日課練習006.
いつになったら戻るのか。相変わらず31日のつもりで投下。
「初羽くん、好きだよ」
彼女はボクの机に座り、真正面から見下ろしながらいつものように、恥ずかしげもなくボクに言葉をかける。
「あ……ありがとう……姫路さん」
それにボクはいつものように、慣れることなく顔を赤くし返事をする。
そんなボクを満足気に見つめながらいつものように、彼女は話を振ってきた。
「ねえ初羽くん、もしこの世界がファンタジー世界から続く世界だとしたらどう思う?」
◇ ◇ ◇
「……今回の話題はかなりクレイジーだね」
「クレイジー?」
「気が狂ってる的な意味で良いよ」
「ひっどい言い方~。もっと柔らかい意味があるでしょ~」
拗ねた感じで冗談めかすけど、生憎とこの言葉以上に柔らかい言葉なんて無い。
「でもこれまた急だね。相変わらず三題噺のお題?」
「それもあるけど、昨日やってた映画を見てふと思ったことなんだ。例えば、初羽くんに記憶改変能力があるとするでしょ。そういう能力って、もしわたしのスカートを捲ってパンツを見たとしても、その能力で改変して無かったことには出来る訳じゃん?」
「例えに悪意しか感じないんだけど……まあ、そうだね」
相変わらず彼女の色々な場所を見てしまって、ほんのりと顔に熱が集まってしまう。
「で、得てしてそういう能力って、ファンタジー世界の定番じゃん?」
「あ~……なるほど。つまり今この世界も、そういう能力で改変された世界かも、ってこと?」
「そういうこと」
「SFの定番だね」
でも、と返事をしてすぐ、腕を組む。
「そういうのを語るにはボク達の知識はあまりにも不足してると思うけど?」
「そなの? いつも『この現世は我が生きていく世界ではない』みたいなこと考えてる初羽くんならいけると思ったんだけど……」
「ボクそんな中二病患ってないよ?」
過去に片足を突っ込んでいたことはあるけど。
「だって現世だとエロいこと出来ないからって後悔してなかった?」
「現世に後悔するとしてもそんな情けない理由には絶対にならない!」
「あ、女の子に産まれて色々と触りたかったとか?」
「思ったこと無いよ!」
「そうだよね、最初から女の子だとエロいこともエロくないもんね。自分のアソコ見てイジって気持ちよくなるのなんて男性と変わらないことだからね」
「ホント女の子がそういうの言うの止めてっ!」
顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。
ホント、いつになっても慣れない。
「その点もし、記憶を改変されて無くてこの時代もファンタジーの要素を引き継いでたら面白いことになってたと思わない?」
「ファンタジー要素の引き継ぎ? ……魔法とか?」
「後は種族とか。エルフとか竜娘とか可愛くない?」
「ああ、そういう……」
他で言うと、今流行のラミアとかアラクネとか、そういうのだろうか。
「もしわたしが竜娘なら、その溢れ出る生命力で初羽くんの精力を回復させ続けて出させ続けるつもりなのでよろしく」
「今から変わる訳でもないのに?」
「激しい時の流れにおいて、いきなり隔世遺伝的なものが起きるかもしれないよ?」
「隔世遺伝って……いやでも、ファンタジー世界って妄想だよね?」
「うん。初羽くんの得意な」
「勝手にそういうことにしないでくれるっ!?」
「だって、いつも女の子を裸に剥いたり下着姿にしたりして楽しんでるじゃん……」
「ボクの頭のなかを見た訳でもないのになんて決めつけ!」
「じゃあしてないの……?」
「…………その質問は卑怯だと思う」
男の子の精神を持って生きていれば、全くせずに生きていけるなんてこと、あるはずがない。
「全く……本当はわたしだけでして欲しいんだけどな~……」
「…………………………………………」
これにはさすがに言葉を返せない。
拗ねたような表情は確かに可愛いし、彼女で……その……考えたことだってある。
でも、彼女だけ、のその言葉に返事は出来ない。
だって、男の子だから。
……というのももちろんあるけど、でもそれ以上に、その言葉を突っ込めば、色々と彼女と共にあったことを話さなければいけなくなる。
それは……遠慮したい。
「……姫路さんさ、ホントそういうの止めてよ、ホントに」
だからいつものようにを意識して、笑いかける。
「…………」
でも、彼女は何も返事をしない。
……ああ、そっか。
いつもみたいに、ボクの顔が赤くなってないから。……ホントに照れていないことが、バレているんだ。
「……嘘がつけないね~、初羽くんは」
苦笑いのような、ガッカリしてるような、微妙な表情。
ただ、それだけ。
「それよりも初羽くん、あなたはどんな種族になりたいとか無いの?」
「ボク? ボクは……そうだな~……」
こちらのことを考えて話題を逸らしてくれる。
でも生憎と、ボクはそんな妄想をしたことがないので、パッとは思いつかない。
「あ、大丈夫」
「え?」
「言わないで大丈夫。だって初羽くん、オークでしょ」
「なんでっ!?」
「え、だって衰えない精力と大きなペ○スがウリになるし……」
「それよくあるフィクション設定だからねっ!?」
「あ、そなの? じゃあ……どの種族なら大きくなる?」
「知らないよっ!」
「あ~でも、大きければ良いって訳でもないしな~……要は相性だしな~……」
「だから、そういうのを、止めて!」
顔を真っ赤にして大声でツッコんだところで、チャイムが鳴った。
「あ、もう戻る時間か~……」
「ふ~……やっと終わりか~……」
「……初羽くんはさ」
「ん?」
「わたしと話してて、イヤじゃない?」
「それは……」
さっき、ちょっと思い出したからだろうか。
改めて、質問された。
「……もち――」
「じゃ、戻るねっ!」
「――ってうぇっ!?」
返事を聞くのが怖くなったのか。
無理矢理打ち切って、彼女は自分の席へと戻っていく。
「…………」
もちろん、イヤじゃない。
例え、あの時の続きでからかわれたままであろうとも……。
ボクは、イヤじゃない。
だって……可愛い子と話をしてイヤがる男子なんて、いないじゃないか。
例えそれが、とんな意図であろうとも。
「……………………」
そこまで言えれば良かったのに、言えなかった。
……そう。好きにさえならなければ、問題ない。
からかわれていると、意識しながら話せばいい。
それだけの、話なのだから。
お題は
「現世」
「竜」
「激しい時の流れ」
でした。