78 「天山の巫女ソニン」シリーズ
こんにちは。
今回ご紹介する本はこちら。
●「天山の巫女ソニン」シリーズ
菅野雪虫・著 / 講談社(2006~2009)(単行本版)
実はこちら、ずっと前、まだわたくしが司書の資格をとる前に、ムスメが通っていた小学校で図書ボランティアをしていた際、先輩である保護者ボランティアのかたからおすすめされたもの。私ひとりにということではなく、当時集まっていたほかのお母さんたちと一緒にではありましたけども。
でも実はそのとき、「すっごくよかったの~」というお話を聞いてもなかなか手が出ず、ついずるずると今頃になってしまいました。当のムスメはといえば、もう大学生になっちゃいました……(苦笑)。
ともあれ、いま勤めている学校図書館にはおかれていましたので、ようやく手にとることができた次第です。
こちら作品は、実は作者である菅野先生が2005年に発表され第46回講談社児童文学賞をとった「ソニンと燕になった王子」という名のファンタジー作品がもとになっているのだそうです。そのお話に手を入れ、さらに膨らませて全5巻の長編作品として刊行されたもの、とのこと。
賞の名前のとおり、まずは児童文学として書かれた作品だからなのか、地の文もずっと「~です」「~ます」と丁寧な語り口でやさしく言葉も平易で非常によみやすいのですが、読み口のやさしさに反して内容はなかなか厳しく、洞察に富んでおり、たいへん奥が深い作品でもありました。
舞台は、巨山、沙維、江南という三つの国に別れた架空の世界の半島です。
このうち沙維にある非常に高い山、天山には、夢見をするという巫女たちが集められて暮らしていました。巫女たちはごく幼いうちからその才能を見出され、すぐに親元から引き取られて天山で暮らすことになっています。
主人公、ソニンはその巫女であった11歳の少女。しかし、夢見をする才能にムラがありすぎ、才能がないとされ、山からおろされて家族のもとに帰されることに。
巫女は自分の欲望や感情に左右されてはならないとされ、簡素な暮らしを旨として育てられてきたため、ソニンも最初は自分の欲とか感情に非常にうといところがある子として描かれていきます。
幸いというのか、赤子のころに引き離されていた家族にはあたたかく迎えられ、友達もできたソニン。
ところが沙維の末の王子で口のきけない少年、イウォル王子の心の声が聞けることが発覚して、なんと王子の世話係、侍女として王宮にあがることになり……。
ここから、王子たちの確執やら、国政をゆるがす悪だくみをする者たちのあれこれに巻き込まれ、ソニンは翻弄されつつも、お仕えするイウォル王子のために自分に与えられた教育や、薄れゆく夢見の力などを使って奔走することになります。
そうするうち、次第に自分が人間として、なにを求め、何を感じるべきなのか……といった自分の心の中の問題にも向き合っていかざるを得なくなります。
先ほども申したとおり、全体は非常に丁寧で読みやすい言葉で表現されているのですが、国同士の腹の探り合いであるとか、確執、悪だくみ、そして戦争が起こることによって下々の民たちの暮らしにどんな影響がおこるのか……といったことまで、さまざまにわかりやすく表現されているところが素晴らしいなと思いました。
市井に暮らす庶民たちのなにげないセリフの中に、戦争や為政者による政策のために暮らしがどんな風に影響されるかが生き生きと描かれているのですよね……。これはすごいなと思いました。
ソニンはやがて、隣国のふたつの国の王子や王女とも出会い、言葉を交わしてかれらの生き方や心のありかたなどを観察し、考えていくことになります。
このあたりがもう胸アツ。
それぞれの巻で、大体どれも単行本で300ページもないぐらいなのですが、100ページぐらいまで読むともう止まれなくて、結局最後まで読まされてしまうのです。
いま現在おこっている戦争についても、庶民ばかりがつらい目に遭っているわけで、そうしたリアルの問題にもつい思いを馳せてしまう。そんな物語でした。
ぜひぜひ、小学生だけでなく中学生、またそれよりも上の年齢の方々にも広く読まれてほしいなと思う作品です。よろしかったらどうぞ!
それでは、今回はこのあたりで。