34 課題図書2020
こんにちは。
こちらの地域の学校でも、ようやく普段に近い一斉登校が始まっております。
とはいえ、図書館の扉や電気のスイッチ、机などの消毒は日々励行しておりますし、図書委員によるカウンター作業は行っておりません。開館そのものも学年別にするなど、人数をうまく制限できるよう工夫しようと試行錯誤中です。
このような中、今年の感想文コンクールがいつも通りに行われるのかどうか(わが校に関しては)不透明ではありますが、毎年恒例の「課題図書紹介」をしておこうかなと思います。
今年の中学校の課題図書ですが、こういう事態のため、本校でも注文数を抑えての購入となりました。夏休みが実質二週間ぐらいしかないわけで、本を読んで感想文を書くという宿題を出せるかどうかわからない、との国語科の先生からのお話を受けてのことでもあります。
とは申せ、司書としてすべて読んで全校生徒に紹介するのは仕事のうち。
ということで、こちらでも三冊の内容紹介を少しさせていただくことにしました。よろしかったらお付き合いくださいませ。
〇「天使のにもつ」 いとう みく・著 / 童心社(2019)
斗羽風汰は中学2年生。中学では毎年恒例の職業体験先として、なんとなくその場のノリで保育園を選んでしまう。
最初は「たった5日間のことだし、子どもと遊んでるだけだ、楽だろう」なんて思っていたけれど、いやいやとんでもなかった!
包容力のある園長先生、先輩である保育士さんたちから様々に学びながら、やがて風汰はいつも真っ白なシャツを着て、決してお友達と泥あそびをしない男の子、しおん君のことが気になり始め……。
現代の日本の世相が巧みに取り込まれていて考えさせられる部分もありつつ、重くなりすぎずに楽しんで読める青春小説。軽やかな筆致で、あっというまにラストシーンまで連れてこられてしまいます。読後感も爽やか。
〇「平和のバトン 広島の高校生たちが描いた8月6日の記憶」
弓狩 匡純・著 / くもん出版(2019)
広島市立基町高等学校では、「『次世代と描く原爆の絵』プロジェクト」が毎年行われているそうです。こちらは、長年にわたるそのプロジェクトを紹介したノンフィクション作品となっています。
プロジェクトの具体的な内容としては、この学校の創造表現コースの生徒さんたちから有志を募り、被爆体験者である年配のかたから丁寧に話を聞きとって、その体験を一枚の絵にするという作業になるとのこと。お一人の被爆者の方に対して、一人の生徒が一枚の絵を描き、完成させます。絵は毎年一般に公開されます。
こちらの本では、そのうち何組かの参加者へのインタビューと絵そのものをカラーで紹介。被爆者の生々しい被爆体験の話は、本当にリアリティを持って目の前に迫ってくるようです。正直、私も涙なくして読めないページが多数ありました。
当初、戸惑いながらも被爆者の話を聞き、当時の生活様式や衣服、道具や建具の様子などまで細かく調べ、何か月もかかってひとつの作品に仕上げていく生徒さんたちの生の声が印象的です。現実の被爆者と被爆体験を共有したことで、かれらが何を感じ、何を考えたか。その成長の度合いがリアルに伝わってきます。
多くの生徒が芸大など絵画方面の進路を選ぶというかなり専門的なコースではありますが、絵を描く、描かないにかかわらず、現在の多くの学生にとっても有意義な一冊だろうと思います。
〇「11番目の取引」
アリッサ・ホリングスワース・著 / もりうち すみこ・訳 / 鈴木出版(2019)
アフガニスタン難民のサミは、祖父と共にようやくのことでアメリカへやってきた少年。祖父はルバーブ(伝統的な弦楽器)のすばらしい弾き手で、これを道で弾くことでお金をもらい、細々と暮らしていました。
ところがある日、サミの不注意でルバーブが盗まれます。必死に探し回った末、とある店で売りに出されていることがわかり、サミはそれを買い戻そうと必死に知恵を働かせはじめます。
店主と約束した期限は一か月。それまでに、子どもにとっては大金である700ドルを集めなくてはなりません。しかもそれが、ちょうど断食の月なのです! 彼らの宗教では、断食のあいだは日中、ふつうの飲食ができません。ましてサミは育ち盛り。はらぺこで、それでも必死に考えて、あれやこれやと子どもなりにお金を得ようとがんばります。
アルバイトができる年齢ではなく、基本的には持ち物の交換なので、なんとなく「わらしべ長者」を思い出します。
当初出てくる意地の悪いクラスメイトに半ばだまされて、祖父が貧しい中から買ってくれた大切なものを奪われるシーンもあったりしてハラハラさせられるのですが、周囲の友だちやその家族の温かな助けもあって、サミは次第にお金を貯めはじめます。
実はサミには、非常に重い過去の傷があります。もちろん、アフガニスタンでの思い出です。それは幼い彼にとって、きちんと思いだすことさえ難しいほどの大きな傷なのです。
彼がそれを思い出し、お金を集めるために周囲の人々、とりわけ新しい友達との協力を得てがんばる部分がもう「胸あつ」です。最後は絶対泣くやつでした。
「平和のバトン」も泣きましたが、これはそれ以上です。作者様はアフガニスタン難民に詳しく、彼らを支援するボランティアもする方のようです。こちらの作品がデビュー作ということですが、まっすぐに真摯にテーマに向き合って執筆している姿勢が伝わってきて、力のある作家様だなと思いました。
三冊のなかでは私はこちらがもっともお勧めです。
なにか一冊でも「読んでみようかな」と思っていただければ幸いです。
よろしかったらどうぞ!