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偽りの魔法使いⅥ


 魔法学園の教室というのは、今まで過ごしてきた中学校とは異なり、大学の講堂のように学生側の座席がホワイトボードや教卓よりも高い位置に段々と設置されていた。

 姫乃から魔力供給を受けた俺は、なんとかギリギリ一限の魔法実技初級には間に合っていた。

 昨日の決闘の件の影響か、俺に積極的に話しかけようとするクラスメイトはほとんどいない。

 どこかよそよそしく、腫れ物に触れるような扱いだ。


「って、お前。 特待生だったのかよ! 通りで桜花が負けるわけだ」


 そんな空気を読まずに、背後の座席から話しかけてくるのはクラスメイトの丹波(ニワ)(スグル)

 俺の着用しているマントに気づいたのだろう。


「んー、学園側のミスで昨日までは俺自身もよくわからなかったんだ」


「なんじゃそりゃ。 ってかお前、昨日の決闘のせいで大騒ぎになってるぞ。 一年に期待の新人(ルーキー)現るとか桜花と許嫁だとか」


「あー、まぁ噂にはなるだろうなぁ……」


「流石、あの三雲だな。 こりゃ、上の学年に目をつけられるのも時間の問題か」


 流石三雲、あの三雲、やはり三雲などと呼ばれるが、何だかんだでその実態はよく分からない。

 まぁ、流されるままにここまで来てしまった俺も悪いのだが、出来る限り早めに三雲家がどういった存在で魔法界ではどれほどの権勢を誇っているのかを調べる必要がある。

 とりあえず、嘘を突き通さねばならなくなった今は急務だ。

 聞くとしたら理事長のヒルデガルドか……姫乃という選択肢もあるが、理事長以上の情報は引き出せないだろう。

 それに、姫乃には肝心なとこを嘘ついているのだ。

 それが露見するのは避けなければならない。

 俺のイメージとしては、魔法使いというよりは、単なる戦闘民族、社交性はあまりなさそう、みたいな感じだ。


「やめろ、縁起でもない」


「ところで、桜花と許嫁って本当なのか? 噂ではそれに嫌がる桜花が決闘を仕掛けたとか」


「あーそれはだな……」


「誰にも言わないから、早く言ってみろよ」


 いや、お前、絶対みんなに言うだろう。

 彼のニヤついた顔が信用性を失わせていた。

 それに、姫乃の性格上、俺達の関係をひけらかすのは好まないだろう。

 まぁ、こいつらは魔法使いとは言え高校生、他人の恋愛に興味津々なお年頃だ。

 陰で何を言われるかわからない。


 だが、昨日の桜花との決闘のときに野次馬達の前で言ってしまってるんだよなぁ。



「……想像に任せる」


「おっ、これはクロか! クロなのか!」


「やめろ、茶化すな」


 後ろから肩を掴まれてガクガクと揺らされる。

 なんとか、それを振り払うと真剣な表情の傑がそこにいた。


「それはそうと……これは真面目な話だ、雪人。 お前、三雲に狙われてるぞ」


「三雲?」


「お前が本家か分家かはわからないが、一族からもう一人この学園に入っているってのは聞いてないか?」


「あぁ、それは分家の奴だ。 ……面識は無いがな」


「って事はお前はやっぱり本家の方だったか。 まぁ、それはいい。 どうやら、その分家の奴がお前の事を嗅ぎまわってるようだ」


 まさに最悪な状況が起こりつつある。

 俺には今まで名門三雲家とは切り離された生活をしてきたという裏設定があるものの、今、彼ら一族と遭遇するのは不味い。

 理事長であるヒルデガルトの要請で三雲本家皆殺し事件について調査するため、いつかは分家の連中と相対しなければならないが、それは今じゃない。

 まだ詰めきれていない三雲本家次期当主の生き別れの弟という設定があるかもしれないし、俺自身、三雲家のことをよく分かっていないのだ。

 どこでボロを出すかわからない。


 それに昨日みたいに、いきなり戦闘を挑まれても対応できない。

 まぁ、それについては今後も変わる見込みは薄いが……。


 とりあえず、今は相手の情報を収集するのが先だ。

 俺は魔法使いではない一般人、情報戦だけは負けるわけにはいかなかった。

