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生き急ぐ と 死に急ぐ

「小さな僕と死にたいオレの8分の1」第三話を開いていただき、ありがとうございます! この話は物語の謎に少しずつ触れていく最初の話になっています。一話、二話よりも内容を多くしてみました。今後も一話に三千文字程度にしようかなと思います。ではご覧ください。

「はははは、腹いてぇぇ」

 昼から酒を飲んでいる男たちの笑い声は酒場に響き渡った。

 どうやら俺と逆側の入り口にいる男が笑いの元らしい。

「そこの兄ちゃん達本気で言っているのか? 冗談じゃないなら冒険じゃなくて医者に行くんだな」

 その言葉で男たちはまた笑いだした。

 俺は笑っている男たちよりも入り口にいる男に興味がいっていた。

 年は俺と同じ十六くらいか。

 見た目は伸ばし切った髪に、よれよれのパーカー。身長は俺より高く百八十くらい。

 その男はゆっくり歩き、男たちに近づいていく。

 男たちの前に立ちポケットに手を突っ込み言う。

「殺すよ?」

 え? 今殺すって言った?

「なんだあ? お前ら」

 酒を飲む男は笑うのをピタっとやめ声を低めて言った。

 お前ら? 『ら』ってそれ俺も含められてる?

 ここは誤解を解いとかないと。

「まぁまぁ。俺はこいつと仲間でも何でもないんだ。俺はちょっと田舎から来たもんでこの世界の常識がないんですよ。教えてくれません?」

 最初から喧嘩に巻き込まれるなんてまっぴらゴメンだ。

「はは。この『農作の町』よりも田舎な町があるとはな、やっぱりこの世界はよくわからんな」

「やっぱりってどういうことですか?」

「本当に何も知らないんだな」

「あ、はい」

「……。あれは十七年前だった」

 その男は酒を机に置き話し始めた。

 喧嘩を吹っ掛けた男はもう興味がなくなったのか酒場から出て行った。

 俺は男を目で追いながら説明を聞く。

「前々から恐れられていたクリムゾンライト通称魔王に世界が征服されたんだ」

「この世はもう終わったかと思ったよ。だが幸いこの世界と魔王の間に争いは起こらず、二つの要求だけで済んだ」

「二つ?」

「ああ。一つは国を崩して一つ一つの特別な文化を持った『町』にすること」

 それでここは『農作』の文化をもった町になったってことか

「そして二つ目は意外なもの。『次の言葉を知っている奴が居れば世界の全土地を返還しよう』だった」

「その言葉っていうのは?」

「えーっとな。何て言ったっけ。あーそうそう」

 ──ドクン、ドクン。



「『チキュウ』」

 


「え?! 魔王が地球って言ったんですか?」

 どういう事だ? 魔王も地球から来た人間なのか。

「それで、それで知っている奴は居たんですか?」

「それが居なかった。兄ちゃんはもしかして知っているのか?」

 ──この世界の住民に地球から来たことがバレるのはアウトです。

「……。いいえ、勘違いでした」

 この世界で地球を知るのがいなかった。いや、アウトになる可能性を恐れたのか。それとも……。

「ありがとう、おじさん。よく分かったよ」

 出て行った男に聞きたいことがあるな。

「待って兄ちゃん、君はなんて言う町から来たんだ?」


「理不尽の町」


「そーかい。魔王を倒すのも冒険者っていうのも茨の道だろうが、まぁ頑張れよ」

「ありがとう」


 

 まだそう遠くには行っていないだろう。

 あの男、魔王とこの世界の謎を解くのにきっと必要だ。

 あ、いた。

 カイトは男の前に立って言う。

「俺の名前はカイト。さっき酒場で会っただろ」

「んー。そうだっけ?」

 興味なさすぎだろ。

「ちょっと君に話したいことがあるんだ」

「いや別いい。話聞くの面倒くさいし」

「待って。君もこの世界の常識がないんだろ? なら君にも得がある話だから」

 カイトは男を無理にとめ、さっき聞いた話を要約して話した。

「──要するに、この世界の魔物は無害なんだ。だから魔物や魔王に戦いを挑むのは逆にこっちが『悪』って事。だいたい分かった?」

「オレとお前は魔王を倒すライバルだから今のうちに殺しといたほうが良いって事だろ」

「ああそうだな。じゃあこの町の病院を探しに行くか」

 こいつどんだけ話聞いてないんだよ。最後に至っては話を聞いてないとかそういうレベルじゃないぞ。

 世界の状況からして冒険者が少ないだろうから多少やばいやつでも仲間に誘おうと思ったがこいつはさすがにダメだ。 

「いきなり止めてごめんね。じゃあ俺はもう行くわ」


「君は死んだことある?」


「え?」

「オレはあるよ。一回」

 やっぱり俺の違和感は当たっていた。

「人って死ぬとき何を想うと思う?」

「……。分からないな」

 本当はわかるよ。俺も一度死んでるんだから。

 短い人生とは言え、いろんな人に会っていろんな経験をしていたはずなのに。なのに。最期は一人。味わったことのない孤独感と虚無感に襲われる。そこに人としての悲しみはなく。あるのは虚ろだけ。

 死んで初めて分かった。

 『命』に、人に生きる意味があるとすれば、きっとそれは──だから。

「オレは知ってる。一回、体験したオレだから分かる」

 こいつも分かってる。そんな特別な経験からわかる事もあるって。

「全身を包むような孤独感と虚無感。まるで世界に俺しか居ないみたいに。オレが世界を回してるみたいに。だからオレはもう一回そうなりたい」

 ああ。こいつと俺は真反対なんだ。俺は『死』から恐怖をもらって、こいつは勇気をもらってんだ。

 俺は少し迷いもあったが言う。

「この世界で魔物に殺されたり、ましてや自殺なんてやだろ?」


「俺と冒険してくれたら一思いに殺してやるよ」


 男は少し嬉しそうな顔を見せ膝をつき言う。

「この朔の命はカイトのために」

 

 

 


 


 

 

 

 

 

第三話を読んでいただき、ありがとうございました。早くコメントや感想をいただいてみたいなって思っています。構想的には長い話になる予定ですが、しっかり最後まで書きたいなと思います。因みに男の名前は「サク」と読みます。次回もよろしくお願いします。

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