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旗の知らない物語~浪百永~

他者視点です。


本日中にもう一話投稿します。

 ――ようやく一区切り付いたので、筆を置いて深く息を吐く。


 大きな行事にはいつも大量の後処理があるが、ここ二年は白永が三宮の師傅になった為更に増えた。

 いや、最初の年よりはマシではある。あの時は酷かった。何しろ王妃に惑わされた奴らが三宮の礼服を届かなくした。はっきり言ってあんな拙い手口にやられるとは思っていなかった。王妃は幻術の才能があったらしい。

 戸部尚書が責任を取って大鉈を振るったので実に綺麗にはなったけれども。勿論浪家も便乗した。舐められる謂れはない。馬借も廃業したし、手を切りそこねた仕立て屋ももうすぐ無くなるようだ。まあ王家の品を届け損なうような業者は潰されるのが当然だろう。

 王妃が守ってくれると思ったのなら、酷い思い違いだ。最も信用出来ない類の女である。



 今年の三宮の礼服は、他の宮様方よりよほど良い出来だった。

 縹色(はなだいろ)の上衣は金の花の刺繍が散りばめられ、派手さは抑えても相当な職人の作だというのがわかった。多少女性好みの意匠ではあったが、御年七歳の三宮であれば問題ない柄である。

 ……側妃の手製なのだが。最初聞いたときは正気かと疑ったが。

 湖側妃はどこかの土地を治めていた族長の娘だったはずだ。白永から聞いた話では生地から刺繍まですべて一族で作っていたとか。彼女であの腕前だったらその一族も相当の職人集団だったのではないだろうか。

 自分には戦の何たるかはわからないが、酷くもったいないことをしたのではないかと思う。族滅の上後宮入りではなく、適当な官吏に娶らせて一族郎党働いてもらったほうが良かったのでは?


 ……もう遅すぎるのだが。


 もう一度ため息をつき、別に置いておいた手紙を手に取る。

 件の弟からの手紙だ。引退した(りょう)元将軍に三宮の稽古をつけてもらいたいから、一筆書いてくれという内容。

 白永はあそこの長男と交友があった。その縁で受けてくれると踏んでのことだろう。数年前に長男が出奔して行方不明になってからは遠くなってしまっていたから、一筆は念のためか。


 ……しかし、筆跡からも楽しそうなのが伝わってくる。陛下の側を離れてからは鬱屈した様子が多かったが、三宮の師傅が思ったより天職だったらしい。

 三宮がどうなるかは不明だが、分家させて王子の傍にずっと置いておくほうがいいかもしれないな。兄上にも相談してみよう。




『ところで三宮様の土地経営練習で雁雀(がんじゃく)って使えると思います?』


 ……経営失敗しても心が痛まないところを選んできていると笑うべきか、失敗すること前提で言っているのかと疑うべきか悩むところだな、これは。

縹色はなだいろ

藍色よりも薄く、浅葱より濃い色。藍染の色名。

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