51 課題図書2022
こんにちは。
前回予告していたとおり、今回は今年の中学校課題図書のご紹介です。
今年から二校兼務になったため、どちらの学校でもまずは早速、課題図書の購入から始めました。なかなか多忙な毎日ですが、なんとか三冊とも読めましたので、こちらへ記録・紹介しておきますね。
小学校の課題図書は低学年むけ、中学年むけ、高学年むけとたくさんあるので(都合9冊でしょうか?)司書さんたちは毎年本当に大変そうだなと思います。中学校以外の課題図書についてはあまりお手伝いができず心苦しいところもあるのですが、よろしかったらお付き合いくださいませ。
〇「セカイを科学せよ!」
安田夏菜・著 / 講談社(2021)
藤堂ミハイルは、ロシア人と日本人のルーツをもつ、日本の中学生。
ロシア語は少し話せる程度で、英語力もほかの中学生と同じようなものなのに、ひと目で「白人」と見られてしまう。
「英語なんてぺらぺらだろう」とか「お箸、上手にもつんだね」などなど、容姿ですぐに人から勝手な判断をされてしまうことに、ずっと複雑な思いを抱えてきた少年です。小学生のころに「ハーフ」や「欧米」などと呼ばれてからかわれたり、日本人のクラスメイトから見えない一線を引かれたりしてきたことで、複雑でつらい過去を抱えています。
そんな事情から今は自分を殺し、目立たず、なるべく騒ぎをおこさないように過ごすことにしていました。その一環で、いまは「目立たずやれてしんどくない部」である科学部電脳班に所属しています。
ところがある日、彼のクラスに山口アビゲイル葉奈が転校してきます。彼女のルーツはアフリカと日本。ミルクコーヒー色の肌にもふもふのカーリーヘア、縦にも横にも大きな体……。
事前に「アフリカ系」と聞いて勝手にみんなが「スポーツ万能」などと予想していたことをつぎつぎと覆していく葉菜は、「蟲が好きです」と堂々と自己主張する、ちょっと変わった少女でした。
カミキリムシ、カナヘビ、ワラジムシ、ハエトリグモなどなど、彼女がつぎつぎに学校にもちこむさまざまな生き物に、虫ぎらいの女子は大騒ぎ!
葉菜も科学部生物班に入ることになり、やがてみんなを巻き込んで、とある研究に没頭することに……。
様々な背景をもつ子どもたち、つまり人の多様性とはなにか、科学的なものの見方、考え方とはなにか、について考えさせられる、爽やかな青春小説です。
〇「江戸のジャーナリスト 葛飾北斎」
千野境子・著 / 国土社(2021)
言わずと知れた日本の誇る天才絵師・葛飾北斎。平均寿命が65歳前後だった江戸後期に、90歳まで生き、絵筆をとりつづけた超人でもあります。
こちらは彼の普段の生活、家族との暮らしぶりなど、「人間・北斎」を知ることのできるわかりやすい入門書。
北斎が国内のみならず海外にも目を向け、すさまじい興味・関心をもって人々を観察し、文化や出来事を細かく絵にうつしとっていた姿が浮かび上がります。まさに「ジャーナリスト」。
この本では北斎自身のことのみならず、彼の作品を「発見」し、海外へ持ち帰って保管・紹介した人々の歴史についても紹介されています。
あとがきによれば、紹介されている作品は各美術館のデジタルアーカイブで見ることができるそうなので、それを見ながら読むのもおすすめかなと思いました。
〇「海を見た日」
M・G・ヘネシー・著 / 杉田七重・訳 / 鈴木出版(2021)
アメリカのとある養母に引き取られ、ともに暮らす里子たちの物語。里子とは、それぞれに事情があって、親と暮らせない子どもたちのことです。
もっとも年上の子は、中学生ぐらいの少女ナヴェイア。なんとこれ、「HEAVEN(天国)」を反対から読んだ名前なのだそうです!
夫が亡くなったことで仕事以外は部屋にひきこもりがちで家事をやってくれない養母に代わり、ナヴェイアは年下の里子たちの面倒をみています。ですが、それは単に義務的なことでした。必死に勉強していい成績をとり、奨学金をもらって大学へいくことが彼女の大きな目標です。
父がエルサルバドルへ強制送還されてしまったヴィクは、そのつらさから逃れるために「自分は秘密組織のスパイ」という妄想に逃げ込んでいる、とても活発な少年。
いちばん年下のマーサは、スペイン語しかわからずほとんど話をしない、おとなしい少女です。
そこへ、あらたに男の子がやってくることになり……。彼はスターウォーズが大好きなアスペルガー症候群の少年でした。
彼は、自分がなぜ母親からひきはなされて、こんな知らない家につれてこられたのかも理解できていません。それでひたすらに「ぼくの家」に帰ろうと考えつづけています。
ヴィクは彼の望みを知り、ヴィクなりに「十分な」準備をして、少年を彼の母親が入院している病院へ連れていこうとするのでしたが……。
全体に「家族とはなにか?」を考えさせられる一冊。
あの名作「WONDER」のような、各パートがそれぞれの子どもの一人称で語られていく構成で、どんどん読まされてしまいます。
作者M・G・ヘネシーは、あのLGBTQをテーマにした小説「変化球男子」の作者でもあります。翻訳、杉田七重さんも同じかた。
翻訳の巧みさもあってだと思いますが、すいすいと読みやすく、気分的に「秒で」読めてしまったストーリーでした。
つらい状況に置かれていながら、里子たちの芯の強さ、難しい環境にあってもなんとか生きようとする姿に胸を打たれる作品です。みんなをついつい応援してしまい、最後は少し涙してしまいました。若い人にこそ読んで欲しい良作です。
はい。簡単でしたが、今年はこのような感じでした。
生徒たちにどんな風に紹介しようか、あれこれと考えているのも楽しいものですね。なにかのお役に立てましたら幸いです。
ではでは!