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16 課題図書


 ちょっとといいますか、かなり時期外れになってしまって申し訳ないのですが。

 今回のテーマは課題図書です。


1.課題図書とは

 課題図書について、このエッセイをお読みくださっている皆様には、いまさらしかじかと説明する必要もない方のほうが多いとは思う。が、一応記載しておくと、大体こんなようなことだ(「図書館情報学用語辞典」からの引用)。


(1)学校における読書指導の一環として、休暇期間中などを利用して読むことを

   推奨した図書。個別の学校で選択することも少なくない。

(2)大学の授業における必読図書。大学図書館では、これを指定図書として扱っ

   ている場合がある。

              【出典:図書館情報学用語辞典 第四版】


 もちろん今回とりあげるのは、このうちの1番の課題図書だ。

 日本では、公益社団法人全国学校図書館協議会と毎日新聞社が主催する「青少年読書感想文コンクール」が「課題図書」として設定するものを指す場合がほとんどだろう。


2.読書感想文について

 さて、夏休みの読書感想文。

 実は余談ながら、いち学校司書ではありながら、あれほど子供たちを読書から遠ざける活動もないような気がしなくもない私である。かく言う自分自身、学生時代にあれにいい思い出がひとつもない。むしろ本ぎらいになった大きな原因のひとつといってもいいぐらいだ。


 本に関する感想などというものは、個々人が心の内で自由に感じたことでいいわけで、基本的には他人にどうこう言われる筋合いのない話だ。

 読書ノートや個人的な感想文としてそれを文章にまとめることはいいにしても、それを教師やら感想文の選定委員の目に広く触れさせて「あれはいい、これはダメ」となにかしらの点数をつけられ、つまりは「評価」がくっついてくるところが、なんとも悩ましい部分のように思われる。

 ひとは本来、「よくない評価」をされることと、他人と比べられることを嫌うものだからだ。


 個人的に楽しんできた趣味などでも、いざコンテストに出すとなれば他人の作品と比べられ、批評されて他人の目によって価値を決められることになる。それが全部悪いとは言わない。高く評価された人にとっては大いに励みにもなるわけだからだ。

 けれどもこうした活動が、本来であれば自然発生的に心から発露する「なにかを表現したい」という気持ちに大いに水を差すのも事実ではあるだろう。

 実際、「評価されない」大多数の生徒たちは、「夏休みの読書感想文」というワードを聞いただけで毎年かなりげんなりした顔になるのが、多々見受けられる。これは実際に現場で目にした事実なのだ。


3.課題図書の紹介

 というわけで、私個人としてはこの「夏休みの読書感想文」という活動そのものには大いに疑問を感じている。

 だがまあ、それはそれ、これはこれだ。

 学校司書として、毎年選定されてくる課題図書は必ず先にすべて読んでおく必要がある。単に読むだけでなく、その後、それをいかに子どもたちに興味を持ってもらえるように紹介するか、というのが仕事のひとつになるからである。

 また「いかに興味をもってもらうか」ということになれば、そこはそれぞれの司書さんたちの腕の見せどころといえるだろう。


 うちの学校の場合、読書感想文の書き方を指導する国語の授業のときに、クラス全体で図書館を利用してもらうことになっている。そこで、こちらから課題図書の紹介もするという活動をおこなっているのだ。

 先生から頂ける時間の長さにもよるが、課題図書の内容だけでなく、それに即した地図や辞典なども紹介して、物語の背景についてちょっと説明してみたり、当時の歴史について話してみたりする。もちろん物語であれば、簡単な導入部分や登場人物について紹介する。


 そういえば以前、和算についての本だったときには実際に図書委員と和算をやってみた司書さんもおられた。とにかくいかに本に対する興味を持ってもらえるか。そこがすべての肝である。

 そうして、もちろん時間が許す場合には、課題図書以外で夏休みの読書に向きそうな本の紹介もおこなう。

 そうやって紹介した本の後の動きは、もちろん目を瞠るものがある。つまり、基本的には奪い合いの早い者勝ちだ(笑)。


4.課題図書の購入

 毎年、この課題図書は春先には決定されている。

 夏休みが近い時期になってしまうと在庫切れなどが起きて手に入りにくくなってしまうため、注文は毎年、最速でおこなう必要がある。うちの場合は5月の半ばごろにはもう届いていて、私自身は5月末までには3冊とも読み終えているという状況だ。

