68 「クロニクル千古の闇」シリーズ
こんにちは。
今回のご紹介する本はこちら。
●「クロニクル 千古の闇」シリーズ
ミシェル・ペイヴァー・作 / さくま ゆみこ・訳 / 評論社(2005~2010)
少し前にご紹介したアリューシャン黙示録シリーズとも通じる部分が多いのかなと思ったのですが、こちらも先史時代を扱った作品です。
舞台は今から6000年前のヨーロッパ北西部。まだ農業がはじまっておらず、人々は基本的に狩猟をしながら生活しています。
全体で6巻のシリーズなのですが、なんと今年の8月に、待望の7巻目が発売されたようです。少し成長した主人公たちの新たな戦い。これは見逃せない……!
ともあれ今回は1巻目のご紹介のみにとどめますね。
人々はふつう、自分の氏族とともに暮らしているものなのですが、この物語の主人公はなぜか父と二人だけで森にくらし、森で育ったオオカミ族の少年トラクです。
ある日、「悪霊」に取りつかれた恐ろしいクマに襲われて父が死んでしまいます。最後の言葉でトラクは父に「魂食らい」と戦うことを誓わせられます。父はまた、トラクが必ず道案内になる者をみつける、と言い、謎の言葉を告げます。
ほとんどわけもわからないまま、恐ろしいクマから逃げるトラク。
やがて、洪水で自分の群れの仲間をぜんぶ亡くしてしまった子どものオオカミ「ウルフ」に出会います。
不思議なことに、トラクにはオオカミの言葉がわかるという能力がありました。どうやら魔術師だった父が、トラクを赤ん坊のころにオオカミの巣穴に入れて母オオカミに育ててもらったから……らしいのですが、秘密はそれだけではなかった!
やがて恐るべき「魂食らい」と呼ばれる魔術師集団がトラクを狙ってきます。
トラクは魔術師たちの魔の手から逃れながらも、ワタリガラス族の族長フィン・ケディンや少女レンに出会い、彼らと少しずつ交流を深めながらも自分の戦いへと赴くことに……。
いやもう、アリューシャンの時にも思いましたが、こちらも本当にこまかな生活描写がすばらしい。
作者ミシェル・ペイヴァーさんは弁護士さんらしいのですが、神話、民俗学、考古学の文書に広くあたり、博物館はもちろん、アイスランドやノルウェーを旅し、オオカミやワタリガラスの専門家に師事してかれらの生態に触れるなどしてこの作品のイメージを膨らませていかれたそうです。
そのため、本当に描写に妥協がないのです。アリューシャンの時と同様、「本当に自分がこの時代にそこにいるかのように感じる」そういう体験をさせてくれる稀有な物語だと思いました。
もちろんストーリーもずっとはらはらどきどき。出てくる動物たちも魅力的!
最初は敵対していたワタリガラス族の少女レンとは、このあとずっと旅を共にする大切な仲間になっていくのですが、ふたりの行く末からも目が離せません。
さらに特筆したいのはオオカミの「ウルフ」。
物語の中ではこのウルフ視点で描かれる部分がかなりありますが、かれらの語彙が楽しいのです。人間ではないので、昼のことを「光」、雪のことを「明るくてやわらかくて冷たいもの」、アザラシは「魚犬」……などなど、オオカミらしい独特の呼び名で表現されていくのです。
ちなみにトラクは「背高尻尾なし」または「兄貴」。「尻尾なし」は人間のことなのですね。おもしろい!
なにしろオオカミが好きなので、そういう意味でも本当に大好きな作品になりました。
ちなみに私がこちらの本を借りて帰ったところ、ムスメ(大学生)が「わ、懐かしい!」と言いました。
彼女にとっては小学生のころに学校の図書室で借りて読んだ懐かしい作品だったようです。
考えてみるに、私はそのころ、家事と子育てと漢検と司書資格の勉強で、なかなか児童書までは読めていなかったなあ……と思い出したり(笑)。
ところでたまたまなのかもしれませんが、今わたしが勤めている中学校では両校とも、なぜか「千古の闇」シリーズは2巻までしか置いてありませんでした。
なんでやろ……??
慌てて3巻から以降も注文したような次第です。
みなさんの学校図書館ではいかがでしょうか。
ミシェル・ペイヴァーさんは6巻までを書き上げたあと、別作品「神々と戦士たち」シリーズも書いておられます。こちらの舞台は紀元前1500年、青銅器時代の古代ギリシアだとのこと。
未読なのですが、幸いこちらは学校図書館にもそろっていたので、次はこちらを読んでみたいな~と思っております。
ではでは、今回はこのあたりで!