 それ以外、勝ち目は無いしな。


「って、お前、まだ入学二日目なのに何でそんな情報知ってんだよ」


「お前とは違って俺みたいなチンケな魔法使いには情報は重要だからな。 ……まぁ、独自の情報網ってのだ」


 ……情報屋かよ。


「……お前、意外と気が抜けない奴だな」


「おいおい、警戒すんなって。 お前の悪いようにはしねぇよ」


「……どうだか」


「俺はこれでもお前に賭けるつもりだぜ」


「俺に賭ける?」


「お前と一緒だったらいい夢見れそうだからな」


「そこは友達だから、って言って欲しかったな」


「そんな都合のいい奴をそばに置くほどお前はお人好しじゃないだろ。 昨日の決闘を見て思ったよ。お前は食えない奴だってな」


「なんだ、見てたのか。 食えないのは……お前もだがな」


「だからだ、食えない奴同士仲良くやろうぜ! 俺みたいなのは名家の陰に隠れてコソコソやってる方が性に合うんだ。 まぁ、損はさせないさ」


「損か……まぁいい。 三雲の件は助かる。 こっちも色々と問題は起こしたくはないからな」


 傑の情報収集能力は高い。仲良くして損は無いはずだ。

 特に三雲分家に狙われている現状は。


「そうか。 それはよかったぜ! おっと、担当教官のお出ましだ」


 ガララと、入り口の引き戸から入って来たのは白衣を纏った不健康そうな顔色の男。

 年齢は四十代半ばぐらいだろうか。

 ボサボサの白髪頭を後ろで結んでいるのが特徴的だった。

 教師というよりは研究者といった雰囲気の男である。


「さぁさ、皆さん静かにー。 授業を始めますよー」


 やる気のなさそうな男の声。

 だらしのない服装や眠そうな瞳。

 こんな人が一年の授業を受け持ってしまって大丈夫だろうか。

 ……単位は取りやすそうではあるが。


「えーと、私は魔法実技初級の授業を受け持つことに()()()()()()()ジルヴェスター・今村・ザイフリートです。 気軽にジル先生、とか呼んでください。 ジルぴょんとかでもいいですよ」


 外国人教師?いや、ミドルネームに今村とか入っているからハーフとかだろうか。

 特に驚いた様子のないクラスメイトを見ると、魔法界的にこれは普通なのか。

 クラスメイトもカタカナの名前も多いし、姫乃も父親が日本人、母親がフィンランド人のハーフであるそうな。

 普通の、しかも田舎の中学校に通っていた俺には少し驚きである。


 淡々と自己紹介をしていくジル先生。

 どうやら先月まで魔法大学の研究員だったらしい。

 まさに見た目通り。

 何故、研究員が魔法学園の、しかも一年の教鞭をとる事になった疑問に思う点も多々あるが、俺の驚きはそこではなかった。


 魔法大学なんてあったのか……。

 まぁ、魔法協会が運営している高校があるんだったら、大学も有り得そうだけど。

 やっぱり、卒業後は皆そちらに進学するのだろうか。

 ……三雲家次期当主を名乗ったり、姫乃と許嫁になっている手前、俺もそちらに進学しなきゃ不味いのかな。

 まぁ、今は目の前の事に集中するか。三雲分家に狙われてる以上、魔法への理解は必須だ。

 だから、魔法の理論面を扱う魔法実技初級の授業を特待生にも関わらず受講していたのだ。

 同じく特待生の姫乃も受講しているが、彼女の場合、単に真面目だからなのだろう。


 ん?気のせいだろうか。……ジル先生が何度かこちらを見ていたような。

 もしかしたら、生徒の名前と顔を覚えようとしているのだろうか。

 一応、座席は固定されているし、教卓にはどこに誰が座っているのか顔写真入りでわかる資料が置いてある。

 しかし、どこか怪しい。

 マッドサイエンティストみたいな雰囲気のせいだろうか。

 現状、あの三雲を名乗っている以上、ジル先生は少し警戒すべきかもしれない。

 どこか本能が警鐘を鳴らしている。


「まぁ、ここでウダウダ言っても何も始まりませんから、早速授業に入りたいと思います。 まー大体の方はこの授業で扱うようなことは知っていると思いますが、このクラスは特待生が少なく一般生徒がメインですからね初歩の初歩からいきたいと思います」


