始まりの予兆
終焉世界の反逆者
プロローグ
「…」
…
もう、嫌だ。
こんなの、もう嫌だ。
「もう…嫌、だ」
奴らが居なければ世界はこんな事にならなかったと、もう100回以上は思った。
いや、そんなことを思うより自分が死んでしまえばと思った方が遥かに多かったと思う。
でも、俺はまだ生きている。でも、それ以前に、精神がズタボロに引き裂かれていた。
「ひっ…」
妹は泣いていた。
俺も、今は泣いていたい。
でも、
「俺は…」
「…」
彼女は見下していた。
俺を。
まるで、地を這う虫けらのように。
その目は、地を焼く業火の如く、朱く、深く、色付いていた。
その灼眼の彼女に、俺は身体中から振り絞った声で、彼女に言い放った。
「お前を…斃す…!」
その声は彼女に届いてていたのだろうか。
でも、これだけは確かだ。
俺の声は、あの荒れ果てた地にしっかりと響き渡っていた。
第1章 「反逆兄妹」
「…~」
急に、瞼の内が明るくなった。
「ーーさん」
「おにーさん!」
そして声が聞こえる。それが聞き覚えのある声だと分かってようやく目を覚ます。
「あ!やっと目を覚ましました」
目の前には可愛らしい小柄の女の子。
背丈は150cmを超えるくらい。
長い黒髪で、よく声の通る子だ。
そして、視線を下に──
「もぉう、早く下に降りて下さい」
やる前に、彼女に顔を覗き込まれた。
がしかし!そこから見える胸の谷間は実に深く、正に絶景であった。
「…───」
そこで俺の顔が綻んでしまう。
「ん?」
それに気付いたのか、彼女も俺の視線の先に目をやる。
そこにはもちろん、彼女自身の豊かな胸が──
「──!!」
それを見るや否や、彼女は物凄い勢いで顔を上げ。
「…ど」
「ど?」
どこ見てるんですか!とでも言うつもりかお前は?
いやいや、そんな予想通りの反応をするほど、現実は甘くはな──
「どこ見てるんですか!!!」
いやもう予想通り過ぎて逆に俺がどのように反応すればいいのか困るんですけど!
「…え、えぇっと」
「むぅー」
彼女は頬をぷくっと膨らませ、不機嫌そうに俺を見つめている。
ここで変に取り繕うと余計に彼女を不機嫌にしてしまうだろう。そう思い──
「えっと、その…豊満な胸を」
と、俺は少し動揺しながらも素直に自分が今まで何を見ていたのかを彼女に告げた。
すると──
「ん~、そんなに…私の胸見たいんですか?」
彼女は頬を紅潮させ、少し身体を捩らせながら俺にそう問うてきた。
いや、見たいからというより見えてしまったから見ていたというだけで──と、脳内で抗議してみるも、当然それが彼女に分かるはずもない。
すると──
「はぁ・・・」
彼女は先程までの色気とは一変、見るに見兼ねた様子で再び顔をあげた。
そして、
「兄さん、今日から学園ですよ」
と俺に言った。
「ん?あぁ、そういやそうだったな」
俺は眠気たっぷりにそう答えた。
でも、それがどういう意味かは俺も理解している。
「今日から、なんだよな」
俺は自分にしか聞こえない声でそう呟いた。
しかし、妹はそれを聞き取った様で俺に
「はい。今日からです」
と淡々と答えた。
今日から、始まるんだ。
俺達の「反逆」が。
2
「兄さん!早く走って下さい!」
先を行っていた妹が俺に向かって叫んでいた。
「分かってるって…!分かってるから!」
俺は妹に遅れを取りながらも、必死に走っていた。
時刻は7:45…って、バス来るじゃねーか!!
