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婦警さんの恋  作者: AKI
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合コンなんて大嫌い。

雑然とした店内。いわゆる大衆居酒屋の一角で自己紹介が始まる。まずは男性陣から。


「山崎武志です。神戸電機で技術者をしてます。」

「橋口貴です。同じく、神戸電機です。山崎とは違う部署ですけど、同じく技術者です。」

「上村健一です。俺は会社やってます。小さいですけど、一応インテリアのお店構えてますんで、興味があったら是非お越しください。」


 男性陣の自己紹介に、女性陣が思い思いの感想を漏らす。


へーすごい。大手で勤めてらっしゃるんですねー。

技術者って、どんなことされてるんですかー?

すごーい。社長さんなんですね。インテリアのお店ってどちらにあるんですか?


 普段よりも声のトーンを上げて男性陣の情報を引き出そうとする。年収も是非聞いてみたいところだが、流石に序盤からそんな不躾な質問はできない。


 男性陣の職業で一通り盛り上がったあとは、女性陣の自己紹介だ。


「マキです。日赤で看護師しています。」

「サヤカです。マキちゃんと同じ病院で看護師しています。」

 2人の自己紹介に、男性陣が「オー」と小さく歓声を上げる。いつの時代でも、男性は「看護師」というワードに弱いらしい。

 そして、3人目が自己紹介をする。

「泉絵里子です。公務員をしています。」

「へー、公務員。どこかの市役所ですか?」  

男性陣の一人が質問する。

「いえ、市役所じゃないんです。」

「じゃあ、県ですか?」

「えーと、まあそんなような・・・」 

何とか追求を逃れようと言葉を濁すが、無論、このような場でそんな戦法が通じるはずもない。「えー、何々。どこなの?」と男性陣は追求の手を緩めない。

そして、看護師のマキちゃんが可愛らしい声で正解を発表する。

「この子、兵庫県警なんです。」

 男性陣たちはこの答を全く予期していなかったようで、目を丸くしていた。

「えー!マジで!凄いやんか。絵里子さん、警察官なんや!!」

「え、え。どこの警察署?刑事さんなん?逮捕とかするんやろ?拳銃撃ったことある?」

「うわー、怖いわ。悪いこと出来ひんやんか!!」

 

 予想通りの反応を眼前に、私は心の中で小さく一つ溜息をつく。


 だから言いたくなかったのに・・・


 私の合コン経験は同年代に比べたらかなり少ない方だと思う。片手で丁度数えられる程度しか参加したことがない。


 それでも、その数少ない参加経験から、自分が警察官であると分かった瞬間から男性陣がどんな反応を見せるかは良く分かっていた。


 最初は驚き、興味津々となり、警察に対するありとあらゆる疑問を投げかけてくる。まるで私が警察代表であるかのように。


 交通切符をきるのってノルマあるの?

 やっぱり、キャリアとノンキャリアって仲が悪い?

 小麦粉と覚せい剤って、ペロっとしたら分かるものなん?

 柔道とかできる?


 合コン初心者のころは一つ一つの質問にご丁寧に答えていたが、回数を重ねるごとに適当な返事となっていった。男性陣は、警察官だから警察に関することなら何でも分かっているとでも思っているらしいが、だったら、あなた方は自分の会社のことを何でも分かっているんですかと問い返したいが、女子力を自分から下げるような言葉は口にしない。


 百歩譲って、質問責めにあうのはいい。男性陣は確実に食いついてくるし、話題も間違いなく盛り上がる。


 けど、いつもそこ止まりだ。


 男性陣は、警察官である私に食いついてはくるが、警察官であることに興味を抱いているだけであって、女性としての魅力を感じて話かけているわけではなかった。

 案の定、この日の合コンも当初は警察ネタを中心に話は盛り上がっていたが、男性陣の触手は次第に看護師であるマキちゃんとサヤカちゃんへと移っていき、気づけば視線はその2人へと集まっている。