 自己紹介は五分とかからずに終了した。

 担任教師からは、今日は授業ガイダンスと聞かされていたのにも関わらず授業が開始された。

 これは俺を含め、クラスメイトもびっくりである。

 今日は授業初日だし、予習とかは余程真面目な生徒でない限りやっていないだろう。

 もちろん俺もだ。


 大学で研究員をやっていたせいか、授業は単なる講義形式ではなく、いわゆるソクラテス・メソッドという対話形式で行われ、死屍累々を生み出していった。

 もっとも、授業自体はわかりやすく、まったくの初心者である俺にも理解できるような丁寧で噛み砕いた説明であった。

 正直、教鞭を取るのが初めてというのが信じられないくらいだった。


「あぁ、やっと終わったー」


 そう言って机に突っ伏すのは、後ろの席の傑である。

 魔法学園の授業は、今までの中学校の一コマ四十五分とは異なり大学と同じの一コマ九十分である。

 多くのものはそれが初めての経験であり、自分の集中力との戦いを経て、疲れ切っている。

 しかもジル先生の行う魔法実技初級の授業は二コマ連続であり、生徒たちの疲労に拍車をかけた。


 例に漏れず、俺も疲労困憊である。

 特に対話形式の授業というものは、的はずれな回答をすると、先生からも他の生徒達からも白い目を向けられることになるので精神的負担は大きい。

 ……今日のところはこれと言ったミスは無かったが、今後この授業に出る場合には予習復習を完璧にこなさなければ、()()()()という仮面が剥がれ落ちてしまう。

 それだけは、なんとか避けなければ。


 そんな俺の思いもつゆ知らず、傑はいつの間にか俺の隣の席に移動し、コンビニ弁当を食らっていた。

 時刻は十二時を回り、現在昼休みである。

 寮生は朝夜は、寮の食堂で食事が提供されるが、昼食は各自で済まさなければならなかった。

 傑はおそらく、物珍しさから新入生で混雑する売店や食堂を避けたのだろう。

 だから、今日はコンビニ弁当なのだ。本当に抜け目の無いやつである。


「ん? なんだ、お前食わないのか? それとも売店とか食堂の死地へ向かうつもりか?」


「いや、弁当は持ってきてる。 というか、死地ってなんだよ、死地って」


 ガサゴソと通学用鞄を漁る。

 ……あれ?確か朝、姫乃が作ってくれた弁当を入れたはずなのだけど。

 お嬢様育ちのはずなのに、家計にうるさい姫乃は何故か食事は自炊を好んでいた。

 特待生で学費と寮費が免除されるとはいえ、一般家庭出身の俺は仕送りもさほど多くないので、出来る限り節約をしなければならなかったから助かっていた。


「この時期の売店や食堂は死ぬほど混むんだ。 まだ生活に慣れていない新入生が多いからな。 それに仕送りとかで金を持ってる奴も多い。 先輩の話じゃ、運が悪かったら飯にありつけない奴も出てくるらしい。 まぁ月末には落ち着くだろうよ」


 流石、情報屋である。

 しかし、今は忘れてきてしまった弁当が気がかりだ。

 鞄の中をくまなく探したが、残念ながら発見することは出来なかった。

 あぁ、帰ったら姫乃にバーベキューにされそうである。

 そんな風に悲観していたその時、目の前の机にどんと青い袋が叩きつけられる。


「っていうか、アンタ。 弁当忘れるんじゃないわよ!」


 犯人は姫乃だった。青い袋の正体は弁当袋。

 その中には朝、姫乃が作った弁当が入っているはずだった。


「あ、すまん。 ありがとう姫乃。 ……あっ!」


 あーいつものツンデレかー、なんて思い感謝を述べるが……。

 しまった、やってしまった。


 先程まで、昼休みの喧騒に包まれていた教室が静寂に包まれる。

 顔を見合わせる俺と姫乃。

 互いにやらかした事を理解したらしい。


 隣で下卑た笑みを浮かべる傑。


 あっ……これは色々と終わったかも知れない。


「よう、真っ黒クロスケ」


 傑は笑いを堪えながらポンと俺の肩を叩き、お前の気持ちわかるぜと同情の眼差しを向ける。

 おい、お前、楽しんでるだろ!


