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三題噺をふる少女  作者: ◆smf.0Bn91U
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回想001.

やっぱり遅れたけど、今日も今日とて1日のつもりで投下してます。

「初羽くん、好きだよ」


 彼女はボクの机に座り、真正面から見下ろしながらいつものように、恥ずかしげもなくボクに言葉をかける。


「あ……ありがとう……姫路さん」


 それにボクはいつものように、慣れることなく顔を赤くし返事をする。

 そんなボクを満足気に見つめながらいつものように、彼女は話を振ってきた。


「ねえ初羽くん……本当に好きだって言って、信じてくれる……?」


◇ ◇ ◇


「……えっ?」


 いつもと同じ場所。いつもと同じ角度。いつものように恥ずかしさの欠片も見せていない表情。

 ……だけど、いつもとは違う、ちょっと思いつめたような表情。


「……どうしたの? 急に」

「今日の三題噺のお題的に、この話題に触れるいい機会かな、って思って」


 そう言って、柔らかい微笑みを浮かべる。

 でもそれは、少しだけ強がっているようにも見えて……本心を隠すための仮面だろうか、と思ってしまった。


「…………」


 相も変わらない朝の喧騒。こんな話をするにはあまりにも不釣り合いだ。


「本当なら、星空輝く夜空の下、二人きりの静かな所でこういう話をするべきなんだろうけどさ。……今のわたしじゃあ、初羽くんと話せるのは今しかないから」


 まるでボクの心を読んだかのような言葉。

 そして、そうした外的要因を言い訳に逃げずに真剣に考えて欲しいという意図が見える、言葉。


「……………………」


 答えを待つ、真剣な瞳。

 ボクはこれを……前に、見たことがある。

 ある夕暮れ。

 校舎の裏。

 彼女に呼び出され、話をされた時。

 ……告白を、された時。


◇ ◇ ◇


 それは一年生最後の学校。これから訪れる春休み前の最後の一日。

 学年末テストを終え、翌日から終業式に向けて短縮授業へと入る……その、一日前。

 放課後、彼女に呼び出された。

 それまで――今みたいな朝の会話も無かった。

 本当にただのクラスメイト。

 そんな彼女に、告白された。

 好きだ、と。

 そう言われた。

 突然のことで頭が真っ白になる中、彼女はボクのどこに惹かれたのかを丁寧に話してくれた。

 今みたいに、なんともないことのように。

 照れもなく、平然と。


「…………」


 だけどボクは、何を言われたのかイマイチ覚えていない。

 ……聞いていたことは覚えているのに、内容は憶えていない。

 いや……確かに聞いた。

 喜んだ。嬉しかった。

 そんな感想を抱いたことも覚えている。

 だから正確を期すなら……忘れたのだ。

 もしくは、封印したのだ。

 その言葉が全て嘘で、ボクを騙すための持ち上げるための言葉だったから。

 ……なんてことはない。

 よくあることだ。




 嘘告白、なんてものは。




 単純な話で、その告白は罰ゲームだったのだ。

 彼女の告白に呆然としているボクを喜んでいると思ったのだろう。

 彼女の後ろにある校舎の角から、二人の男子と一人の女子が現れた。

 笑いながら。

 楽しげに。愉しげに。

 ゲラゲラと、笑いながら。

 ……その時ボクが何を思ったのか、ボク自身のことなのに思い出せない。

 ただ……そう。

 その時の雰囲気を悪くするのはいけないと思ったことは、覚えている。

 だから、やったことは覚えている。

 露骨に愕然として、我慢すること無く、落ち込んでいる気持ちをそのまま、表に出した。

 それをしながら何を思っていたのか、自分のことながら、分からなかったけれど。


◇ ◇ ◇


 正直あの時は、アレで彼女との縁が切れたと思った。

 元々結ばれていなかった縁が切れた、というのも、おかしな話だけれど。

 でも、この夏になって――前期課程が終わろうかという今になって、何故か、三題噺をネタに話しかけてくるようになった。一年の頃からずっと同じクラスだったのに、一度も無かったのが急に、だ。

 こんな積極的に話しかけられるようになったことに驚いたぐらいだ。

 それでもボクは、ずっと話を続けていた。

 今日の今日まで。


「告白は嘘じゃなくて、本当に告白したかったけど勇気が無くて、罰ゲームにかこつけて本命の初羽くんに告白した、って言われて、信じられる?」

「それは……」


 信じられる、はずがない。

 ボクはそこまで、人が良くない。

 でもそれを、そのまま答えて良いものかどうか……。


「あ、答えなくていいよ」

「え?」

「その表情見たら、なんとなく分かっちゃったから」


 その浮かべる表情には、少しだけ後悔の色が見えた。

 でも……それが事実かどうか、ボクには分からない。

 だってそう見えるなんてのは、ボクの主観でしか無いから。

 そうであって欲しいと……なんだかんだで本当にそうであったら嬉しいという、ボク個人の都合のいい妄想が、混じっているだろうから。


「ま、分かってたことだから改めて聞かされても、やっぱりか~、ぐらいにしか思わないんだけどさ」


 でもだからこそ、と彼女は続ける。


「いつか、今わたしが言った事のほうが真実だって、初羽くんに思わせる」


 まるでそれは、一度騙して信頼を地に落としたからこそ、もう一度信じてもらいたいなら必死になるしか無い、と言っているよう。

 ……だけど、これすらもまた、嘘告白なのかもしれない。

 次、再び、ボクを引っ掛けるための。


「……………………」


 ボクの都合のいい妄想ではないのか。

 はたまた、この警戒心が正しいのか。

 どちらかなんて、分からない。

 でもボクは、未だ彼女を警戒し続けている。

 きっとコレに乗ったら、ボクはまた、嘘だったと言われるのだ、と。からかわれるのだ、と。

 心に、ダメージを負わされるのだ、と。

 ……きっと、都合のいい妄想ではなく、彼女が本当にボクを好いていると思い込むその時は……騙されていても良いと、ボクが思う時なのだろう。


「禁じてた話の流れだったけど――持っていかないようにしてたことだけど、案外こうやってして良かったのかも。ありがとねっ」


 そうして、彼女は机を降りて立ち去った。

 まだチャイムが鳴っていないのに。


「…………」


 珍しいことだったけれど、きっとそれだけ彼女も緊張していたのだろう。

 話したいことだけ話して立ち去った、ということは。

 ……それとも、そう思わせるための行動なのか。

 そう思わせて、ボクを再び陥れるという狙いがあるのか。


 それを見極め判断するための材料は、未だ手元には揃っていない。

 いつか分かる時が――割り切る時が、くるのだろうか。


「……………………」


 そんな考え事をしているボクの耳に、いつもの話を終える合図の音が、入ってきた。

お題は

 「夜空」

 「告白」

 「禁じられた流れ」

でした。

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