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ファンタグレープ

作者: SHIHO

プシュ


「ぷはーー」


嫌なことがあると俺はファンタグレープを飲むと決めている。


ぶどうと炭酸飲料をこれほどまでにバランス良く混ぜ合わせた飲み物はない。俺の心の傷を癒してくれるのはファンタグレープだけだ。俺が死んだら骨をファンタグレープに溶かしてほしい。


昨日は電車で突然サラリーマンにキレられファンタグレープ。一昨日は一日中トイレットペーパーをパンツとズボンの間に挟みながらなんとも不潔な格好で歩いているのに気づかずファンタグレープ。まぁほぼ毎日飲んでいる。


今回は何があったかって?まぁ別に誰もおれに興味なんてないだろうが。


今日は特別な日だった。かねてからオンラインデートを使ってやりとりを重ねていた女の子とご飯を食べに行くことになったのだ。


余談だが、おれはオンラインデートのことを出会い系というのは好かない。そこには一種ネガティブな響きを感じるからだ。海外では普通にネット上で男女が出会い真面目な恋愛をする。結婚につながることだってよくあるのだ。


ワンナイトを期待した程度の低い登録者がいるのは否定しないが、それで全てをひとくくりにしてしまうのが日本人の悪いところだ。


インターネットによって普段全く接点のなかった人たちと関係を持てるのだからこんなに可能性の広がることはない。オンラインデートを非難するやからはお見合いで波田陽区似のブスと結婚すればいい。


少し話が逸れてしまったが、今日はそのオンラインデートで知り合った女の子と始めてリアルで会う予定だった。まぁ察しのいい読者なら想像に難くないと思うが女は来なかった。いやただ来なかっただけならまだよかった。


俺「今ハチ公前にいるよ!赤いシャツを着てる!」


女「えーどこー?」


俺 「花壇の淵に座ってる!」


女「ジーパンはいてる?」


俺「うん!」


それ以来返信はこなかった。


こんなに屈辱的なことがあるだろうか。俺は遠方からルックスを確認され、会う価値がないと判断されたのだ。


帰るか、、


俺の家は古くて狭いワンルームだが

家の前にコンビニがあることが唯一の救いだ。


俺は1ヶ月に1度だけ最終金曜日にこのコンビニでエロマンガを買うことに決めている。


「このご時世ネットでいくらでもエロは手に入るじゃないか」といいたげな読者はおそらく2000年以降の生まれだろう。


かつて私たちの世代ではスマートフォンなどなく、通信速度がやたら遅くバカみたいに高いガラケーだけ。エロは簡単に手に入らなかった。そのころのエロ供給源はたまにやる少しアダルトな金曜ロードショーかもっぱら紙媒体だ。


かくいう俺の初のエロとの出会いも中学時代に兄の引き出しから見つけたエロマンガだった。あの興奮といったらなかった。


コンビニのエロマンガはあの時の新鮮な記憶を思い出させてくれる。エロとノスタルジックの組み合わせは最強なのだ。ふと公園の滑り台に乗りたくなるときはないか?乗ってみたらとても楽しくないか? それと同じだ。


「いらっしゃいませー、あ、今日巡礼日だ、、笑」


店員がコソコソと笑っていやがる。これが巡礼だとしたら、エロマンガは聖地だろうよ。何が恥ずかしいというのだバカ日本人め。まぁいい、このコンビニには男性店員しかいない。男にどう思われようがかまわん。


とはいえムカついたので本日2本目のファンタグレープを手に取り雑誌コーナーへ向かう。


さて今月はどんなエロマンガがあるかなぁと、、なに!!

これは俺の大好きな初音マロン先生の最新作が出てるではないか!しかも数量限定人気声優の小宮山かれんちゃん萌え声オーディオDVDつきだと、、!、、無敵だ。鬼に金棒だ。タランティーノにティムロス、スコセッシにデニーロだ! これは買うしかない、、。


やっぱリアルより2次元だな。


そんなことを思いながら鼻歌まじりにレジに向かったおれだったが、突然足が止まった。ボッキで歩けなくなったわけでない。店員だ。女。女店員。女店員がレジで待ち構えているではないか、、!


なんてことだ!ここに引っ越して来てから2年間一度たりとも女店員の気配はなかったというのに!クソが! しかもちょっと本田翼にだ、かわいい。くそッ!


俺は何か買い忘れたフリをして即座に方向転換をした。幸い女店員にエロマンガの存在には気づかれていないようだ。


「別にそんなに気にしなければいいじゃない」


と思うかもしれないが、女に軽蔑の目で見られるのは一生の心の傷になるのだ。死ぬまで忘れないだろう。


くそ、どうする、、他の雑誌を買って間にブツを隠すか?だめだ余計いやらしい。かといって別日にしてはこのプレミア品が売れ切れてしまう。


くそ八方ふさがりではないか。どうする。どうすればこのエロマンガを無事に救出できる?


まて、冷静になれ。チャンスはある。レジは2つ、店員も2人。列はフォーク式で最前列のの人が空いたレジに入る。女店員の列に入るかは博打だが計算は可能だ、、!


現状コンビニには4人。立ち読みをしているサラリーマン。郵便物を持ったおばさん。ジュースだけ買いに来た野球部あがりのような調子に乗った面構えのおとこ。そして俺だ


一瞬のチャンスを見逃すな、、、


よし、、! 女店員側には時間のかかりそうな郵便物おばさんがいった!


男店員側は野球部がいったぞ!


神は俺に味方した! 聖地は純粋な信仰者を裏切らない、、!!


野球部「え〜と、タバコ17番と〜、あと焼き鳥モモタレあたためでおなっしゃーす〜」


おい!なんだと!バカ野球部!お前は早く行けばいいんだよ、、!


郵便おばさん「ごめんねぇ、年でちょっとよくわからなくて聞きたいんだけど、、」


よし郵便おばさん時間を稼げ!


野球部「あ、あと肉まんもお願いしやっす〜」


バカ野球部!!追加すんな!


女店員「ここだけ書けば終わりですよー」


やばい、くそ、どっちだ、どっちが先におわる!! 、、、!


男店員「こちら温めの焼き鳥ですね!、ありがとうございましたー」



勝った!勝ったぞ!!!!俺は勝ったんだ、、、!!!



男店員「あ、お客様すいません2千円以上お買い上げのお客様に抽選があります、、!」



その日のファンタグレープはいつもよりしょっぱい味がした。

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