25 読み聞かせ
そう言えば、このことについてちゃんと書くのを忘れていました。
私が司書として配属されたのは中学校ですが、入ってわりとすぐに提案させていただき、ここでは一年目から司書による各クラスへの読み聞かせがおこなわれています。
幼児や小学生を対象にしたものはよく聞きますし、「中学生に読み聞かせ?」と不思議に思われる方も多いかもしれません。けれども、最近は比較的大きなお子さんにも、さらにはれっきとした大人の方々への読み聞かせについても、一定の意味や価値があるという風に見直されてきています。
さて、私自身の「読み聞かせ歴」とでもいったものは、自分の子供が幼稚園に入ったとき、そこで行われていた保護者ボランティアに参加したことから始まりました。
そこから子供が成長していくのに合わせて、小学校での図書ボランティアに関わるようになり、そこで知り合った先輩ボランティアさんたちから学校司書のことを聞きました。すでに学校司書として資格をとって働き始めていた先輩から「つづれさん(仮名・笑)もやってみたら」と勧められたのが、この道に入ったきっかけです。
幼稚園、小学校と段階的に読み聞かせをしてきて、さて、いざ中学生に読み聞かせをすることになった時、最初は不安もありました。
「けっ。そんな子供っぽいことに付き合ってられっかよ」みたいな態度でちっとも聞いてくれなかったり、机につっぷして寝てしまうような子がいるんじゃないか……などなど、考え出したらきりがありませんでした。
けれども、その時図書館担当だった先生に励まされ、読む本のアドバイスも頂き、さらに何度か実際に読む練習にさえお付き合いいただいて、実現することになりました。
実は私、声があんまり通らないのです。
その先生は、「私、つづれさん(仮名・もういい)の声、とっても好きです!」とおっしゃって強く励まして下さったのですが、もう本当に通らなくて申し訳なくて。大勢の生徒たちがわあわあいってる場面などでは特に、まったく人の耳に届かない声の質でして……。
静かであれば教室の後ろまで届くでしょうが、ひとたびざわつき始めたらどうなるかなあ、と不安だったものです。
でも、です。
こちらの中学の生徒たちは、私が思っていた以上に素直でした。
読み聞かせのときには、いつものような机と椅子に座った形ではなくて、教室の前のほうに椅子だけ持って集まってもらうようにしています。普段とちがい、すぐそばに友達が座っていることもあって最初のうちはどうしてもごそごそとざわつくことが多いです。
でも、そうやって最初のうちこそ私語を繰り返して落ち着かなかったような子でも、お話がだんだん進むにつれて静かになり、しんと耳をすませてしっかり本を見つめて聞いてくれたのでした。
なんと言うか、これこそ本の持つ力だなあと思います。
ちなみに最初に読んだのは三年生に対してで、本は絵本「はちこう」でした。これは先生のチョイスでした。三年生が東京への修学旅行にいくことが決まっていたからです。
「はちこう ―忠犬ハチ公の話―」
くめ げんいち・著 / 金の星社(1971)
こちらはもちろん、みなさんご存じのあの忠犬ハチ公の物語です。
本当は私、こういう「泣かせにくる」お話の読み聞かせが苦手でして。
私自身が泣いてしまったのでは始まらないのに、練習の時から何度もその悲しいクライマックス部分で声を詰まらせてしまいそうになって、とても苦労した覚えがあります。
どんなに気分がもりあがるところでも、本来、読み聞かせは淡々とあまり読み手の感情を入れこまないほがよい、と以前のボランティアのときに教わっていたので、そこは気を付けて読みました。
この学校での最初の読み聞かせからすでに二年以上が経過していますが、幸いなことに、変わらず読み聞かせの活動は続けられております。
本の選択については、事前に先生方と相談し、先生からのリクエストがある場合はそちらを優先させています。朝の読書の時間を使うため、大体十分少々で読み切れるものを選んでいます
最近の子は、わたしたちが「ふつうに有名な作品」と思っているような昔話や童話、神話などでも案外と知らないことが多いので、そういうものや落語を絵本に落とし込んである作品などを読むことが多いです。
先生からのリクエストで読んだのは、やはり絵本でした。
「100万回生きたねこ」
佐野 洋子 作・絵 / 講談社(1977)
これもほんっとうに、完全に泣かせにくるやつで困りました……(笑)。
最初のうちは読み聞かせに懐疑的だった先生からも、近頃では「朝の読み聞かせがあると、不思議と生徒たちが落ち着くようですね」とか、「今度の読み聞かせ、子どもらすっごく楽しみにしてますよ」と、温かな声を掛けて頂けるようになってきました。
どんなことでもそうですが、やってみて、ひとつひとつ着実にこなして、一歩、いや半歩ずつでもいいから前進する。
それが大事なのかなあなんて思います。
今後も自分の体と声のつづくかぎり、良い本を選んで生徒たちに読み聞かせをしていきたいものです。