 それが皮切りだった。


「ねぇねぇ姫乃ちゃん! それってまさか……」


「きゃー! 許嫁って本当だったの!」


「やるねわね。 姫乃ちゃん!」


「……ねぇ、二人はどういう関係? まさか噂通り?」


「ちょっと、こっち来て詳細を教えてー姫乃ちゃーん!」


「ももももしかして二人は同棲とかしてますの!」


 まずはじめに、完全に暴徒と化した女性陣があっという間に姫乃をその場から連れ去り、逃げられないように窓際の席に押し込み、乙女の恋バナもとい尋問が開始されていた。

 乙女の行動力は凄い。彼女らはどこの特殊部隊だろうか。

 完全に統率された動きだ。

 姫乃は、こういうのに慣れていないのだろう。終始彼女たちのペースに飲まれ顔を真っ赤にして、あぁ、うぅ呟いていた。


 一方、俺はというとーーー


「おい、お前、何かいい攻撃魔法知らないか?」


「あぁ、ダメだ。 俺のこの右手が三雲を殺せと轟き叫んでいる!」


「おい誰か! 異端審問官を呼べ! あいつは黒だ!」


「陣形はどうする、鶴翼か!」


「あいつはあれでもあの三雲だ。隣のクラスにも救援を求む!」


「前衛は攻撃魔法! 後衛は防御魔法に専念しろ!」


 異端者狩りにあっていた。


「くっ、離れろ!」


 倒しても倒しても、現れ続ける異端審問官共。

 魔法(物理)を行使する男子生徒、もとい異端審問官は俺を倒そうと席に殺到していた。

 それを鞘を抜かない状態の太刀を使って払う。

 こいつらゾンビかよ!何気なく俺の弁当狙ってるやつもいるし。


「おい、助けろ傑! お前俺に賭けるって言ってたろうがっ!」


 皮切りになったのはこいつの言葉なのだ。

 少しは助けったってバチは当たらないはずだ。


「おいおい、やめてくれよ。 こんな面倒くさいことに俺を巻き込むなっての」


「ぐっ……しょうがない。 弁当、少し分けてやってもいいぞ」


 もしも恋愛経験豊富な奴だったら、どうでもいい事かもしれない。

 だが、()()()男子高校生であれば、この申し出断ることは出来まい。

 美少女の手作り弁当なのだ。

 俺だったら、悪魔にでも魂を売り渡す。


「ふっ……桜花の手作り弁当か。 全く、俺はそんな安い男じゃねぇっての。 はぁ……しょうがねぇ、乗ったぜ!」


 こいつも()()()男子高校生であったのだ。

 襲い来る異端審問官共に傑は言い放つ。


「おい、お前らよく聞け! こいつはあの三雲家の次期当主だ! いいのか敵に回して? こいつの事を気になっている奴は一人や二人じゃない。 悔しいが家柄も顔もいい。 味方にしたほうが色々と……おっとこれ以上は俺の口からは言えないな」


 気になってくれてる人がいるだと……。

 どうしよう、姫乃には悪いけどめっちゃ嬉しい。


「……は? なにそれ、色々と初耳なんだが」


「こういうのは大きく出たもん勝ちなんだ」


 そう耳打ちする傑。

 なんだ嘘かよ。死ねよ、傑。

 ……はぁ、こいつに任せて本当に大丈夫だろうか。


「ぐっ……俺は所詮、社会の歯車。長いものに巻かれて生きていくしか無い……」


「おい、お前! 何を言って」


「三雲雪人殿! 助太刀致す! この新山ニイヤマ啓治ケイジお見知りおきを!」


「あっ! あいつ、裏切りやがった!」


「すまない、俺にも捨てられないものがあるんだっ! 佐藤サトウ隆信タカノブ、三雲方に推参!」


「くそっ! 悪魔と契約する奴らが出てきてしまった! 総員、これは聖戦だ!」


「おい! 隣のクラスから応援に来たぞ! ってこれはどうなってやがる!」


「敵は三雲だけじゃなかったのか! くそっ! ならばしょうがない……水本ミズモト大和ヤマト、三雲方にお味方致す!」


「おい、お前っ! 何を血迷って……よせ、やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 裏切りに次ぐ裏切り。

