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序列の儀

あけましておめでとうございます。

 私、小陽(しょうよう)は五歳になった。

 誕生日は正月にまとめて祝われる。数え年方式なんだね此処。

 小陽史上、一番豪華に祝われた。まあ今までが酷かったので一番にもなる。母親からのプレゼントは母が刺繍した衣服だった。

 いやこれがすごいのよ。びっくりするくらい細かく華やかに、それでいて派手に見えないように刺繍されてんの。布地の色と同じ糸で刺繍とか中々の高技術。これ売ったほうが儲かるのでは? 将来のために私も習ったほうがいいかな? と思ったもんね。




 そして正月からひと月くらい経ったある日。

 私はその華やかな服を着て、王宮で輿に乗って移動していた。


 お召替えを、などと言われて用意された母親からのプレゼントに首を傾げ、髪の毛も綺麗に結われて更に首を傾け、手を引かれて行ったら玄関前に輿と十数人の人間が居て仰天した。

 王宮で輿に乗るとか本当にあるのか……と揺られながら現実逃避しているのが今ココ。ちなみに輿は四人で担いでいる。他の人は前後を囲んで歩いていた。


 着替えてるときに女官に今日は何なのか聞けばよかったと後悔する。普通の五歳児なら突然知らない人たちに囲まれたら泣くぞ。……そういや私、子供っぽくは振舞ってたが愚図ったり泣いたりしたこと無いな。ある意味信頼された結果かこれ? いきなり放り出しても大丈夫だろう、ってこと? その弊害?


 とりあえず黙ったまま揺られていると、王宮内なのかと思うような岩肌が露出した場所にやって来た。

 よく見るとその岩の一部に洞窟の入り口があり、その手前の開けた空間で輿が降ろされる。恐る恐る出ると、すっと近づいてきた男が目の前で頭を下げた。

「お待ちしておりました、(よう)殿下」

「アッハイ」

 思わず返事したがこれでいいのだろうか。……ちなみに私は「小陽」と呼ばれているが、本名は「陽」だ。多分幼い子には小さい、って付けるんだろう。そのうち別に(あざな)がつくのかもしれない。

「では、参りましょう」

 私の間抜けな返事には何も言うことなく、男は手を差し出す。そっと重ねれば、そのまま私の手を引いて洞窟の奥へと歩いていった。

 洞窟は暗い……なんて事は無く。等間隔に明かりが灯され、更に岩の所々が結晶化していて輝いていた。王宮でなければ、宝石の採掘場か何かと思っただろう。


 それほど歩かずに開けた空間に出る。

 そこには豪華な椅子が一脚、それよりは劣るがまあまあ高そうな椅子が八脚。円座になるように置かれている。

 その中央には水晶で作ったのかと思う透明な机があり、紫水晶の球体と紙が乗っている。

 そして、壁周辺には私の手を引いている人と同じ格好をした人々がたくさん立っていた。

 私をまあまあ高そうな椅子のひとつに座らせた男は、そのまま壁の人たちに混ざって立った。


 ……何が始まるんでしょうか。何に参加するんでしょうか私。多分あと八人来るんだよね?


 とりあえず、なるべくキョロキョロしないように注意しながら黙って座っていることにした。しばらくすると、何やら壁際にいる人達の何人かが感心したように見てくる。うん、五歳児の割に大人しいよね。えらいよね。

 そうしているうちに、次々と少年たちがやって来た。多分、五歳から十歳くらいだろうか。綺麗な服を着て、やっぱり壁際の人たちと同じ服を着た人に先導されて入ってくる。

 どうも椅子は年齢順らしい。入ってくる順番は違うけど。私の隣に座った同い年くらいの男の子はすでに泣きそうである。始めるなら早くしてあげて! この子そんな耐えられなさそうよ!

 そして最後に一番年長者らしい少年が座った途端、壁際の人たちが一斉に頭を下げた。そして。



「――芳玄王(ほうげんおう)陛下の御前である」



 その言葉が響いた後、歩いてきたのが、剣を腰に佩いた男であった。


 ……ははん、なるほど。あれが母上をドロドロの後宮にポイした王様だな?

