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熊谷に息づく死体処理の伝統を訪ねて

埼玉県熊本市、埼玉県の北部に位置するこの町は人口19万人を擁する比較的大きな都市だ。しかし中心地から車を走らせること15分ほどで豊かな自然が顔を覗かせる。鈴木秀次さん(74・仮名)は熊本市北部の山間部で死体処理業を営む数少ない死体処理師の1人だ。日焼けしたしわくちゃな肌から覗く細い目と、はにかんだ時のえくぼがチャーミングな好好爺だ。

「最初は怖かったですよ、でも要は慣れだね。何でもそうだけど、一番大事なのは経験を積むこと」

今朝処分したばかりの遺体を切り刻みながら鈴木さんは最初に死体を処理した時のことを懐かしそうに語ってくれた。

「数十年前にちょっと知人と金銭トラブルがあってね。相手が返せないっていうからやっちゃった。体はドラム缶の中で焼いて川に流した。人間なんて死んじゃえば石ころと変わんないんだね。ほんと、一緒ですよ。」

最初の死体処理を行なった時、妻の香苗さん(69・仮名)が考案したのが、遺体を埋めても骨は残ることから、焼却してしまうという手法だった。しかし、遺体をそのまま焼くと異臭が発生するため、解体して骨のみを焼却する。この「死体を透明にする」という手法が見事にあたり、当時たくさんの受注につながったという。

「当時は羽振りが良かったね。と言っても仕事、仕事で遊んでる暇もなかった。でも自分がナンバーワンだっていう自信があったから辛くはなかったよ。当時は死体処理の世界で一番の男になりたいと思っていた。人間なんでも一番にならなきゃ駄目だ。死体にかけては俺がいまナンバーワン。そう自分に言い聞かせてたね。」


鈴木さんに死体の処理を実際に見せてもらった。まず死体を風呂場で解体する。骨・皮・肉・内臓に分けられた上、肉などは数センチ四方に切断。骨はドラム缶で衣服や所持品と共に、灰になるまで焼却され、それらを全て山林や川に遺棄する。これらの作業を慣れた手つきで手際良く進めながら、鈴木さんは死体処理のコツを語ってくれた。「臭いの元は肉なんです。だから焼く前に骨と肉をバラバラに切り離さなきゃならない。骨を燃やすのにもコツがいってね、燃え残りが出ないよう、1本ずつじっくり焼く。遺体がなくなってしまえばただの行方不明ですからね。証拠がなくなるまで細部までこだわってやってます。そうじゃないとお客さんも納得してくれませんから。」


そんな鈴木さんの生活に変化が訪れたのが、25年前の熊谷合併だった。当時未開の辺境であった熊谷北部が日本政府によって埼玉県熊谷市に編入されたのだ。事実上の「占領」だった。熊谷北部には日本国の法律が施行され、熊谷には今までなかった「法の支配」と「人権」がもたらされた。その結果、鈴木さんの仕事は「殺人」と「死体遺棄」にあたるとして違法とされてしまったのだ。


「合併後は仕事はめっきり減りました。数少ない昔のお客さんが仕事を回してくれてね。ありがたいなと思いましたね。今でも口コミで月に何件か依頼が来て、なんとか食べれてますね。それでも昔に比べてたらひどい有り様だけどね。甥っ子にこの前インターネットを教えてもらったんで裏サイトで募集してみようかとか色々考えてます。」


現在は暴力団と宗教団体の固定客を相手に細々と生計を立てているそうだ。生活保護を貰うという選択肢もあるが、鈴木さんは立っていられるうちはこの仕事を辞めたくはないという。変わっていく熊谷の中で1人一途に、頑固に死体を処理する鈴木さんの後ろ姿に失われた日本人の魂を垣間見た気がした。


(2021.11.15 社会部 柴田)

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