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ひねくれ学生と幽霊少女

作者: 正

 御託を並べる。

 何故って?

 俺はそんな性格なのだろう。

 ひねくれているというのか? コミュ障? それともただのバカなのか? それは相手の見方によって変わるからよしとする。

 ここで語っても埒が明かない。

 通っているのは至って平均以下の高校。他の学生には見下されてはいるが、特別な理由で普通に頭のいい奴も通っているんだ。

 特別っていうと、他の高校は居心地が悪いとか金がかかるとか、将又中学生時代いじめる側の奴だったりいじめられた奴だったり。

 人は色々な生活や環境に理由があるってもんだ。その理由を探るのは本来御法度な気がしてならない。人に詮索されたら誰だって嫌に決まっている。

 自慢じゃないが俺は特別頭がいいというわけではない。

 そんな俺でも入学できた新台高校。

 この高校は様々な出会いがありそうだから、決して悪い高校ではなさそう。俺の直感がそう告げている。

 だが、高校には変な噂があった。

 ある部屋で美人な幽霊がいると。

 確かな情報らしい。 


 制服を着てスマートフォンを取り出した。

 昨日から制服のポケットの中に入れたままだった。当然、友達からのメールやら何やらがきていると思っているのは大間違いだ。

これ以上は……とかぶりを振った俺はスマートフォンの電源をつけて中身を確認する。

(まあ、だれも来ていないだろうがさ)

 心の中にそっとつぶやく。

 唯一受信されていたメールは、アニメやゲーム関連の情報が詰まったステキなメールだ。人間関係が良くも悪くも俺にとってはこんなものだ。

 だいたい今日は入学式から一週間。

 こんな時期からメール送る奴……まあいるのか? わからないがこういうものだろう。

 自分で言ってはなんだが、どういうものなのか知らないのだが……

 そんなしょうもない話はどうでもいいとスマートフォンにタップする。

 かわいいお星様が万遍なく散りばめられている画面が現れた。

 最近、占いが気になって仕方ないのだ。

「今日のみずがめ座の運勢は……外を出歩くと運命な出会いが待っているかも。ひょっとしたらステキな出会いが待ち受けているかも……か……」

 ふっと声を漏らす。

 内心ちょっと部屋を駆け回りたい衝動に落ちいたが、高校二年の俺が部屋を走り回るのはいかがなものかと。

 脳裏でその光景を想像するが、すぐに打ち消した。

「まあ、悪くないがな……」

 誰にも聞こえない声でぼやく。

 実際、家に一人しかいないのだから独り言を言っても誰の耳に届かんだろう。一人というのはうれしいものであり、寂しいものである。その点、俺は前者かもしれないな。

 これでは俺は友達はいませんと宣言しているようだが、いないわけではない。かといっているというわけではない。

 上手くはいえないが、友達と認識する基準がわからないのだ。自分が友達と思っていても相手が「いいえ、違います」なんてよくあることだ。もちろん逆の場合もある。これは友人間の問題だけではなく恋愛とかそういう間がらも通用する話だ。それに友人という概念が必要かどうかさえ怪しくもある。

 そういう話は置いておいて。

 スマートフォンを下にスクロールする。

 占いの画面には三つのポイントという表記が現れる。

 ラッキーカラーはシルバー。

 俺の自転車のカラーはシルバーだ。特に問題ない。強いて言うならば携帯電話……じゃなくてスマートフォンにつけているストラップもシルバーだ。

 そして今日のラッキーアイテムはポケットティッシュ。

 手軽でいつどこでも使える代物だ。特に鼻炎の俺には必要不可欠な存在であり、友達みたいなものだ。

 今日の俺は友達やらなにやら、人間関係というかコミュニケーションというか。そんなものにこだわっているらしい。

 占いでも表記されていたからな。ステキな出会いがあると。

 入学式が終わり一週間。

 これからどんな学校生活でどんな青春を謳歌しようか。

 少々浮足が経っているのかもしれない。

 俺は強く頬を叩く。

「痛っ!」

 つい、声を荒げてしまっていた。

 痛みの衝動と同時に時計を見上げた。

(そろそろ行くか……)