 やっぱりこうなるか。


 皆で二次会に行こうという話になったが、明日も仕事があるからと言って辞退する。


「明日休日やのに仕事なんや。やっぱり警察官って忙しいんやな。」

「それでは、頑張って町の治安を守って下さい!」


 男性陣は敬礼をしながら軽口を叩く。


 マキちゃんが

「折角だから、一緒に行こうよ。」

 と小声で誘ってくれたが、惨めな結果になるのが見えていたので、「ありがとう。また誘ってね。」と社交辞令を言ってそそくさとその場を離れて行った。


 兵庫県最大の繁華街である三宮。週末ともなると駅周辺にはお酒を求めて彷徨う人々と、それを自店に招き入れようとする店員の方々でごった返している。

 私はその人込みをかき分け、西へと向かった。別に一人で飲みなおそうというわけではない。運動と酔い醒ましを兼ねて一駅分歩こうと思っただけだ。


 ふと、繁華街の裏路地方面から言い争う声が聞こえてきた。反射的に足が止まる。

 今は勤務中ではない。無視して立ち去ろうかとも思ったが、「しばくぞ!」「お前なめとんか!」等々、なかなかに物騒な単語が聞こえてきた。


 仕方ないなー。


 行き交う人々が裏路地にチラチラと視線を投げる中、声の中心地へと足を向ける。


「ちょっと、君たち。ケンカは止めなさいよ。」

「ああ!?」

 声をかけてみると、まだあどけなさが残る見た感じ高校生くらいの男の子一人を、大学生と思われる男の子5人が取り囲み凄んでいるところだった。

「何やねん。関係ないやろが。どっか行っとけや!」

 一際ガタイの良い学生がドスを効かせる。足元が微妙に覚束なく、明らかに深酔いしていた。

「ええわ。もう行こうや。」

「うっさいの。離せや!!」

 他の4人は比較的冷静だったようで、つっかかろうとする男の腕を引いてその場から立ち去ろうとしていたが、男は聞く耳を持たなかった。

 そして、その勢いのまま、右てで私の左側の胸倉を掴んできた。

「おい!まずいって、やめろや!!」

 連れの学生たちが慌てて引き離そうとするが、男が聞く耳を持たない。

 私がここで


 キャー!助けてー!誰か警察呼んでー!!


 ・・・とでも言えばよかったのだが、合コンで多少ムシャクシャしていたのと、お酒が程よく回っていたのがまずかった。


 私は左手で男の右袖口を、右手で左側の胸倉を握りこむと、そのまま体を左側に反転させながら男を担ぎ上げて、巻き込むようにしてそのまま地面に叩きつけた。いわゆる、背負い投げというやつだ。いや、正確に言うと「巻き込み背負い」だ。


 その瞬間、男は「グエ!!」と低い唸り声をあげ、そのまま地べたでのたうち回っていた。


しまった、やり過ぎた。


「ご、ゴメンナサイ。大丈夫?頭打ってない??」


 慌てて男に駆け寄て後頭部に手をやる。良かった。血は出ていない。背中を強く打って一時的に呼吸困難に陥っているだけだろう。


「おい・・おい!まずいから、行こうぜ!!」


 騒動を聞いて、周囲にはいつの間にか小さなギャラリーが出来上がっていた。学生たちはまだ呼吸困難に苦しむ男を抱きかかえながら、その場からそそくさと立ち去っていった。


 というか、私もさっさと逃げないとまずい。もしも誰かが110番していたら、直ぐに警察官がやってくる。ここは交番からさして距離もないので、誰かが通報すれば到着まで何分もかからない。


「あ、あの・・・ありがとうございました。大丈夫ですか?」


 その場から立ち去ろうとすると、後ろから声をかけられた。振り向くと、男たちに絡まれていた男の子だった。


 スッカリ忘れていた。


「ああ、私は大丈夫。それより君、ケガとかしてない?」

「はい。僕は大丈夫です。」

「そう、良かった。ただ、子供がこんな場所でこんな時間まで遊んでいたら危ないから。今日でよく分かったでしょう。早くお家に帰りなさいね。それじゃ、私はもう行くから!」

「あ、ちょっと待って下さい!!」

 男の子の声を振り切りその場から足早に立ち去ると、路地を出て何メートルも進んでいない場所で2人組の警察官とすれ違った。危なかった。


 こうして、私の久しぶりの合コンは、空振りな上に中々にハードなおまけつきで終わっていったのだった。

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