42 課題図書2021
こんにちは。
こちらのエッセイを更新するのはひさしぶりです。ご無沙汰しておりましたが、みなさまお変わりないでしょうか。
様々な仕事がある中でも、この時期の学校司書といえば、やっぱり課題図書ですね。今回は少しばかり早めにお知らせできることを嬉しく思います。
今回は令和3年度(2021年度)の中学校の課題図書です。私が勤務しているのが中学校なもので、ご紹介が中学校の課題図書に限られますことをお許しください。
本の順序は私が読んだ順番となっております。
〇「牧野富太郎 日本植物学の父」
清水洋美・文 / 里見和彦・絵 / 汐文社(2020)
土佐が生んだ「日本植物学会の父」と呼ばれる偉大な研究者・牧野富太郎。その生涯をわかりやすく年代順にストーリー仕立てで紹介したもの。
明治維新の頃に生まれ、幼少時から多くのことに興味をもち、とりわけ植物に深い関心をもっていた牧野さん。学制の変遷期で13歳にして小学校に入学するも、その勉強内容に関心がもてず、なんと2年生で通うのをやめてしまいます(もちろんそれまで、私塾に通うなどして基礎的な学習はなさっています)。
そうでありながらも独学でさまざまな植物を採集・研究し、詳細な観察記録と緻密な絵を描き、学歴による障壁にも負けず、次第に世に認められてゆきます。
奥様である壽衛さんはじめ、ご家族や研究仲間との関係なども心たのしく読め、また涙を誘う場面も多数。亡くなった奥様の名前を植物の名前として命名されたところなど、涙なしには読めません。
さすがは坂本龍馬や岩崎弥太郎を生んだ土佐の「いごっそう」と感心するような、先生のどこまでもまっすぐで熱い情熱が非常に印象的でした。
〇「アーニャは、きっと来る」
マイケル・モーパーゴ・著 / 佐藤見果夢・訳 / 評論社(2020)
舞台は第二次大戦中、ドイツに占領されたフランスの田舎の村、レスキュン。
戦争中で男たちがいなくなる中、それでも平和だった村に、ある日ドイツ軍がやってきて村を占領、監視するように。彼らにはレスキュンから隣国へ逃げるユダヤ人を取り締まる目的が。
しかしとある老婦人のところには、娘婿の男と、多くのナチスドイツから逃げてきたユダヤ人の少年少女が十何人も匿われていて。
少年ジョーはそんな中、とあるドイツ軍の伍長と親しくなるが……。
最後まで緊張感のあるストーリー。知的な障害をもつ村の青年・ユベールの存在感も非常に記憶に残ります。
作者はあの「戦火の馬」の著者でもあります。
単純に「こちらが善、あちらが悪」といえるようなものではなく、人と人としてのつながりや交流、理解しあうこと、友情などなど、多くのことを考えさせられる物語でした。
〇「ウィズ・ユー with you」
濱野京子・著 / くもん出版(2020)
悠人は、できのよい兄・直人といつも比べられ、勉強でもスポーツでも思うような成績が出せず、「この家に自分がいる意味はあるのだろうか」と思い悩む中学3年生。
ある日、夜のジョギング中にとある公園でぼんやりしている少女を見かけ、そのあまりにも暗い表情を見て、どんどん気になり始めます。
少女・朱音は隣の中学に通う2年生。実は彼女の家には人に言えない問題があり……。
近頃ようやくニュースなどで取り上げられるようになってきた社会問題、ヤングケアラーを取り扱った作品。最後には少しの希望が見える物語でした。
大体このような感じです。生徒たちに本を紹介されるうえで、何かのお役に立てば幸いです。
今年の中学の課題図書は、どれを選んでも比較的感想文が書きやすいものではないかなという印象でした。
どれにも自分に引き寄せて自分の問題として語れる「フック」にあたるものが多くあるように思います。
うちの学校でも、ぜひ効果的に生徒に紹介できればと思っています。
まずは世界地図を広げてフランスのレスキュンを探してみようかしら?(笑)