 俺は扉の鍵を確認し、家を出た。


 時計の針は十六時の針をさしていた。

 学校の教室内の話だ。

「って、なんで俺がこうなるんだよ!」

 黒板に向かって、いいやそこに立っている女教師に向かって軽く苦情をいれるような感じで文句をいう。

「うわっ……」

「キモいな……」

「早く帰りたいからサー君でいいじゃん!」

たかだかこの言葉を少々荒げたようにいうだけで、冷たい視線が少しでも飛び交うのだ。自分に。

 それとそこの女。

 俺から見て左斜めに座っている女。お前のことだ。

 勝手に人のあだ名をつけるんじゃない。もっともお前と話した記憶もないし馴れ合いもしたことないのだがな。

 あともう一つ。

 どうして俺の名前を勝手に覚えているんだ。

 どうせ、席が近いから名簿やら何やらでたまたま覚えていただけに過ぎないと思うが。

「別にいいじゃないですか。それとも自信が無いの? 君はもう少し積極的に動いたほうがいいの。時間は有効に使ったほうがいいのよ」

「だがな……俺みたいなチンケな奴が生徒会役員を押し付けるってどうよ……もとい……どうなのでしょうかね?」

「あなただから任せられるのよ」

 つまり期待されているのか? そんな甘い一言が脳裏に浮かび始めるがすぐにその言葉をかき消した。

 俺はその話には乗らない。

 そう格好よく口にしたいが、やはり一学生の俺には言えない。

 アニメやゲームだから言えるのかもしれない。

 もし口に出しても空想劇と違って、場の雰囲気、その人物の性格、立場、何かしらのニュアンスの違いの差異が生まれるのかもしれない。

 だから格好よく言えないのだ。きっと。

「君には任せられるよ。というよりどうせ暇なのだろ?」

 俺はその暇って言葉が大嫌いだ。

 自分は忙しいとか、他人を見下しているやつに言える言葉だ。少なくても俺はそう思っているのだ。無限大な時間は無いのは理解しているしそうそう時間が取れないのは知っているつもりだ。

 でも、暇な時間なんてみんなあるのだ。

 かといって今の現状、目の前の教師に言葉を選ぶ頭もなく、言葉を走らせる気力ももっぱらないのだった。

 学生は学生でその場の雰囲気に飲まれては生活を強いられる、ある意味生き辛い時期なのかもしれないのだ。(大人になったら学生のときが一番だった、なんて言ってしまうのかもしれないのでやっぱり、偉そうには言えないか)

「おい、聞いているのか?」

 俺の顔を窺ったのか、少し苛ついた様子で貧乏ゆすりをしている。

「え、ええ。聞いていますとも」

「それじゃあ決定な」

「えっ、ちょ、ちょっと!?」

 内心、歯ぎしているような表情(自分の想像の中で)を見せる中、勝手に話を進めようとする教師は白いチョークを手に持つ。

 白い粉がこびりついた指とともに、華麗にチョークを動かした。

 そして黒板に名前を書き加える。

 サー君と。


 晴れて生徒会役員になったサー君もとい俺は、学校を少し見回るという名の時間つぶしをして三階の階段を上がる。

「何が今日のラッキーカラーはシルバーだ……」

 もし自分が気の短い奴だったらすぐに壁やらを殴っていたところだ。そこまで粗暴な男ではないとは思うが。

 その間に、鼻の中に水が入ったようなぐちゅぐちゅとした音が鳴る。鼻をすするとよく出る嫌な音だ。

 ポケットからティッシュを取り出して鼻をかむ。この時期、鼻炎の俺は辛いのだ。

「持ってきてよかったぜ」

 っと、内心で言葉を発する。

 だが、途端にむなしさが出てきた。

 確かに教師に言われた通り、暇なのだな。俺は。

 他に考えることがあるだろう、そう思ってくるのだ。だが、人という人種は考えるのはやめないのだ。もっとも俺はいつも脳がフル回転だ。おかげで糖分が欲しくなる。

 よくも悪くもな。

 廊下を歩くと物珍しいそうにこちらを見てくる年上の男子生徒と女子生徒諸君。

 まあ少数だから気にはならないものの、こちらを見てはクスクスと笑い声や「あいつ生徒会に入るのか?」と声が耳に飛び交う。

 生徒会役員になって馬鹿にされるのか?

