表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

菖文陽

 無事に最初の公務(穀雨祭出席)を終わらせた私――小陽。


 字が文陽(ぶんよう)になった。


 以前に教わった通り、この国はある程度成長したら字で呼ばれるようになる。

 私はまだ五歳だが序列第三位という立場であること、あと穀雨祭もなんだか落ち着いていたので字くらい早めにしても問題ないのでは、と父王の周辺で話があったらしい。


 決して礼服についての詫びではない。多分。

 後手に回ってしまい舐められたら終わりな浪家と、王妃と無関係だと示すのに忙しい戸部尚書が人事に大鉈を振るったのは関係ない。……多分。


 とにかく、白永の挨拶に則って言えば姓名が【(しょう)(よう)】、字が【文陽】となった。

 もっとも王家は全員菖姓であるのでほぼ名乗ることはない。私がもし名乗る必要があった場合は「碧晶宮文陽である」という風になる。


 字の由来は、とてもわかりやすく【文書殿の陽殿下】で【文陽】。

 字の付け方の法則は様々で、家に代々伝わる字を使用することもあれば、周囲が呼び始めて定着する字もある。

 例えば浪家の当主は代々【万永(ばんえい)】を名乗り、他の息子も【永】を使用する。現在次男は【百永(びゃくえい)】、そして三男が【白永】らしい。

 一方第二王子の華環は【華やかに美しい環殿下】である。幼いころから美少年だったようだ。


 ちなみに紫由の字の由来を聞いた時の白永との言葉がこちら。


「ああ、『セウト』です」

「はい??」


 変な言葉が聞こえたね? 幻聴ではない。


 穀雨祭の控室で色について疑問を持った私だが、白永に尋ねたところやはり勉強するべきだった。

 王様も宮様も象徴色がある。貴族は自分がどんな色を使用するかでどの宮の派閥かを主張する、なんてことが昔からよくあるそうだ。

 商人も貴族と取引する際に種類を覚えておけば商談が有利に進む可能性が高い。

 まあ普通の庶民は服の色など気にしないのでこの国の基礎知識とは違う、とのこと。庶民は古着を使いまわすのが一般的だ。


 宮様は宮様で、自分より序列の高い色を使うのは基本控えるべき、という慣例がある。


 つまり、王子が【紫】を使うのは控えるべきなのだ。それが字なら、なおさら。

 では何故許されているのかというと、ここでも王妃が関わってくる。


「本来ならお叱りがある事態ですが、霜王妃の頑固な主張に陛下が負けた結果、【紫花殿(しかでん)の由殿下】ということで無理矢理通しました」


 紫花殿は王妃の代々の居殿で、後宮の中でも(王が行きやすいように)入り口付近にあり、王子が同居しても問題ない構造。

 なので【紫花殿に住んでいる由殿下】で【紫由】って呼び名だよ、ってことで通したらしい。……王妃の思惑はともかく。

 今後うまく付き合っていけるだろうか。不安しかないんだが。




****


 ある日授業が終わり内殿に戻ったら、紫の服を着た男が帰ろうとしているところに出くわした。


 芳玄王(ほうげんおう)刃至(じんし)


 私の父親である。


「……お久しぶりです父上」

「息災か文陽」

「おかげさまで」

 竜巣籠が終わり、再び遠征に出発する前に妃たちを巡っているらしい。

 今までは私の母――湖側妃のところなど無視していたが、序列第三位だからね私。挨拶に来ない訳にはいかなかったんだろうね。

 母上と話し終わった後みたいだからそのまま去るのかなと思ったが、動く様子がない。内心首を傾げる。

 そういえばこんな間近で父を見るのは初めてだ。遠目からもガッシリした体形だなと思っていたが、改めて見るとスポーツマン系の精悍なイケメンである。いや血生臭い戦いをずっとやってるのだろうけども。


「……白永とは上手くやっているか」

「えっ? あ、はい。たくさん教えてもらっています」

「座学は得意な男だ、よく学ぶといい」

「……師傅とはお友達でした?」

「私は座っているのが苦手でな、学友でもいればまだ良くなるのではと師傅に連れて来られたのが奴だった」

 思っていたよりちゃんとした知り合いだった。というか、体育会系あるあるの座学苦手が父にも当てはまっていた。

 感心している私を置いて父王は歩き始めた――が、もう一度立ち止まる。


「白永に任せておけば何も心配はいらんが、奴の悪癖だけは覚えるなよ」

「え?」

白永(アレ)は『わざと失言して相手の反応を楽しむ』という酷い癖があるからな」


 そう言った時の父の顔は内容とは裏腹に――初めて見る柔和な表情だった。



 今まで私と母のことなど気にしていないと思っていた。

 けれど、そんな顔が出来るような友人を貸してくれるくらいには、大事にされていたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