「ヤバイヤバイ!?」
後方から重々しいエンジン音が聞こえてくる。
バス停には既に妹が着いていた。
ふぅ、なんとかなりそうだ。
「なんとかなりそうでも…っ、急がないとな」
そしてバスが停車。妹は先に乗って
「兄さん早く!」
と俺を急かしていた。
言われなくても分かってますよ。と心の中で返しつつ、俺は無事バスに乗車することが出来た。
「はぁー…間に合った」
2人席に座り、俺は息を切らしながら間に合ったことに安堵していた。
しかし妹は、
「間に合った~ではありません!初日から遅刻したらどうするんですか~!」
と俺をポコポコ叩きながら怒っていた。
「だって、仕方ないだろ。アイツがいつまでも喋るんだから」
「あんなのは聞き流し程度に聞くくらいでいいのです」
「お前な、あの話の中にとてつもなく重要な情報とかあったらどうするんだよ」
「その時はその時です。大体、あの話は私達もほとんど分かっている話ですし。」
と、少し小声になりながら俺達は話していた。
そもそも、なぜ俺達がバスに遅れそうになったのか。そして、なぜこんな話をしているのか。
それは約1時間前に遡る。
3
時刻は7時を過ぎた頃。
それは突然起こった。
妹に起こされ、2階から1階へ降りた俺は、リビングで朝食(妹の手作り)を食べていた。
「次のニュースです。明野市で明朝、コンビニに強盗が入り、現金──」
テレビを付け、朝のニュースを見ながらサラダを一口。
「うん。相変わらず、芹菜の料理はうまいな!」
「もう。兄さん。料理に関しては認めますけど…そんなことより、反逆者としての任務、忘れてませんよね?」
「ん?分かってるよ。そのために、ここに来たんだ」
「分かってるんなら、いいですけど」
「分かってくれてありがとう。それでこそ俺の妹だ。芹菜」
「壮馬兄さん…」
妹・朱宮芹菜は俺・朱宮壮馬の唯一の家族だ。
他の家族はというと…んまぁ、後々話すとして。
「今回の事件で、総務省は『わ───」
ニュースを遠回しに聞いていた俺達だが、突然テレビが砂嵐になり少し戸惑う。
「あれ?どうしたんだ?」
「さぁ、何かあったのでしょうか」
「────ピッ」
「「あっ」」
そこでテレビが直り、俺達2人は同時に声を上げる。
だが、そこに映し出されたのは1人の男性だった。
「やぁ、君たち。元気にしてたかな」
映し出されたのと同時に、その男性は''誰か''に問いかける。
もちろん、その誰かは他でもない。
「全く、あんた…一体どうやったらテレビ放送に割り込めるんだよ」
俺は呆れながらに呟く。
そう。その誰かとは俺達のことだ。
もちろん、相手はテレビの中なので俺達の声が聞こえるはずがない───
「我々の権力は君たちも知っているだろう?まぁ、今回は君たちが今見ているテレビに細工を施しただけだ」
俺は辺りを見渡す。
まさか、どこかに盗聴器とか仕掛けられてるんじゃないだろうな。
「探しても無駄だよ」
「ちっ…」
俺は舌打ちをし、改めて画面をみる。
「おいおい。そんな怖い顔をしないでくれよ。」
どうやら向こうには、音声だけではなく映像も届いているらしい。
いや、今はそんなことはさておき。
「それで、今更になって一体なんの用だ」
俺は声音を変え、彼に尋ねる。
彼は落ち着いた声で話し始めた。
「今回の要件は簡単だ。これから始まる潜入任務についての確認と追記、そして聖堂魔術教会に関する新たな情報の伝達だ」
「なるほど」
俺の様子を眺め、そして彼は再び話を始める。
「まず、潜入任務についての確認だ。朱宮壮馬君。朱宮芹菜君。君たちには聖堂魔術学園へ編入し、そこで行われている黒幕を暴いてもらう。分かっているとは思うが、学園では騒ぎを起こすな。我々『リベリオン』の存在が露見するかもしれんからな」
彼は含みのある言い方でそう忠告をした。
「続きを話せ」
俺は彼に説明を急かした。
「そう急ぐな。それで追記だが、学園内ではなるべく生徒と多く接触するように」
「え?」
「それと、学園内では『特異能力』の使用はなるべく避けること」
「マジかよ…それぞれどういうメリットが?」
俺は念のために聞いてみる。
まぁ、大胆のことは分かるが。
「まず一つ目の学園生との接触だが、これは学園生から不審に思われない為だ。そして二つ目の『特異能力』の使用だが、これについては君たちも気づいているだろう」
彼がそこで俺達に投げかける。
そこで妹が口を開けた。
「『特異能力』の使用で学園側が我々『リベリオン』の存在に気づくのを避けるため…」
その答に彼は頷く。
「そうだ。君たち反逆者の持つ『特異能力』は未だ謎の多い''力''だ。だが1つ言えるのは、魔術とは違うということ。それが教会にバレれば、奴らは速攻で我々を潰しに来るだろう」
