27 「きみの友だち」(重松清)
ほかの学校図書館でどうなのかはよく知らないのですが、うちの図書館には重松清さんの著作が比較的たくさん入れられています。
タイトルに選んだ「きみの友だち」は、中学1年生の国語の教科書でも紹介されている作品。
「きみの友だち」
重松清・著 / 新潮社(2008)
「きみ」という二人称で進んでいく、ちょっと珍しいつくりの短編集で、主人公はそれぞれの話で変わっていきます。中心人物となるのは恵美という交通事故で片足を悪くしてしまった女の子。
彼女がその事故をきっかけにクラスで孤立するようになり、病気がちでやっぱりクラスから浮いているおっとりした少女、由香と少しずつ仲良くなるところからお話は始まります。
彼女の周囲にいる色んな子どもたちの視点から、それぞれの悩みや心配ごとや、親友かつライバルへの言葉にしにくい微妙な気持ちなどが、短編連作として語られていくスタイル。最初は小学生の恵美から始まりますが、彼女が大人になるまでの非常に長い年月にわたる話にもなっています。
根底にずっとあるのは、「友だちってなんだろう」ではないかなと思いました。
個人的には恵美の8歳下の弟、文彦と、その親友かつライバルである基哉の青春いっぱいでちょっと甘酸っぱい物語がとても好みです。
重松さんの作品は、どれも言葉がとても平易です。ひとつも肩ひじはったところがなく、まったく飾らず自然体。この、すっと心に入ってくる素直な文体に好感が持てます。全体に、中学生でも十分理解できるような易しい語彙しか使っていないのも特徴のひとつでしょう。
それでいて、厳しいリアルの世界の暗さや汚さから目をそらさない筆致。決しておしつけがましくはないけれど、いまの子どもたちにとってなにかのヒントになれたら……という、作家としての思いのようなものを感じます。
そのためなのか、国語の教科書にも、例の「リトル・トリー」が入っていた「わたしたちの本棚」にも、重松作品は選ばれています。主人公が思春期と言われる小学校五年生ぐらいから中学生に設定されている作品が多いことも理由のひとつなのでしょう。
うちの図書館に入っているものをちょっと紹介しますと、
「ナイフ」(わたしたちの本棚)
重松清・著 / 新潮社(2000)
「エイジ」(2年生国語教科書)
重松清・著 / 新潮社(2004)
「ブランケット・キャッツ」
重松清・著 / 朝日新聞社(2008)
「小学五年生」(2年生国語教科書)
重松清・著 / 文藝春秋(2009)
「卒業ホームラン 自薦短編集・男子編」
重松清・著 / 新潮社(2011)
まだまだありますが、ひとまずこのぐらいで。
この中の「卒業ホームラン」については、うちの学校で放送読書のテキストとして選ばれたこともあります。
作家さんご本人がおっしゃるとおり、全体に派手なことは何もなくて、むしろ「ナイフ」などはまっすぐにいじめがテーマになっていたりしますし、子どもたちにお勧めするときには、あまりおしつけがましくならないように、よくよく考えなくてはならない作品群ではあります。
ですが、中学校の司書として、これもまた学校図書館になくてはならない本たちのひとつではないかと考えている次第です。
ささやかなものですが、なにかのご参考になれば幸いです。