守護獣は地脈を流れる大いなる力の源。肉ではなく霞を喰らって生きていると言われています。


 果たして、たどり着いた山頂に、その竜はいました。


 美しい紫色の竜でした。そして、彼らの思っていた通り、その竜は守護獣の一匹だったのです。


 竜は言います。『ただ在ることを望む』と。

 それを聞いて、五人の中で最も強い者が言いました。『ならば私がこの場所を守ろう』。


 五人は一度山から下り、周辺の村をまわって竜が悪いものではないことを説明していきました。悪い噂は嘘であることも突き止めました。


 竜は大変喜びました。そして、彼と約束をしてくれました。

 竜の居場所を守ってくれる限り、竜も同じように彼を守ると。


 そして彼はこの山とその周辺を守る王様になりました。

 彼の名は(しょう)(はん)

 東菖竜国(とうしょうりゅうこく)の最初の王です」





「……へぇー」

 パチパチと手を叩くと、本を読んでくれていた檀子女(だんしじょ)は笑った。

「これがこの国の最初のお話。殿下のご先祖様のお話ですね」

「そっかー」

 とりあえず子供向けの本を女官に読んでもらえと白永(はくえい)から何冊か送られてきたので、檀子女にお願いしてみた。彼女は私のご先祖様の話から選んでくれた。

 母上もこの国の昔話は知らなかったらしく、刺繍をしながら興味深く聴いていたようだ。

「それからずっと王様が続いてるんだね?」

「はい。豊かになった山の麓の村々に襲ってくる者を追い返して更に攻め込んだり、自分の村も守ってほしいと言われたりしてどんどん領土が大きくなっていったのですよ」


 なるほどね。守護獣と約束した、っていうのがここの王の正当性なんだな。古代王権のテンプレは異世界でも有効らしい。


「次はどの本が良いですか? 昔話が多いですが」

「うーん。じゃあこれ」

 読めないので適当に指さす。

「ああ、これは娘を攫う妖獣の話ですね」

「……攫われるの?」

 チラと母親を見る。一族滅ぼされて母だけこの後宮に押し込まれたって、見ようによっては誘拐だよね。大丈夫かな。

 私の心配を察したのか、檀子女は本を開かずに概要だけ教えてくれた。

 その妖獣は人間の娘を無理やり嫁に貰っていくのだが、その方法が「名前を知ること」。妖獣的に娘の名前を得ると嫁になると同義なのだそうだ。

 とある町でその妖獣が何年も来るので、対抗策として娘の名前を隠すことを決めた。それが国全土に広がって、今の風習になりました、と。

「たとえばわたくしの檀子女、というのは『檀家の長女』という意味です」

「あ、そういうことなんだ。それだと、甫三女(ほさんじょ)は甫家の……」

「はい、『甫家の三番目の娘』ですね。もっと上位貴族の娘ですと呼び方が少し変わりまして、たとえば『(ろう)家の長女』なら『浪子姫(ろうしき)』となりますね」

 名前にしては変だし、官職名かと思っていたがそういう風習なのか。()(あざな)が別にあるし、真名を知られると操られるみたいなものがあるのだろうか

「女当主や、高官に昇進しどうしても名が必要な場合は仮字(かじ)を使いますが、基本的には家族しか娘の名は知りません」

「字の更に仮名ってややこしくない?」

「それだけ妖獣が脅威だったのですよ」

「……その妖獣とは、【惚れやすい馬獅(ばし)】のことかしら?」

 そこまで聞いていた母親が、首を傾げながら会話に混ざって来た。

湖側妃(こそくひ)の故郷にも似たお話がおありですか?」

「いましたよ。十年に一度くらいは来てたのではないかしら」

「そんな来るの?」

 思ったより身近な妖獣だった。

「まあ、大抵泣いて帰ったらしいけど」

「え?」

「な、泣いて?」


「惚れやすくって『僕のお嫁さん!』って名前を連呼してくる五月蝿い獣で。『夫となるなら自分より優秀でなければ』と言って勝負に持ち込むと、負けて泣いて帰ります」


「勝負って?」

「自分が得意なことで勝負をするのでこちらに有利ですね。私の故郷では刺繍対決をすれば基本問題なかったです」

「……妖獣に、刺繍対決……」

「刺繍に長けた者が多かったですから」


 檀子女の頬が引きつっている。笑えばいいのかドン引けばいいのかわからないという顔だ。気持ちはわかるが。どんな姿をした妖獣なのかは知らないが、そりゃ負けるだろ。何故勝負を受けるんだ。

 私もそれ以上何を言えばいいのかわからなかったので、話を変えることにした。

「檀子女、妖獣は普通の獣とどう違うの?」

「……体内に龍力を貯めることが出来る獣を『妖獣』と呼びます。龍力で人間の言葉も理解して喋ることが出来るものもいるのですよ。話が通じるほどのものはほとんどいませんが」

「通じる獣もいる?」

「いますが、通じるものは大体『霊獣』ですね」

 龍力があるかどうかで分類が変わっていると考えてよさそうだ。とすると、その頂点が守護獣なのだろうか。

「こちらに霊獣の説明本がございましたよ。ご覧になりますか?」

「見ます!」

 いろいろ面白い話があって困る。やはり早く文字が読めるように白永に教えてもらおう。

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