 それとも俺はそんなに顔が不細工で、人目につくほどの出来の悪いオーラを出しているのだろうか? まあ前者はともかく後者は自分から見て合っていなくもないがな。

 この時の俺はまったく理解できなかった。


 人混みが少ない廊下の奥に、生徒会室と書かれた一枚の札が無造作に扉に張り付けられていた。

 まるで廃部寸前の部活と一緒だ。

 いや、むしろもう廃部しているだろ。

「しかしまあこんなところに……」

 生徒会室の扉の一歩手前で立ち留まる。若干の悪感というか寒気みたいなものが肌を通して感じる。

 この周辺は、人がほとんど人が通らないからお化け屋敷を通っているような感覚と同じだ。

(本当にここが生徒会室なのか……)

 周りを見渡して確認する。

 正直いったい何を確認していたのかわからないが、一応。

(まあ入ったらわかるか)

 一呼吸して扉をノックする。

(これで何もなかったらそれはそれで……)

 脳裏でサボる算段をしていたが、正直無理だった。

「どうぞ」

 扉の向こうで、澄んだ人の声が鳴る。

 女の声だ。

 男の声よりはましだ。俺は男だから女のほうがいいに決まっている。

 そんなどうでもいい思いを寄せながら扉をあける。

「あら? もしかしてもしかして………新しい入部者? かな?」

 水色の人……という言い方は失礼か、水色の透明感のある長い髪の人が目の前に立っていた。恐らく自分が来る前に読書していたのだろう、文庫本サイズの本を閉じて椅子から立ち上がった。

 青く輝く瞳がこちらを見つめる。

「えっと、そうですね。ニューフェイスみたいなものです……」

「なにそれ、おかしい子」

 そう言って、水色の髪の人は口元に手を当てて笑った。

 何が可笑しいのだ。と口走りそうになったが、ひどく(いい意味で)可愛らしい容姿だったので許してしまった。ここで文句の言葉を走ると、器の小さい男に過ぎない。

「ところであなたの名前は?」

 水色の髪の人は顔を覗くように腰を下げて名前を聞いてきた。

 あまり人から名前なんて聞かれたことないから、内心、どきっとしまっていた。

「そうだな……」

 口を開いて五文字の名字と三文字の名前を口にした。

 すると、天井を見上げて、

「じゃあサー君でいいかな?」

 そんな腑抜けたことを口にした。

「えっ、いや……まあ……」

 何きょっどってんだ俺は。

 というよりあんたもかい。よりによってあの左斜め席の女と同じことを言うのか。

「じゃそれで」

「良かった!」

 両手を合わせて笑顔になっていた。

 本当にこういう人いるんだ。そう思ってしまっていた。なにせサブカルチャーから来た住人みたいな態度や口調。それを奮闘させる雰囲気。つまり二次元から来たと言いたいのだ。逆にこういう浮いた人物がいじめられているか心配になるぐらいに。