 名家の名は偉大なのか。それとも甘い汁を啜りたいだけなのか。

 徐々に俺に味方をする者が増え、次第に戦局は俺の有利に傾いていった。

 まさに名軍師、丹羽傑の奸計であった。

 

「いやぁ、乱世乱世。 どうだ雪人俺の策略は?」


 自慢げに扇子を取り出して、まるで名軍師かのように仰ぐ傑。

 あぁ、こいつの勝ち誇った顔がなんかムカつく。

 というか、その扇子どっから出したんだ?


「殿! こやつらは、いかが致しましょう?」


 そう言って、俺に判断を求めるのは自称三雲三人衆筆頭の新山。

 何勝手に三雲三人衆とか名乗っちゃってるの!?

 ……というか殿って何だよ殿って。


 俺の目の前には、拘束系の糸のような魔法で全身をぐるぐる巻きにされた異端審問官二十名。

 よくもまぁ、こんなに参加したよな。この学園の奴らはノリが良すぎだろ。


「くっ、慈悲などいらぬ! 早く殺せ!」


 捕まった指揮官らしき男が喚く。

 男のくっ殺に用はない。


「そうだ! そうだ! 我らが信念は揺らがぬぞ!」


「はははははっ! 皆の者、ヴァルハラで再び相見えようぞ!」


「死ぬのは怖くない! 怖いのは信念が折られることだ!」


 ちょっと、ちょっと。なんでこの人達死を覚悟しちゃってるの。

 ただの昼休みの男子生徒特有のじゃれ合いで。


「お館様! こやつらを生かしておくのは危険です!」


「そうだ! 切ってしまいましょうぞ!」


 そんな物騒な事を言うのは、自称三雲三人衆の佐藤と水本。


「いやいや、切らないから! そろそろ午後の授業が始まるし、はい、解放!」


 そう言って、異端審問官どもを拘束する魔法を使っていた水本に指示を出す。


「ぐっ……納得は出来ぬが殿の命令。 ふんっ! お前ら殿の温情に感謝するんだぞ!」


 苦虫を噛み潰したような表情で魔法を解く水本。

 そしてそれに追従する残りの三雲三人衆と雑兵達。

 ……ちょっと三雲三人衆は過激すぎやしませんかねぇ……。

 出来る限り速やかに解体せねば、なんて思っていると、


「ぐっ……この屈辱は忘れぬ。我らを開放したこと、いつか後悔させてやるぞ!」


「……生き恥を晒せと言うのか。三雲は鬼なんだな……ならば俺は修羅になってこの戦場に戻ってこようぞ!」


 一体、俺はどこの戦国時代に迷い込んだのだろうか。

 助けられたにも関わらず、続々と捨て台詞を吐いていく者たち。

 もうどうツッコんでいいかわからねぇ、と頭を抱えていると。

 ポンと肩に手が添えられた。


「……終わったな」


 傑だった。まるで激戦をくぐり抜けてきた男のような表情で呟く。

 映画だったら、泥だらけの顔でタバコの一本でも吸っている事だろう。

 いや、そんな命のやり取りをしたわけじゃないからね!何、感傷に浸ってるのこいつ。

 死んだ仲間にタバコと酒を供えそうな勢いだよ!


 その時、残酷にも教室に昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り響いたのだった。


「あっ……弁当食ってねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 後にこの戦いは『第一次三雲征伐 昼の陣』と呼ばれることになるのだった。

 そして、あの自称三雲三人衆が本当に三雲三人衆になることをこの時の俺は知る由もなかった。



 その日の学校新聞の夕刊で『大スクープ! あの名門、桜花家と三雲家が姻戚関係に!? なんと桜花姫乃と三雲雪人は許嫁!』という記事が乗り、その新聞は号外と言わんばかりに校内中にばらまかれていた。

 ついに俺と姫乃の関係が公知の事実になってしまったのだった。




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