91 「血族の物語」
こんにちは。
今回は早速、前回の予告どおりにピーター・ディッキンソン氏による「血族の物語」のご紹介に参りましょう。
〇「血族の物語」上・下巻(原題:THE KIN)
ピーター・ディッキンソン・著 / 斎藤健一・訳 / ポプラ社(2003)
さてさて。
「ザ・ロープメイカー」を読んで俄然、他の作品も読んでみたくなったところ、勤務先の学校図書館にあったのがこちら。上下巻でこちらもけっこうな分厚さですが、「ザ・ロープメイカー」ほど字が小さくないのでさくさくと読み進められます。
舞台は約二十万年前のアフリカ。
作者であるディッキンソン氏もまえがきで書いておられる通り、残されている遺跡も多くはなく、「ほとんどは想像で書いた」とのこと。でも、全編、とてもそうとは思えない説得力なのです。
サトクリフ作品はもちろんのこと、ちょうど、こちらでもご紹介したことのある「アリューシャン黙示録シリーズ」や「クロニクル千古の闇シリーズ」などを彷彿とさせられる、古代の人々の生活が生き生きと伝わってくるような筆致。
主人公は少年スーズ、少女ノリ、そして少し年数が経って幼児から成長したあとの少年コー、少年マナの4人の少年少女。それぞれの視点で1~4章の構成となっています。
面白いのは、それぞれのお話の間にいわゆる「昔話」とか「伝説」に当たるお話が挟まっているところ。それだけでもストーリーとしてひとつながりになっているので、読了してからそれだけを読むのもアリ、とあとがきに書いてありました。
「血族」と言う言葉がタイトルになっているわけですが、それはそれぞれ、この世界を創造した<最初のものたち>から分かれた一族ということになっています。その<最初のものたち>のリーダーが<黒レイヨウ>でした。
主人公のスーズたちは<月のタカ>族。ほかにも<太ったブタ>とか<小さなコウモリ>など、いろいろな名前の部族が登場します。
さて、人間であるスーズの一族<月のタカ>族は、あるときほかの部族に襲われて散り散りになってしまいます。
昔はそれが当然だったのでしょうが、男たちは殺され、女たちは奪われていきます。そこで別の血族の男たちの子どもを産まされるわけです。出だしから原始の世界の厳しさをひしひしと感じる展開ですね。
まだ若い一族のリーダー、バルと数名の少年少女たちだけが逃げのびて、砂漠方面へ歩いていこうとするのですが、その前にバルはもっと小さくて歩けそうもない子どもたちを置き去りにします。
少女ノリの弟も置き去りにされていますが、このノリが、<月のタカ>の声を聞くことができる特殊な能力を持っていました。この時代、一族には必ずひとり、<最初のものたち>それも自分たち一族の守り神のような者の声を聞くことができる存在がいるというのです。
バルがそういう者を自認していたのですが、どうやらノリのほうがいわゆる「巫女」としての能力があるようで……。
「戻った方がいい」と言うノリに対してバルは厳しい言葉を浴びせ攻撃するので、スーズはバルたちから離れ、ノリたちとともに道を戻ることを決意。そこでどうにかこうにか置き去りにされていた子どもたちとも合流し、成人していない少年少女だけでなんとか生き抜こうと努力しはじめます。
もちろんみんな裸なのですが、わざわざ「裸です」という描写もありません。あたりまえですよね、それが当然だったわけなので、わざわざ表現する必要もない。
子どもたちは水ひとつ得るのにも苦労し、ライオンやワニに襲われそうになって必死に戦い、逃げ、またわなを考案して生き延びようとします。
実はこの中には、生まれつき口の形がおかしくてうまくしゃべることのできない少女ティヌがいます。実は非常に賢くて勇気のある子なのですが、いかんせんうまく話せないので引っ込み思案。とても気になるキャラクターで、4章を通じてどうなっていくのかをずっと追い続けてしまいました。
非常に読みやすく、水や木、泥、虫などなど生々しい匂いや感触の描写にあふれた秀逸な作品だったと思います。はるか昔の部族たちの守り神に寄せる思いや素朴な喜怒哀楽の感情の動き、そして具体的な生活の状況にも、とても素直に納得できる流れでした。
こちらもぜひ、おすすめしたいものです。
ではでは。





