58 職業を知る小説(2)
ということで、続けて参ります~。
もうひとつ紹介したかったのは、上下巻のものですがこちら。
○「アキラとあきら」
池井戸潤・著 / 集英社(2020)(徳間文庫版は2017)
こちらは今年の夏に映画が公開されたこともあって、ご存知のかたも多いでしょう。うちの図書館にも、映画のポスターが送られて参りました。
池井戸先生といえばもう言わずもがなではありますが、あの人気ドラマ「半沢直樹シリーズ」の原作である「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」、そして直木賞受賞作「下町ロケット」の著者であるかたですね。
池井戸先生がもともと銀行勤めをなさっていたという経歴から、銀行の、とくに企業への融資や企業の経営改善策に関する描写が非常にリアルなのが、作品の特徴のひとつでしょう。「下町ロケット」では、さらにヌケのない特許取得の重要性についても学ぶことができますよね。特許、大事!
こちら「アキラとあきら」もそれら「銀行・企業のお仕事モノ」のひとつと言えるのですが、ほか作品と違うのは、主人公が小学生の時代を比較的ていねいに描いていること。
山崎瑛は町の小さな工場の社長の息子。
対する階堂彬は大きなグループ会社、東海郵船の御曹司。
最初のうちは、このふたりの別々の視点から、かれらの少年時代が語られていきます。
瑛の父の町工場は、あるとき大きな負債を抱えて倒産することに。そのため瑛は母親と妹とともに磐田の祖父の家を頼ることになります。ほとんど夜逃げのような形でした。とある理由で単身もとの家にもどった瑛は、そこで残酷な現実を見せつけられることになります。
半沢直樹シリーズでもときどき出てくるのですが、このとき融資してくれていた銀行はまさに「晴れているときに傘を貸し、雨が降る日に傘を取り上げる」式の態度でした。必死に頭をさげてひきつづきの融資を願う父親に対して木で鼻を括ったような対応で拒絶します。
瑛はそこから「銀行なんてそんなものか」という絶望と恨みがましい気持ちを抱きます。
しかし、磐田で高校生になったとき、ひとつの大きな転機があり、一転して企業の経営や経済、融資に深く興味をもつことに。
一方の階堂彬の家も、裕福ではありましたが大きな問題の根を抱えていました。
父は、祖父が興した会社の社長です。父の弟である叔父たちは、そのうちの観光部門と商事部門の社長をしていましたが、経営手腕にすぐれた兄に対する羨望や嫉妬心などから非常な対抗心を持つ人たちでした。そんなこんなで、父と叔父たちはうまくいっていません。このことが、いずれ大人になった彬に大きな影響をおよぼす事態になっていきます。
まったく異なる環境に育ってきたふたりの「アキラ」ですが、大学でふたりとも優秀な成績を修めます。そのためとあるメガバンクから目をつけられ、その銀行に同時に二人とも就職することになるのでしたが……。
つまり、ふたりは同じ銀行でバンカーになるわけですね。ここからもう胸アツ展開の連続になります。彬の家の会社のことでは、ふたりがどんな風に力を合わせて難局を乗り切っていくのかが大きなポイントに!
ぜひとも一度目を通していただきたい物語です。
前回の「神去なあなあ日常」では林業に関してのお仕事モノでしたが、今回は銀行マン、とくに大企業・中小企業への融資を担当するバンカーと、いろいろな企業経営者たちの様々な視点から描かれていることが特徴的ですね。
経営者はどんな立場にあって、なにを考え、どんな風に経営戦略を立てているのか……といったことも勉強になるのではないかなと思います。中学生には、小説を通してぜひちらっとでも覗いておいてほしい世界。お勧めです!
ちなみに最近、同じ池井戸先生のこちらも拝読したのでついでにご紹介しておきます。
○「ノーサイド・ゲーム」
池井戸潤・著 / ダイヤモンド社(2019)
こちらは会社が抱える社会人ラグビーチームを題材にした物語ですが、主役はそのゼネラルマネージャーになった君嶋さん。もとは経営戦略室にいたのですが、とあることからラグビーチームのある工場へ左遷されたという人です。
こちらは詳しく書きませんが、崇高なラグビー精神を学ぶとともに、企業同士の腹の探り合い、社内での醜い足の引っ張り合い、さらに蹴球協会の腐敗ぶりへの批判やらなにやらと、やっぱり全体として「池井戸節」の冴えわたる作品でした。
そしてもちろん、ラグビーシーンはやっぱり胸アツ!
こちらもお勧めしておきますね。