 少年たちが誰も頭を下げていないのを確認した私は、じっくりその王様を眺めた。

 ゆったりした服を着ているのだが、首の太さなどから考えると筋肉質な体形だとわかる。そういえばこの国、領地拡大中とか言ってたけど、めっちゃ戦えそうな王様も遠征してるのかもしれない。王様の後ろには従者がひとり、黒い柄の槍を恭しく持って従っていた。剣だけじゃなくて槍も使うのかこの王様。

 王様は思ったより速足で一番豪華な椅子に座ると、椅子にいる私たちを見渡した。

「――我が息子たちよ。これより序列(じょれつ)()を行う」

 そうか、なんとなく予想はしてたが、この子たち私の異母兄弟たちか。……ん? 序列の儀?

 ここで私は去年、雷と出会った時にそんな単語が出たことを思い出した。


『序列の儀を迎えるまで、御身が傷つくようなことは二度と起こりません』


 これが序列の儀。……え、何するの?


 すっと王様の横に立った男……儀式の管理をする人っぽいので儀官(ぎかん)とでも呼んどこう。その儀官が、分厚い紙を掲げる。

「第一王子、(ゆう)殿下」

 一番年長に見える少年が立ち上がり、水晶の机の前に立つ。……そうか、呼ばれたらそこに行けば良いのか。よかった、一番に呼ばれなくて。

 ほっとしていたのもつかの間。――机の上の紫水晶から閃光が走って危うく叫びそうになった。光るとか聞いてない。

 隣の子がとうとう泣き始めたよ。すぐさま壁際から別の儀官が来てあやしたけど。私のほうもチラと見られたが、とりあえず頷いてみせたらほっとしていた。この状況で私まで泣いたら困るだろうね。

 視線を長男(多分)に戻すと――机の上に置いてある紙に、誰もいないのに文字が書かれているところだった。


 あらやだ、突然のホラー。思わず目を瞠るが、誰も動揺していない。この国では普通なのだろうかこれ。自動書記?


 やがて文字が書かれるのが止まり、儀官のひとりがやってきてその紙を持ちあげる。ざっと内容を見て、その後王様のところに持って行った。

 受け取った王様も中身を見たのだろう、頷いて傍の机に置いた。

「第二王子、(かん)殿下」

 特に何も言及なく、次の王子の名が呼ばれた。順番としては私の次に来た人だ。

 机の前に立つと同じように水晶が光り、勝手に文字が書かれていく。書き終わったら儀官が回収していく。

 それが繰り返され、そして。


「第七王子、陽殿下」

 私の名前が呼ばれた。


 そっと立ち上がり、机の前に立つ。……もう最初から目を瞑っとこう。ここで目を焼かれたらやばい。

 瞼越しでも光ったのがわかる。それが収まったのを確認して恐る恐る目を開くと、ちゃんと文字が書かれていくところだった。……全く読めない。いや、漢字のようなのだが、草書体のように崩してあるのでわからない。

 そうこうしている間に儀官がやってきた。王子ごとに違う儀官が来るが、今度は糸目の兄さんである。恭しく紙を持ち、同じように内容を見る。


 ――次の瞬間、糸目がガッと見開かれたのを見てビビった。


 え、何事。何かおかしなこと書いてあったの。ていうか何が書いてあるのそれ。

 糸目の兄さんはすぐに糸目に戻ってそのまま王様のところに行ってしまった。


 やだな、実はあれ私の心の声が書かれてるとかないよね? 為人をつまびらかにする、とかじゃないよね? その場合半分くらい父親に対する文句が書かれていることになる。やばい不敬罪になるよ。


 違うことを祈りつつ、そっと椅子に戻った私。……次に呼ばれた第八王子は涙目のままだった。


 そして八枚の紙が王様の前に集う。

 じっとその紙を眺め――王様は笑った。

 儀官が差し出した筆をとり、何やら書き始めた。そしてその紙を横の一番偉そうな儀官に渡す。

「――これより、立宮(りつぐう)の宣言をいたします」




「第一位、第三王子。黒曜宮(こくようのみや)


 ……突然日本っぽい名称が来たんだけどどうした。(みや)なの? 訓読み?

 いやそういえばたまに日本語っぽいの混ざってるよね。(かわや)とか。


「第二位、第四王子。翠園宮(すいえんのみや)


 一位とか二位とか言ってるけど、年齢順ではない。何基準なんだろうか。あの紙? あの紙見て王様が今決めたの?


「第三位、第七王子。碧晶宮(へきしょうのみや)


 序列って言うくらいだから何かの順番か……年齢順以外に何を決めることが……ん?





 今、第七王子って言った?

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