63 アリューシャン黙示録シリーズ
こんにちは。
今回は、このところはまっていた「アリューシャン黙示録」についてのご紹介です。
お恥ずかしながらわたくし、こちらの作品は今の学校図書館に配属されるまで存じ上げず。最初はまず、兼務している片方の学校に、こちらの本が置かれていたことで知ったような次第です。
〇「ソング・オブ・ザ・リバー」(上・下巻)
スー・ハリソン・著 / 河島 弘美・訳 / 晶文社(1999)
背景は紀元前6000年の、今ではアリューシャン列島と呼ばれる地域。雪深く、厳しい自然の中に暮らしていた当時の人々の愛憎劇、そしてミステリー。色々な殺人事件が起こり、そのミステリー要素もあって先が気になってどんどん読み進めてしまいます。
そしてなにより驚いたのが、当時の人々の生活やものの考え方などのこと細かな描写。読んでいるうちに、本当にこの古代アリューシャン世界に暮らしているかのような気分になります。
「ソング・オブ・ザ・リバー」は冒頭からショッキングな犯罪で始まります。
〈雲〉という名の少女が、他部族の男3人に無理やり犯され、それに復讐するためそのうちの一人を殺す、という場面。
ショッキングですよね。そして、「学校図書館に置くのはどうか?」という疑問も浮かびます。もちろん、そんなに生々しい描写はないのですが、起こったことは起こったことですし。とはいえ、大昔の世界ではこんなことは日常茶飯事だったのだろうなとも思ったり……。
そしてこちら作品を読みながら「どうやらこれ、先行作品がありそうだぞ……?」と思い始めていたら、案の定でした。
こちらの作品には、さらにその1000年前のできごとを描いたこちらが存在していたのです。
こちらを全体で「アリューシャン黙示録」シリーズと呼称するようです。
〇アリューシャン黙示録第一部「母なる大地 父なる空」(上・下巻)
スー・ハリソン・著 / 河島 弘美・訳 / 晶文社(1995)
〇アリューシャン黙示録第二部「姉なる月」(上・下巻)
スー・ハリソン・著 / 行方 昭夫・訳 / 晶文社(1996)
〇アリューシャン黙示録第三部「兄なる風」(上・下巻)
スー・ハリソン・著 / 河島 弘美・行方 昭夫・訳 / 晶文社(1995)
作者スー・ハリソンさんは、自分たちのルーツに非常に興味を持つかたで、当時の暮らしに関するたくさんの資料にあたり、当時の言語(少なくとも6つ)を勉強されてこの作品の執筆に臨まれたそうです。そのうえで、こちらの作品を9年をかけて完成されました。
そうした確固たる地盤の上に、当時の人々の姿と感情を生き生きと描きだし、現代人の心に迫る物語に仕上げられています。読み進めるほどに、これは本当に傑作だなと思いました。
この作品は人物の名前も興味深くて、たとえば第一部の主人公となる少女は〈黒曜石〉。〈短身族〉に村を襲われて、いいなずけだった青年も殺され、ひとり生き残った彼女を助ける老人は〈古に遡る〉。
そのほか〈筋肉〉〈赤い実〉〈ミソサザイ〉〈若いケワタガモ〉〈ナイフ〉などなど、忘れ難い独特なネーミングのお名前がいっぱいです。
さて。
大昔の人間社会というのはそんなもんだったんだろうな……とは思いつつも、あまりにも女性の扱われ方がひどいので、ここは読む人を選ぶかもしれません。
男は狩りをすることが大きな仕事です。狩りができない、あるいは苦手な者や老人などはどうしても部族の中で軽んじられ、ひどい場合には「風の霊にかえされる」つまり死ぬことを望まれてしまう場合も。そのため、狩人の代わりにシャーマンとしての地位を得ようと強く望んだりするわけですが、女性はその男たちの身の回りの世話をし、家事をし、縫物をし子育てをし、釣りや貝ひろいなど「女の仕事」とされているものに日々従事しています。
特に若い女性はつねに性的な道具のように扱われ、妻という立場になっていてさえ食物などとの交換で簡単にほかの男の夜の相手として与えられてしまったりする。
若くて美しい女性ともなると、男にひどく執着されて、どんなに拒んでも結局強姦されたり無理やり結婚させられたりすることもしばしば。レイプの結果生まれてきた子が普通に次の世代の主要人物になっていたりもして、考えさせられます。
話の中でしばしば(特に性格の悪い男などから)「女なんて」「女ごときが」と蔑まれていますし、読んでいてしんどくなる部分は確かにあります。
救いなのは、これが女性作家の手による作品であること、そしておもに主人公となっているのが女性であること、でしょうか。
作者スー・ハリソンさんが古い時代の女性たちをどんな目で見ていたかは、読んでみればわかることですが、とにかく女性たち(特に主人公の人)はタフ! 強い! へこたれない! そして母親になることで、さらにその強さが増す。
この過酷な環境のなかで女性が生き抜こうとするだけでもすごいことなわけですが、さまざまな事件、村同士の戦いなどに翻弄され、彼女たちの人生は波乱万丈のものとなっていきます。
読み進めるうち、彼女たち、そして主人公級の「カッコいい」男性たちにはエールを送らずにはいられません。
これぞアリューシャンの大河作品と言えるでしょう。
長々と書いてしまいました、すみません!
よろしかったらご一読をお勧めいたします。