 

 そして、毎年悩むのがその購入冊数である。

 課題図書は、その年だけは多くの生徒が興味をもって読みたがるのだけれども、翌年以降はそこまで人気のある本とはならない場合がほとんどだ。しかし、授業の時に紹介すると、みんな一気にその本に殺到してしまうことになる。副本の購入は必須なのだ。

 というわけで、その購入冊数について悩むことになる。

 中学校だと三学年であり、ひとつの本についてクラス数ぶんなどとすれば、同じ本を一気に何十冊も購入しなくてはならなくなる。が、それはまったく現実的とは言えない。翌年からあまり借りられなくなると分かっている本を、そうそう大量に購入するわけにはいかないからだ。

 小学校では低学年、中学年、高学年と分かれて課題図書が設定されていることもあり、司書さんたちは中学校よりももっと悩んでおられるのではと推察している。


 そんな事情もあって、うちの学校の場合は、毎年図書館担当になった先生と冊数の相談をしてからの購入ということにしている。

 ちなみに今年は、1タイトルにつき6冊までとした。実際はこれでも多すぎるほうである。正直、3冊ずつにしたいのが本音だ。

 仕方がないので翌年以降は、できるだけ学級文庫のほうへ回すようにして、なるべくみんなが手に取るように工夫しているところである。


5.今年の課題図書(中学校の部)

 最後に、今年(2019年)の中学校の部の課題図書について、その内容や私個人の印象とともに少し紹介しておこう。


〇「星の旅人 伊能忠敬と伝説の怪魚」 小前亮・著 / 小峰書店(2018)

 主人公は、昨年の蝦夷地測量で行方不明になった父をさがす架空の少年、平次。

 彼は伊能忠敬に、次の測量の旅に連れて行って欲しいと頼み込み、道中その作業を手伝うことに。「伝説の怪魚」についてはお話の最後でやっとわかるけれど、これがなかなか意表をついていて面白い。

 当時の江戸の文化や天文、具体的な測量技術や方法、道具などの資料や、忠孝の意外な一面が知れるイラストなども豊富で、歴史の初心者にとってじゅうぶん興味深い。歴史を学ぶ入り口として、全体に最適な編集がされている印象。

 同作者による「真田十勇士」や「西郷隆盛」などの作品もあるが、こちらも読んでみたくなった。


〇「ある晴れた夏の朝」 小手鞠るい・著 / 偕成社(2018)

 ヒロシマ・ナガサキへの原爆投下は、是か非か。アメリカのハイスクールに通う8名の男女が、夏休みにおこなわれた公開討論会に参加する。

 アメリカではいまだに「原爆投下は戦争を終わらせるために正しかった」とする意見がある。彼らがこのことについてさまざまな資料を集め、聴衆の心をつかみながら激論していくという内容。

 主人公は日系アメリカ人のメイ。否定派として参加するが、様々な背景を持つ生徒たちがそれぞれの立場から事実を暴き出そうと語りあう姿が重くも爽やか。

 もしドイツがあの当時の日本と同じ立場にあったとしても、ドイツに原爆は落とされなかったであろうと言われている。それは何故か。戦争の奥底にひそむ、人間の恐ろしい心のありかたにまで迫った良書。中学生にはぜひ読んで欲しいと思った。


〇「サイド・トラック 走るのニガテなぼくのランニング日記」

 ダイアナ・ハーモン・アシャー・著 / 武富博子・訳 / 評論社(2018)

 主人公ジョセフは、ADD(注意欠陥障害)をもつ中学一年生。運動は大の苦手だったのに、大好きな先生に勧められ、転校してきたスポーツ万能少女ヘザーにはっぱをかけられるなどして、クロスカントリー走に挑戦することに。

 当初、周囲の生徒にいじめられることも多かったジョセフが、走ることを通じて友達との交流を深め、ついにはいじめっこを……?? という物語。

 本人がのほほんとしているため、いじめと思われるシーンもさほど重くなく読み進めやすい。先生の描写も温かくさわやか。

 作者は実際にADDの息子さんを持つ人であり、作中のジョセフの描写や目線が優しいのがとても好印象だった。


 ちなみに個人的に、今年はなかなかどれも「当たり」な本だったかなと思っている。

 みなさんはいかがだろうか。

 是非、書店や図書館で手に取ってご覧いただきたいと思う。


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