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54 学習室としての利用


 またまた続けて失礼いたします。

 今回は、このところSNSで流れて来ていた話題です。

 とはいえ本当の元ネタがどういうものだったかよくわかっていないのですが……。


 どうやら公共図書館で、テスト勉強など学習をするために席を長時間使用する学生に対して、一般利用者から不満が出ているそうで。

 確かに公共図書館は市民みんなのものであり、ごく一部の世代である学生が長時間閲覧場所を専有してしまうのには問題があるかなと思います。

 とはいえ、生徒さん・学生さんたちの立場になってみると、色々なご家庭の事情があって家では勉強しにくい人がいるのも事実。

 各都道府県の公共図書館では、こうした人たちのために学習専用の部屋を設けているところも多いようですね。こちらの近隣の公共図書館でも、予約制の学習室があります。


 ところで、この問題が取りざたされたとき、こうした意見を見かけました。


「学校の図書室があるじゃないですか。あそこはそうした勉強をするための場所でしょう。そこで勉強すればいい」と。

 

 実際、いま勤めている学校図書館でも、テスト前の放課後開館時、生徒たちがテスト勉強のために連れ立ってたくさんやってくる……ということがありました。

 生徒が仲間同士でしている話を聞いていると、「家では弟や妹がうるさくて落ち着いて勉強できない」という声がちらほら。ほかにも、様々な事情があって家庭学習が難しいお子さんもいるだろうということは容易に想像がつきます。


 もともと学校図書館には、生徒たちが読書をするため以外にも、こうして落ち着いて学習できる場を提供する、という目的もあるだろうと思います。いろいろな事情から、放課後になってすぐに自宅に帰りたくない気持ちの子だっているはずですし。

 ただ、現実の学校現場では、それをスムーズに運営していくのはなかなか難しい場合があります。


 まず、彼らは一般の人ではなくてその学校の生徒であり、なにより未成年です。校内にいる以上、そこで何かの問題が起これば、それは学校の責任であり、先生方の責任ということになります。

 司書自身は生徒に関連することに直接の責任を持つ立場にないため、その場にいてある程度うるさくする子に注意はしても、最終的な責任が取れません。事務員や管理員とは違って、子どもと直接かかわるため、なかなか難しい立場だと言えます。

 こうなってくると、生徒たちが来ている時間、基本的には先生がせめてお一人だけでも、生徒を監督するためにそこに居る形が望ましい、という話になるかと思います。


 ところが、放課後の開館ではそううまくは行きません。

 生徒の数が昔より大幅に減ってきている昨今、先生方は昔よりずっと人数が減っています。第二次ベビーブーム世代のころ、一学年が十三クラスもあったような時代もありましたが、今や都市部でも二~四クラスが普通の時代です。多くても五クラス。担任の先生の数が大いに変わるのも当然です。


 そんな中で、先生方は放課後は部活の面倒を見るために出払っていることがほとんど。手の空いている先生はほぼおられません。お昼休みならまだしも、放課後の開館まで先生が見に来てくださるというのは、なかなか難しいことであり、現実的ではないでしょう。

 こうした理由があって、こちら地域の中学校では、なかなか放課後の開館まではできないでいる学校も多いです。司書が来られない日は、昼の開館すらできない学校さえあります。


 比較的生徒が落ち着いている学校で、放課後開館ができているところでも、問題がゼロということはありません。中学生というのは友達だけでいるとついついおしゃべりを始めてしまい、その声が次第に大きくなって、騒いでいる状態になりがちでもあります。

 これはもう、ある程度しかたのない面があるなと思っています。子どもの授業参観にこられたお母さんたちがついつい私語が大きくなって授業の邪魔になるほどの声になっていくのを見たという経験のある方も多いでしょう(私も娘の授業参観で経験しました)。

 人間とは、放っておかれればついついそうなってしまうものです。大人ですらこうなのです。まして未成年の小中学生においてをや、です。

 かれらは未成年であり、体は大きくとも脳はまだまだ未発達の子どもたちです。先生から厳しく、何度も言われてやっと「ここでは静かにしなければいけなかった」と学んで実行できるようになっていく、その途上にある人たちです。


 今回、そうしてついつい声を大きくして騒いでしまった生徒たちの件ですが、その後、先生方がその日のうちに話し合われて「テスト勉強のために図書館へ行くのは禁止」と、あっというまに決められてしまいました。

 残念に思いましたが、先生方にしてみれば無理もない話です。

 ある程度落ち着いている生徒たちだとはいえ、校内で起きる問題には早め早めに対処していかないと、生徒指導上、すぐに崩れてきて全体として大変な状況になるものです。このことを、先生方は経験的によくご存知なのでしょう。

 実際、「何年もかけてやっとここまで落ち着いて来た学校が、ちょっと気を抜くとあっという間に崩れてしまうということがよくあります」と話してくださった生徒指導の先生もおられました。


 特に、いじめをはじめとする先生の目の届かないところで起こる問題について、先生方は普段から神経をとがらせておられます。その点で敏感であるということは、とても大事なことでもあります。

 生徒指導の先生がピリピリされていると、司書としてもとても働きにくくなってしまいます。ここは協力するのが最善ということになります。


 私個人は、司書としてなるべく利用者である生徒のために図書館を長く開けておいてあげたいという立場に変わりはありません。ですが、先生方のお気持ちやご都合も十分理解して動かねばならないことも事実です。

 ということで、放課後開館そのものを中止にされてしまわないためにも、「テスト勉強にくるのは禁止」は仕方のない処置だったかなと考えております。いえ、やっぱりとても残念に思いますが。


 そのような学校の事情もあるので、「生徒が公共図書館に勉強しにくるな。学校図書館に行けばいいだろう」というご意見には、あまり賛同できませんでした。

 もちろんそれが理想であるとはいえ、人員不足のためにそれが不可能な学校は多い。それが現実です。そこをどうしていったらいいのか、それを考えねばならないのだろうと思います。


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