20 陸上作品を2つ紹介
という訳で、今回はまた本のお話。
最近、わりと続けて陸上をテーマにした小説を読んでいたので、一緒にご紹介します。
ひとつ目が佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」。
「一瞬の風になれ」佐藤多佳子・著 講談社(2006)
神谷新二は高校1年生。天才的なミッドフィルダーである兄、健一に憧れて、追いかけて追いかけて、でも自分の才能に限界を感じてサッカーの道を諦めた少年。
高校からは強力な勧誘と、これまた素晴らしいスプリンターとしての才能を持つ親友・連との関わりから陸上部に入り、短距離走を始める。
天才的な才能を持ちながらあまり努力もせず、フラフラと目標の定まらないように見える連に苛立ち、「お前走れよ」と言ううちに、「お前は走らないのか」と切り返されて入部を決めた。最初はそんな感じで始まる物語。
主人公の新二は本当に根性があって熱い男で、はっきり「速くなろう」と思ってからの努力たるや凄まじいものが。それに引きずられるようにして、今まではわりとちゃらんぽらんだった天才・連まで、あまりにきつい練習で吐いたり、合宿所から逃げそうになったりしつつもなんだかんだ頑張るように。
最初は目立たない感じの同じ部の女の子、谷口さんへの新二の淡い思いがとてもいい感じ。実際は(何故か)部内恋愛禁止だし、告白なんて出来ないしで、読んでるこちらはひたすらもだもだ身悶える。
もちろん強力なライバルも!
他校のスプリンター仙波は、谷口さんが密かに恋してる相手らしい上に、物凄い実力者。
でもとてもカッコいい。
苗字に「仙」の字があるためか、私は往年のバスケットマンガのライバルキャラクターをどうしても思い浮かべながら読んでしまいました(笑)。
全3巻ですが、もう途中からは止まれなかった。
先輩と後輩の人間関係、一見飄々として見える顧問の先生の実は重い過去の話など、バックボーンも厚くてとても秀逸です。
まさに短距離走のように駆け抜けていく物語。爽やかで希望溢れる読後感。もはや圧巻でした。本当におすすめです。
次に、瀬尾まいこさん著「あと少し、もう少し」。
「あと少し、もう少し」
瀬尾まいこ・著 新潮社 (2015・文庫/2012・単行本)
瀬尾まいこさんは本屋大賞を取った「そして、バトンは渡された」でも耳にされたことがある作家さんかと思います。
こちらの中学校の駅伝大会を中心に話が進みます。
ちょうど駅伝で襷を繋ぐ順番通りに、本番へ向かって努力していく6人の少年の姿が生き生きと描かれていきます。
陸上部だけでは人数が足りず、最初は部長である桝井くんが3人の少年に声をかける所から始まります。
部内のランナーである設楽は、元いじめられっ子で消極的。
大田は、走ることは好きだったけれどどこかでボタンをかけ違ってしまってみんなの輪には戻れず、授業を放棄してタバコを吸ったりしている不良。
底抜けに明るくてムードメーカー的な存在となるジローはバスケ部出身。
なかなか自分の内面を見せず、聡明でクールな吹奏楽部員、渡部。
さらに部内の2年生、俊介。
物語は順番にそれぞれの視点で語られていくことになります。みんなそれぞれに何かを抱えていることが、ページを繰るごとに多重奏のように明瞭に見えてきて深まっていく。
そして最後にはみんなが愛おしく思えてきてしまいます。
一人一人、次のランナーに襷を渡すシーンが感動的で、何度も泣きそうに。
「一瞬の〜」に比べれば短いのですが、これもまたおすすめです。一冊にまとまっている分、中学生にとっては手がだしやすいかもしれません。
個人的にはラスト近く、俊介がある人を「好き」だと分かるのですが、そこで腐った私は「え、そっち? そっちと理解していいの?」とえらい興奮しましたごめんなさい(笑)。これは個人で認識が分かれるところかもしれません。
ほかに、ヤングアダルト小説の陸上ものとして気になっているのが、あさのあつこさん著の「ランナー」シリーズなのですが、残念ながらこちらは未読。
何となく、どこぞのレビューを見るとやたらと「一瞬の〜」と比べられて低く評価されているのが気の毒に思えますが、また読んでみたい作品です。
今回はこんな感じでした。
なにかのご参考になれば幸いです。
ではまた、次の機会にお会いしましょう!