65 学校司書と著作権
こんにちは。
以前にも似たような内容を投稿していたかもしれないのですが、今回は特に思うところがあってこのテーマで少し語ってみることにしました。
よろしかったらお付き合いくださいませ。
さてさて。
きっかけは某SNS。
とある学校司書さんが、不要になった本のカバーや帯を使って栞などを作成することについて投稿されていました。
昔はよくあったんですよね、こういう活動。
図書委員さんたちでカバーや帯を切り抜いて、好きなイラストなどを使って栞を作成、図書館イベントの時などに児童生徒に配る……というような活動が。
かく言う私の配属先でも、ごく最近、図書館担当の先生から「やってみたい」というお話がありました。
でも司書さんならよくご存じのように、著作権の考え方は最近特により厳しく、よりセンシティブな扱いをされるようになってきています。
以前ならスルーされていた上記のような委員会活動も、著作権法に抵触するというので、いちいち出版社に問い合わせて許諾を得る必要が出てきました。要は許諾なしに勝手に切り抜くなど、改変して利用したり、ましてやそれを他の人に配ったりといったことはご法度、とみなされるようになってきたわけです。
最近では、人の描いた絵を勝手に学習してそのデータを組み合わせ、別の絵に仕立ててしまうAIも開発され、著作権法的にいろいろと物議を醸していますね。
もちろん否やを唱えている人の多くは絵を描く人たち、つまり創作者である人たちです。
著作権の適用のしかたについては、今後は厳しくなりこそすれ甘くはならないだろう、というのが大方の見方ではないかなと思われます。
そんなわけで私も、当の先生にそのようなことをご説明し、栞の作成については思いとどまっていただいたという経緯があります。
そこを制限されてしまうと、せっかく購入した新しい本の情報に利用者さんたちが触れる機会が少なくなってしまう、というのは事実なんですが、ある意味しかたのないことではないかなと。
なぜならやっぱり、著作権法によって作り手の権利は守られなければならないからです。
とはいえ、表紙デザインをいっさい改変せず、そのままの形で図書だより等に載せるのは構わないとされています。ただしその場合でもいくつかの制限があります。
参考までにお知らせしますと、公共社団法人全国学校図書館協議会(SLA)のホームページにはこうありました。以下、引用です。
「●本の表紙写真が載っている図書館だよりをホームページに載せてもいい?
→→「図書館だより」に表紙画像を載せる場合には、画像の著作権について留意する必要があります。原則は、著作権者の許諾を得る必要がありますが、表紙画像を自館にある本から直接撮影し、紙の場合には、50㎡以内、インターネットで送信する場合には画素数が32,400以下(プロテクト無し)で載せるのであれば許諾を得ずに掲載することができます(著作権法47条の2)。それ以上の大きさの場合には、許諾が必要です。
(引用終わり)
本のカバーのデザイン、装丁そのほかには、多くの人の手が掛かっています。
イラストレーターや写真家だけでなく、装丁をしたデザイナーなども加わって全体として「創作物」と呼ぶべきものとして公開され、一般に販売・頒布されているものです。
これらをあまり勝手に切り抜いたり、切り貼りしたりして改変、図書館利用者に配布……という流れは、やっぱり昨今の著作権の考え方からするとだいぶ危なっかしいもののように思われます。
当該の司書さんのお考えについては、SNS上の文字数制限などもあって十分に詳しくうかがえたわけではなかったのですが、「狭い学校図書館内だけでのことなら、ルールを決めて行えばいいのではないか」というのが個人的なご意見のようでした。
それを利用することで、より広く効果的に新しく入った本を利用者にアピールできるから、ということのようです。
うーん……。
お気持ちは、わかる。
わかるのですが、やっぱり私は賛成しない派です。
なぜか。
学校図書館とは、学校の中にある図書館です。
学校とは、若い人たち、経験の浅い人たちが社会に出て活動していくための基礎・基盤となる知識を身につける場所だということもできます。
学校図書館はその子どもたちの学びを助ける位置にあり、著作権については特に、プロフェッショナルである司書が先生や児童生徒に詳しく伝えて運用をサポートする立場にある、と言えます。
ここでもし、大前提としてある「他人の著作物を勝手に改変してはならない」を安易に侵すルールを勝手に作って学校内で運用してしまったら??
著作権について学びはじめたばかりの人たち、特に幼い子どもたちは混乱することになるのではないでしょうか。
学校の先生方は特に、学校で教えている内容についてあまりブレがないことを望まれるように思います。つまり子どもの理解を混乱させないよう、細心の注意を払っておられるということです。
子どもから「授業ではああ教わったのに、図書館ではあんなことをしてるよ。あれはいいの? どうして?」と言われてしまうようでは、先生方は困るわけです。
たとえ学校内だけでのルールをしっかりと作ったとしても、それが保護者にまできちんと浸透するかは難しいところですし、やはり混乱のもとになりそう。
もしも子どもたちの家に著作権に詳しくて、気にするタイプの方がいたなら、学校へ確認の電話が入ることも予想されます。
それはそれで、かなり面倒なことになりそうでもある。
またそのルールは、年度ごとに入れ替わっていく児童生徒たちに毎年あらたに教えて浸透させていく必要まで生じる。
いや、作業があまりにも煩雑になりすぎると思う……。もう本当に。
申し訳ないのですが、少なくとも私にはできません。兼務になって以降は通常の業務だけでもかなりカツカツでやっているところ、「この学校だけの独自ルール」を設定して毎年新入生にもレクチャーして……というのは、相当難しいことです。
ほかにも問題があります。
子どもたちは、いずれは学校を卒業して大人になり、社会に出ていく存在です。
その時に、例えば会社や公的機関にいて「昔、学校図書館でやってたなあ」と安易に他人の創作物を改変するようなことがあってはならない。
教育の責任というか、そういうものと関係してくる話になってしまうと思うのです。
こうした誤解を招く活動は、特に若い人たちを相手にするときには控えたほうが賢明かと考えます。
前述したとおり、著作権の運用については今後、さらに厳しいものになっていくだろうと推測される。そのため、とりわけその道のプロフェッショナルであるべき司書自身が「このぐらいはまあいいだろう」というようなことを生徒たちに対してやってしまうのには、少なからず危険を覚えます。
もちろんすべて、出版社に問い合わせて許諾を得たなら問題ない。
むしろ中学生以上であれば、敢えて積極的に生徒に問い合わせをさせてみて、著作権について学ぶ場にしてもらう、という方法もありますね。
それ自体をイベントとし、生徒たちの学びの場とするのなら意義があることでしょう。
実際、どこかの高校の司書さんがこうした活動をなさった、という報告を(たしか数年前の学校図書館ニュースで)読んだことがあります。
と、私個人としての考え方としては大体こんなところです。
SNSでお話させていただいた方がどのように判断し結論づけられるのかは、その方とその学校とでお決めになることだと思いますので、それ以上のことは私の申すことではありません。
それぞれによくお考えになり、しっかりと相談・会議にものせたうえでお決めになればよろしいかと思います。
今回のお話も長くなってしまいましたね。
ここまでといたします。
ではでは~!