「どしたの? もしかして不愉快?」

「いや、それでいいです」

 つい承諾してしまっていた。

 かわいいから許す。

 俺はこの言葉も大嫌いであったが、許してしまった俺がいる時点でもう嫌いでもなんでもない気がするんだが。

 というか軽い男だ。

「ねえ、さっきからどうしたの? うえの空というか、うわの空というか……」

 それを言うのなら、うわの空だ。突っ込みたいが俺自信もいわゆる天然という部類に入るのだ。そういうのは他の奴が突っ込むべきだ。

 まあ、この部屋には二人しかいないのだから意味がないのだが。

「わたしの名前、まだだよね。そのまま忘れるところだったよ」

「そっそうですね」

「わたしは柊雪羽。よろしくね」

 純粋な日本人だったのか。そんなことを思っている間に距離を縮めてきた雪羽はまたも顔を覗き込む。

「ああ、よろしくな。ところで気になったんだが……」

 辺りを見渡した。

「?」

 雪羽は姿勢を戻して軽く首を傾げた。

 いちいち態度があざといというか、本人はこれが素なんだろう。初対面だがらとなんでも疑ってはいけない。

「他に役員はいないのか?」

 率直な疑問を言った。

「いないよ」

「えっ?」

「だからいないんだって。嘘じゃないよ?」

 誰も君を見て嘘とは思えないんだが、もし嘘をついているのなら大した演技派だよ。

「つまり君一人ってこと?」

「うん」

「それじゃ……」

「サー君が二人目ってことだね」

「俺が来る前に来ていると思ったのだが……」

「来ないよ」

 そんなはっきり言うなよ。

「だって初めてここに来たのサー君だけ。つまり初めての役員よ」

 それおかしいだろ。

 前からここの生徒会あっただろ。もし、本当だとしても誰か一人勝手に役員に決められて様子を見に行ことするもんだろ普通。今の俺がそうだ。だから様子だけ、は見に行こうとこうして出向いているのだ。

 だが、さっきも言った通り、嘘ついているようには見えない。だとすると問題はこの子か? それとも俺がおかしいのか、将又ここの生徒会室がオカルト染みているのか。

「ちなみにだが、ここの生徒会室はいつからあった?」

「ずっと前からだよ」

「君は……雪羽さんはいつからここに?」

「五年――二年間だよ」

 五年?

 そう聞こえた気がした。

「えっとつまり俺の先輩?」

「そうよ! 君よりお姉さんなんだから!」

 雪羽は誇らしげに胸を張る。その様は愛らしくもあり、なによりその大きい胸が視線に移り、思わず視線を逸らした。

「それじゃあ雪羽先輩」

「なあに?」

「とりあえず座りましょう。さっきからその……足が攣りそうで……いいですか?」

「あっ! ごめんごめん!」

 雪羽は片づけられた椅子を引っ張り出して、自分の向かい側(入口側)の位置に木製の椅子を置いた。

「すみません」

 ご厚意に甘えて椅子に腰を掛けた。

 途端に椅子から悲鳴が鳴る。

「なにやらぎしぎしいってませんか? この椅子」

「ごめんなさい! 別の椅子持ってくるから!」

「いや、大丈夫ですよ。すぐに治りますから」

 雪羽が慌てるさまをみて、俺は呼び止めた。

「そう?」

 雪羽は青い瞳をうるうるしながらこちらを見る。

 そんな目で見ないでくれ。

 俺の心に響いてしまうから。

「ああ」

 冷静に振舞うように小さく言う。

 ちょっと俺カッコいいかも、と一瞬思ったが足を攣っているため格好がつかない。実際痛いのは痛いんだから仕方ないのだけど。頭じゃないぞ?

「ところで、生徒会って何の活動するところですか?」

「うーん。文化祭やスポーツ大会の企画や運営とか……新入生の説明会とかね……ええとええと……」

「要は沢山あるってことですね」

 すごいな。経った一年で企画も運営も一人で全部やったんだな。と思いたかったがさすがに一人では無理だ。

 普通に考えて。

「でも、ここの生徒会。とてもじゃないけど活きているようには見えないですけど。現に人もいないですし」

「そうね……それが現実だもんね」

 涙声でいう雪羽。

「わ、わかった」

 わからないままわかったって言ってしまうのはどうかと。だが、言ってしまった。

「わかったって……何が?」

 雪羽は目をぱちくりさせた。

 当然、そう返答するよな。

「えっとつまりな……俺が来たんだ。今年は真面目な生徒も多いし、他に生徒会役員を立候補した生徒は来ると思います」

 途端に雪羽の表情が変わった。

「こないよ」

 儚げな顔つきでこたえた。

「どうしてですか?」

 やっぱり何かあるんだな。どうしてなんて聞く必要もなかったんだが、 あえてここはそう言っとくべきだ。

「ここには誰もこないよ。さっきも言った通り、サー君が初めてなんだから」

 つまりあれか?

 俺が可笑しいのか?

「じゃあ俺って結構変わってるのかな? こういう薄暗――じゃなくて落ち着いた部屋に行きたくなるというか……俺何言ってんだ……」

 どこか疲れ果てた俺を見て、雪羽は笑って見せた。

「サー君って面白いね」

 何かこの子に面白いって言われると妙に癪なのだが。

 それとも――もしかして嫌味か?