彼は怪訝な顔で話を続けた。
「奴らの情報網は世界中だ。恐らく、我々の存在にも薄々気付いているだろう」
「なるほどな」
リベリオンの組織長からはただ''学園への編入及びその近辺の調査''としか伝えられなかった。
だが、今回の追記で大まかな目的ははっきりとした。
「おっと、もうこんな時間か、君たちはそろそろ着替えたらどうだ?」
彼に教られ、改めて画面の時刻を見た。
7:25
「バスでの登校だったはずだが」
「分かってる。7:45だろ」
「それならよろしい」
そして彼は言う。
「着替えはここで着替えて貰ってもいいのだぞ?」
「断る」
「断ります」
「はぁ、兄妹揃って同じ事を言うか」
呆れながらに彼は続けた。
「まぁいい、このテレビは消してくれても構わない。続きは君たちの自室で話そう」
「自室?また何かあるのか」
俺は警戒しながら尋ねた。
「警戒し過ぎだ。安心しろ。君たちの着替えを覗いたりはしたい」
「そうか」
「続きは君たちの部屋にあるラジオから話す」
「分かったよ」
俺達はテレビを消し、それぞれの自室へと戻った。
4
自室へと戻り、改めて辺りを見渡す。
「…、特に変なところは無いか。」
この部屋(または家)は対魔道•魔術対策組織 通称『リベリオン』から提供された一軒家だ。
ちなみにこの対魔道•魔術対策組織は俺達反逆者が所属する組織で、魔術師絡みの事件の解決が主な活動だ。
「まったく…」
俺達トレイターはそれぞれが異質の力『特異能力』を持っている。
この力についての説明は今は必要ないので閑話休題。
俺はラジオのスイッチを入れた。
「ようやく入れてくれたか。芹菜くんは既につけているよ」
「そうかよ」
もう驚くことは無い。恐らく、この部屋にある通信機器はほとんどがリベリオンが割り込めるように細工してあるのだろう。
「おや?あまり驚かないな」
俺は無言のまま着替えを始めた
「まぁいい、それで、話の続きだが…」
再び、話が始まる。
「"奴ら''が、動き出したようだ」
「…!?」
俺は着替える手を止めた。
奴ら、だと?
リベリオンが奴らというのは…
「まさか、『アヴェンジャー』が」
「そうだ」
~アヴェンジャー~
聖堂魔術教会によって編成された異端者討伐部隊 通称 アヴェンジャー
教会から秘密裏に選出された魔術師によって構成されており、まさに聖堂魔術教会が持つ最高の勢力。
奴らが動き出したということは。
「ってことは、奴らに我々の存在がバレたのか」
俺は最悪の予想を彼に伝えた。
「いや、標的はどうやら我々ではないらしい」
だがその予想はあっさりと切り捨てたれた。
「だが、これで分かったことがある」
「なんだ?」
「我々以外にも教会に敵対する勢力があるということだ」
「…なるほどな」
俺達以外に敵対する勢力か。
それに、聖堂魔術教会がアヴェンジャーを手配するほどだ。相当な手練と見える。
「この話についてはまた後日話そう」
「あぁ、そうしてくれ」
そして俺は再び着替えを始める。
「今日の話は以上だ。何か質問はあるか?」
そこで俺はある質問を問いかけた。
「『特異能力』の使用は避けろと言ったな」
「あぁ、そうだ」
「なら、『あれ』は使っていいのか?」
「あれ?あぁ、『あれ』の事か。『あれ』に関しては使っても構わない。まぁ、君は常に使っているのだろう?」
「アホ、ちゃんと考えて使ってる。年中無休に使えるって訳じゃないし、使えば面白味がないからな」
「そうか」
そこで彼は改めて問う。
「これで質問は終わりか?」
「ああ」
そこで一瞬、会話が途切れる。
その一瞬を縫うように
「兄さん?早く支度してください」
妹が玄関から呼び掛けてきた。
おいおい、こいつの話はほったらかしかよ。
まぁいい。
「分かってる。すぐ終わるから、先に行ってていいぞ」
「えぇ~、兄さんと一緒に行きたいです~」
と、駄々をこねる。
可愛く捏ねる姿を想像してと少し戸惑う。
が。
「バスがもうすぐ来るんだ。誰も居なかったらバスがスルーするだろ?」
「それもそうですね…」
妹は少し悲しげに声音を低くした。
そして───
「兄さん!それじゃ、早く来て下さいね!」
そう言って玄関が閉まる音が家に響く。
ふぅ。行ってくれたか。
「それじゃ、また明日」
「あぁ、それでは、良い学園生活を」
そこで通信は切れた。
チッ、何が良い学園生活だ。
れっきとした潜入任務なのに。
俺は彼の言葉に憤りを感じながら着替えを済ませ、家を出た。
気持ちを落ち着かせ、心に刻み込んだ。
今日から始まるんだ。
俺達の''反逆''が。