88 「黒い兄弟」
こんにちは。
今回もまた、「夏休み中自分の勤め先の学校図書館から借りて読んでるシリーズ」です(タイトルが長い・笑)。
〇「黒い兄弟」上・下巻
リザ・テツナー・著 / 酒寄進一・訳 / あすなろ書房(2021年)
私が今回読んだものはこちらの再刊された新装版でしたが、実はもっと昔に出版されていた名作のひとつですね。
本書の訳者によるあとがきによれば、もともとはベネッセ・コーポレーションから1988年に刊行されたそうです。
そうして、私はこれを最近まで知らなかったのですが、1995年に放送されたテレビアニメ「ロミオの青い空」の原作でもあるとのこと。
いやほんと知りませんでした、お恥ずかしい。
1995年といえば阪神・淡路大震災の起こった年です。「ロミオの青い空」第一話が放送されたのが1月15日だったそうで、つまり震災の二日前ということになります。いやいや、もっとも揺れの激しかった地域にいたわたくしには、少なくとも冒頭は到底見ることのかなわなかった作品ということになりますね……私のいた地域ではしばらく停電もしておりましたし。
でも今は幸いにも、オープニング曲などをネットで見ることができます。いやいや、名曲でした……。本編も見てみたいなと思いました。
すでにご存じのかたも多いでしょうけれども、今から二百年ほど前のヨーロッパでは、貧しい家の子どもたちを安い金額で買いたたき、半ば奴隷のようにして非常に過酷な労働をさせていたという歴史があります。
今作の背景となるのはそうした時代のスイスとイタリア。
主人公ジョルジョは(ちなみにアニメでは「ロミオ」と改名されているようですね)十三歳。スイスのティチーノ地方、山奥の貧しい村で家族と暮らしていた少年でした。
そこへ、イタリアで煙突掃除をする子どもの労働者を買うために、ほおに傷のある不穏な様子の男がやってきます。
ジョルジョのお父さんは最初のうちこそ怒って男を追い出したのですが、その後村をひどい日照りが襲い、山火事があってお父さんが大事な家畜を失ったり、お母さんがひどいケガをして医者を呼ばねばならなくなったり……と、ジョルジョの家は不幸つづきになっていきます。ほんとうにこれでもかとばかりに辛い状況が家族を襲ったわけです。
ツケが溜まって借金もできなくなっており、食べるものにもこと欠く中、母親のために遠くの町から医者を呼ぶにはどうしてもまとまったお金が要る。
それでとうとう、しかたなく、ジョルジョは安い金で半年だけ煙突掃除負として買われることになったのでした……。
いやもう、ここから本当に厳しい生活がリアルに迫ってきて読むのがしんどい。この作品は特に自然の描写が丁寧でうつくしく、そこに心のやすらぎを見出せるのですが、人々の生活は本当に苦しくてしんどい部分が続きます。
イタリアについてからも、ジョルジョは引き取られた煙突掃除の親方の家族からひどい虐待を受けることに。
もちろん悪い人ばかりではなく、その家の病弱な娘アンジェレッタや、同じように売られてきてのちに親友になる少年アルフレドなど、あたたかな交流も生まれます。
このアルフレドは聡明な少年なのですが、どうやら過去に秘密があるらしく……。
その秘密が、やがて思わぬ方向へジョルジョの運命を引き寄せていくのです。
児童文学としての作品だと思いますが、なんというか本当に甘さのない、リアリティに富んだ物語。前半は特に貧しさや仕事のつらさ、いじめや暴力などで読み進めにくく感じる読者が多いかもしれません。でも、それが二百年前の子どもたちの現実だったわけですし、貧困についていえば今の日本の少年少女にとっても決して他人事では片づけられない状況になりつつありますよね。
最後にむけての怒涛のように押し寄せてくる感動は、ぜひ若いうちに若い人たちに味わってほしいなと思う作品でした。
よろしかったら、こちらもまたお手にとってみてくださいね。
それでは、今回はこのあたりで!