 まあいいか。

「それじゃあ今日は挨拶ということで、ここでさよならにします」

 ノリでいったセリフに、文句も言わずに、

「そうだね。また明日ね」

 雪羽は返答した。

「ああ」

 俺は礼儀として軽く九十度腰を下げて一礼し、生徒会室を後にした。

 つまり明日こいってことか。


 時計の針は午後十時を指していた。

 普段なら晩御飯を食べ終わって適当に勉強してTVゲームをやっているところなのだが、どうしてからか、今日はやる気が起きないのだ。

 まあ、別に時間通りに動いているタイプではないから特別というわけでもないのだが。

 俺はマイペースなのだ。

「ねえねえ。学校どうだった?」

 俺の姉的存在、彩音が声をかけてきた。

 二個年上であり、別の高校で今年から受験生だ。

 黒髪ショートヘアーの女性でスタイルも良く、一応周囲から美人と呼ばれている。ちなみにいうと「それに比べてお前は……」というお約束的な付録も漏れなくついてくる。(最後のはいらないか)

「ちょっと聞いてる?」

 近くまで寄ってきた彩音は前屈みになる。

「おいおいその前に言うことあるだろうに」

 スマートフォンから垂れ下がるイヤホンをとって姉を見上げる。

 実の姉にこういうのも変な感じだが、確かにスタイルもいいし出ているところも出ている。まあ姉だから気にしても仕方ないのだけれど。

「エッチな画像でも探していたの?」

「ちげぇよ! って人の話聞いているのかよ」

「ごめんごめん。今度からノックするからさ。でもイヤホンつけてエッチな動画観てたらノックしても気づかないんじゃない?」

「それはそうだな……ってかエッチな動画観てないし観てどうするんだよ」

 とりあえず対応する。

 実際観ていないのだから。

「えっとそれは……まあいいわ」

「逸らしやがって……て何の話だ?」

 終始無音のイヤホンを適当に机の椅子に放り投げて、彩音に向き直る。

 じゃあ何でイヤホンつけていたんだ? という疑問が生まれるがそれは頭の端に置いておくとしよう。

「学校どうだったって話」

「どうって言われてもなあ」

 胡坐をかいている俺は、さらに姿勢を崩して床に横たわる。

「生徒会に入った」

 一言だけとりあえず言った。

「へぇ~珍しいね」

「そうか?」

「うん珍しい」

「そうだな。自分でもそう思っているよ。強制だけどな」

 頭の後ろに手を添えた。

「そっか~それでそれで?」

「廃部した部活そのものだったよ」

「生徒会って部活なの?」

「例えだよ例え」

「それで? どういう人いたの? 運命のイケメンとか? 男同士の恋愛なんて――きゃって感じ?」

 俺がイケメンに目を光らせてどうするんだ。普通そこは「かわいい子いたの?」だろ。それに最後は余計だ。

「一人だけ……女の子がいた」

「どんな子?」

「まあ……かわいい子だったよ」

「あんたがかわいい子なんていうの珍しいよ。病院でもいく?」

「俺は至って平常だ」

 一旦ため息をこぼして、

「でも確かに普通じゃないな。悪いモノを食ったかもしれん。病院行ったほうがいいかもな」

「ちょ、ちょっと!」

「冗談だ」

「もう! あまりお姉さんをからかうもんじゃありません!」

「それより姉さん」

「うん?」

 彩音は向き直る。

「いや、なんでもない」

「そう? じゃあちょっと早いけど先に寝るね。おやすみ」

 そう言って彩音は部屋を出て行った。

「幽霊見たなんて……言えないよな……」

 俺はそっと言葉を残していた。


 次の日。

 朝登校していつもの通りの生活(入学して間もないので生活というにはまだ馴染んでいないのだが)を送っていたが、今日は早く時間が過ぎていくように感じた。

 ちなみに今日のラッキーカラーは青。

 制服が青っぽいからいいか。

 そういう判断でいいことを心の底で願った。

というより、そんな当てにならない占いよりも重要なことがある。

 俺は雪羽に対して幽霊なのかを問いだしたい。

