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プロローグ 『人ならざるものたち』

 --生か、死か、それが問題。


 なんてことは無い。


 それは、生きているものだからこそ言えること。良くも悪くも、人という(しがらみ)にとらわれているからこそ言えること。


 1歩その柵の外に出てみれば、見えるもの、感じるものは自ずと変わってくる。

 生か、死か、そんなことより重要なことはいくらでもあるのだ。


 もっと根源的で、本質的な何か。

 それがなんなのか、私は未だ知らずにいる。だからこそ、探さなければならない。

 そう魂-そんなものがあるのならだけど-が告げている。


 荒廃した無秩序な世界の中で、日々磨耗する自己を頼りに私たちは抗う。この世界--いや、この運命に。

 人ならざる生屍(ファントム)ではなく、ヒト(・・)であり続けるために。


 私、市堂(いちどう) 玲花(れいか)の願いはヒト(・・)として生き、死ぬこと--



***



「嬢ちゃん。これはまた、大変なことになってんなぁ……」

 

 迫り狂う人ならざる異形の者の腹を殴り、頭蓋を蹴り、ときに気合で吹き飛ばしながら、巨躯に似合わぬ俊敏な動きで私の隣へと着地した爺やは、他人事のようにそう笑った。

 

 今、目の前に広がる光景を目にして笑える胆力は常人離れしていると思う。

 でも私達が常人ではないことを思えば、それも普通のことなのかもしれない。そんな普通は本当にごめんなんだけどね。


 そういえば、こういう状況をなんて言うんだったっけ……。

 確かゾンがどうとかなんとかの……?


「この惨状は、ゾンビ映画のラストシーンを彷彿とさせるな」

「そう、それ。でも、爺やの言うことは大抵よく分からないよね」

「そりゃ、嬢ちゃんが物を知らなさすぎるだけだ」


 心の中を読まれたような気がして面白くなかった私は、手に持ったハルバードを力任せに、そして乱雑に、振り下ろした。

 瞬間、衝撃波がバリバリという音を伴いながらアスファルトを捲り上げる。


 その暴力の権化は異形の大軍に小さな穴を穿つ。

 しかしそれも、ものの数十秒で閉ざされてしまうだろう。物量の差、爺やと私の2人(・・)で何千もの異形達を相手にするのは少々分が悪いのは火を見るより明らかだった。


 彼らに少しでも意志や感情があれば、ものの3割も屠れば退いてくれるのかもしれない。でも残念なことに、彼らはそんなものを持ち合わせていない。

 彼らを動かすのは、醜い欲だけ。己が欲望に囚われた哀れな怪物(モンスター)たち。


 故に隣の個体が消えても、足元に自分と同じ存在が倒れていても、果ては死んでいても、恐怖なんて微塵もなく、その屍を越えて濁流のように押し寄せてくる。


 ここで死ぬなんてことは絶対にないけど、私には今時間が無かった。

 こんな連中にこれ以上付き合っている暇なんて、どこにもない。そう、どこにも。

 私には大事な予定が控えているのだから。


「爺や、5秒開けれる?」

「おいおい、あんまり老躯をいじめんでくれ……」


 そう言いながらめんどくさそうに頭を掻いた爺やは、どうやらそれだけで私が何を求めているか理解してくれたらしい。

 彼は眼を蒼く光らせ、獰猛な笑みを浮かべながら右腕をゆっくりと身体の後ろへと持っていく。


 ビル郡に挟まれたこの大通りに群がる彼らの数は、ざっと4000程。

 総量30トンオーバー。厚さにして500m弱。その肉の壁に人が通れる穴を開けることも、仮にそんな穴が空いても500mを5秒で走り抜けることも、普通に考えれば不可能。



 でも私達は普通じゃない--



 死と引き換えに手に入れた、新たな身体と異能(デュナミス)を用いれば、そんな無理も不可能じゃなくなる。


「2つ、聞かせてもらう」


 間抜けな格好-彼曰くパンチングマシーンの時の構え-から、顔だけをこちらに向ける爺やは急にとても真面目な顔になった。


「1つ、この先にいるらしい坊主は本当にオレたちにとって利益になるのか? 2つ、そいつはここで生きていけるか?」


 痛いところを突いてくるなぁと私は思った。

 私はこの先に彼がいるのを知っている。その彼が、この世界に終わりをもたらす可能性を秘めていることも知っている。

 

 でも、それは可能性。そうであるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 本当にこの世界を終わらせてくれるかもしれないけど、自らの欲に溺れて異形へと堕ちてしまうかもしれない。

 どう転ぶかは私にも分からない。だから、素直に


「にゃはは。わっかんないかな」


 と答える。


「14年、14年待って、女の子が男の子に会いに行く。ただ、それだけなんだよ」

「そうかい。相変わらずというか、大変な上司を持っちまったなぁ……」


 呆れるような、喜ぶような、微妙なトーンでそう呟いた爺やの右腕がゆっくりと、しかし確かに蒼く輝き始める。


ボス(・・)、出血大サービスだ。気張ってな」


 そう言い終わるか言い終わらないか、煌々と光る爺やの右腕が一際大きく輝き、高濃度のエネルギーを轟音とともに射出する。

 放たれたエネルギー弾は空中で爆ぜ、前方へと放射状に拡散すると、一瞬世界を蒼く染めた。


「いってくるよ」


 私はそう言い残し、爺やがもたらした破壊と光の中へと身を踊らせ、駆け抜ける。


 これは始まり、私たちの運命を大きく変えた小さな1歩--

 





 

本日20:30より、3話まで更新する予定です。

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