 真相がわからないと、俺の気が済まないのだ。

 本当に。

 相手側から見ると、すごく失礼な奴だと思われる可能性があるかもしれないが。


 放課後。

「疲れたな」

 ホームルームの時間が終わって、一息つく。

 手提げのバックを持って今いる教室を後にした。

 俺の足は三階の階段へとのぼり、右角を曲がって男子トイレが見えた先をさらに右に曲がって奥の突き当りの旧文芸部の個室を左に曲がる。

 まるで小さい迷路を辿っているようで、辿り着くのが面倒なぐらいだ。

 本当は帰ろうと考えていたが、俺の足はそうはさせてくれない。まるで筋肉を使えといわんばかりに強制的に生徒会室へと赴くように進んでいたのだった。

 俺の足は勝手だよ。まったく。

 くだらない突っ込みを内心思ったところで、無事に生徒会へとたどり着いてしまっていた。

 関わらないようにしよう、なんて考えていたのだが、何せああいう子だ。どういう子かというと途轍もなくかわいい子だ。

 どうやら俺は、あの子をかわいい子にしか目が映っていないらしい。

 我ながら最低だ。

 そんなとき、目の前の扉が勝手に開いた。

「来てくれたんだ~うれしいなあ」

 瞳をうるうるしながら現れた雪羽は感動したのか、鼻水を垂らしながら歓迎してくれた。

 我ながら、少しうれしかった。

 だが、一つ。

 鼻水を拭け。

「一応俺も生徒会の一員だ。ちゃんと来るさ」

 雪羽にポケットティッシュを渡して、雪羽はお礼を言った。

「でも、うれしいよ~」

 勢いよく鼻をかむ雪羽。その仕草は少々オーバーリアクションというのか、そう感じだ。

「わ、わかった。とりあず中に入れさせてくれ」

「うんうん!」

 二度頷いた雪羽は扉の前をあけて、俺はそのまま椅子に直行する。

 相変わらず廃れた椅子だった。カッターらしき刃物で切り刻まれている。不気味に思うが古い椅子は大抵こういうものだ。

「今日は何飲む?」

 雪羽は電気ポットの前でコーヒー、紅茶などの袋と睨みっこする。

 何やってんだと思いつつも、やはりその様は可憐であり、でもどこか間抜けというより天然な雰囲気を醸し出していた。

「それじゃお言葉に甘えてコーヒー」

「了解しました」

 どこかうれしそうに返事をした雪羽は紙コップを一個袋から取り出して、コーヒーの粉を入れてポットからお湯を注いだ。

 同時にテンポのいい鼻歌が聞こえる。

「なんかうれしそうですね。いいことあったのですか?」

「ううん。ただうれしいの?」

「うれしい?」

 俺は反射的に言葉を聞き返した。

「サー君がきてくれたことがとてもうれしいんだ」

 紙コップを目の前の机に置いた雪羽。

 俺はそれを受け取って、口に入れた。

「熱っ!? 舌が火傷しちゃったな」

 即座に紙コップから口を放して、口を手で押さえた。

 傍から見ると、間抜けな行動にしか見えないのだろう。

「もうダメだよ! ゆっくり飲まないと」

 それでも優しい口調で言い流す雪羽は、自分のカバンから飲みかけのペットボトルを取り出して俺の手を優しくどける。

 いったいどうするんだ。

「えっと……雪羽?」

 つい呼び捨てで言ってしまったが、どきどきしてどうしようもない状況だ。

「ほら、お茶だけど飲んで!」

「えっ、あっ……」

 雪羽に手を退かされ、無理やり介護されるような感じで口を開けさせられ、お茶が口に注がれていた。

 ごほごほと咳き込みをしてしまうのだろう。だが、あくまで少量のお茶だったためかそうならずに済んだのだ。

「すみません」

「いいのよ。言わなかったわたしが悪いもの。でも気をつけてね」

「気をつける」

 雪羽ははにかんだ笑顔で言った。

 この状況で、幽霊だなんて問いだすのはナンセンスだ。

 今日は止めておいたほうだ得策だ。

 そう思った瞬間。

「ねえ……」

 雪羽は口をゆっくり開いた。

 部屋が一変して、凍り付いたような空気になった。

「わたしがどうして生徒会室にいるのか……知りたい?」

 雪羽は背を向けたまま、窓から通す外を見つめていた。

 同時に雪羽の髪が靡き、石鹸のシャンプーの匂いが俺の五感の一番敏感な鼻を擽らせる。

「まあ……気にならないというのは嘘だな……じゃなくて……です」

「べつに無理して敬語使わなくてもいいよ」

「いや、俺は紳士的だから……目上の人には敬語使います」

 横目で雪羽は俺を見る。

「まったく……素直じゃないんだから。わたしの正体はここに住む幽霊……生徒会の仕事は私じゃできないから……誰かにやって欲しんだ。無責任かもしれないけどね」

 少しだけ声が揺れていたが、はっきりと耳に声が届いた。

 きっと無理して俺に話をしてくれているのだろう。

 同時に生徒会の活動をしたいと願っているような口ぶりだった。

「…………」

 まったくの思いがけない幽霊宣言に、思わず口を開ける。

「って、言えば信じるかな?」

「そうだな。信じるしかないだろ」

 俺から話を振ろうとしたからな。それに雪羽が嘘つくような子でもないだろうし信用するしかない。

「優しいね」

 雪羽はこちらに振り向いていった。

「よく言われる」

「もう……でも嬉しいよ」

「そうか。でも、それより重要なことあるだろ?」

「重要?」

 雪羽は小さく首を傾げた。

「生徒会の仕事やりたいんだよな?」

「うん……でも……役員の人いないんだよ? 生徒会の仕事を全部サー君に強制するわけにはいかないし……」

「俺がなんとかするよ」

 咄嗟に自分に責任を押し付ける言動をしてしまった。

 だが、後悔はしていない。

 彼女のためなら。

 ひょっとしたら俺は一目ぼれ、というものをしてしまったのかもしれない。

「えっ、でもね」

「でももクソもない。俺も一応ここの人間だ。心配無用だ」

「本当に?」

「問題ない」

 胸を張る。そして、

「でも……」

「でも?」

「全部の仕事はやらんぞ? 会長とかそういう俗にいう偉い人ポジションは引き受けん」

 微妙に情けないセリフを言ってしまった。

 意気揚々としていたさっきの自分を無性に殴り飛ばしたい。

「てっきり、サー君一人で全部仕事引き受けるのかと思ってびっくりしっちゃったよ。一応期待しておくね?」

 その言い方はひどい。

「あ、ああ。でも先に人集めないとな」

 傷ついた心を隠して椅子を座りなおした。

「それに……幽霊が見える人じゃないとね」

 そういって、反抗心が芽生えた俺は悪戯気味に雪羽先輩を見た。決して対抗意識燃やした言動ではないぞ?

 ちょっと良くなかったか? だがもうやってしまった。

「いじわる」

 雪羽は頬を膨らませた。

 だが、同時にぽろぽろと涙を流した。

「す、すまない。なんというか……冗談だ本当に」

 横に顔を背けて言った。

 でも、雪羽は首を横に振るった。

「違うよ。嬉しいの。でも、……なんで泣いてるのかな? わたし……悲しいことなんてないのに……」

 それは嫌なことで流す涙ではなく、嬉し涙だ。

 少なくても俺にはそう見えた。

 だが、口には出せない。そんなこと言ったら、俺はただの人を感動させたと思い込んでいる自己満足した傲慢な野郎に成り下がってしまうから。

 さすがにそれは見っともない。

「雪羽先輩……」

「頑張ろうね」

「ああ。まだ腐るには早いさ」

 俺は照れたように、そうこたえていた。

「もしかして今照れた?」

 涙を拭いた彼女は、俺の顔を覗き込んできた。

「気のせいだ」

 間違いない。

 俺は照れてなんかいない。

 特別照れる要素、無かった。

 ステキな出会いって、もしかして雪羽先輩のことだったのだろう。

 そう思えて仕方なかった。

 でも、そう考えると、照れる要素はあったのかもしれない。

 そしてこの瞬間、俺は気づいてしまった。

 幽霊に恋してしまったと。

 たぶん。きっと。

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