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三題噺をふる少女  作者: ◆smf.0Bn91U
5/20

日課練習005.

 再び日付を超えましたが、30日のつもりで投下してます。

「初羽くん、好きだよ」


 彼女はボクの机に座り、真正面から見下ろしながらいつものように、恥ずかしげもなくボクに言葉をかける。


「あ……ありがとう……姫路さん」


 それにボクはいつものように、慣れることなく顔を赤くし返事をする。

 そんなボクを満足気に見つめながらいつものように、彼女は話を振ってきた。


「ねえ初羽くん、あなたって怪談って信じてる?」


◇ ◇ ◇


「か、怪談……?」

「そう、怪談。夏らしくね」


 まあ、確かに夏らしくはあるけど……。


「怪談か~……怖い話なら好きだけど――」

「ああ、違う違う。そうじゃなくて」

「えっ?」

「好きとか嫌いとかじゃなくて、信じてるかどうかだから」

「あ~……じゃあ信じてないかな」

「そっか~……初羽くんのことだからテッキリションベン漏らしてガタガタ震えるかと思った~」

「笑顔で下品な言葉遣いでとんでもないこと言うね。大体、この年齢にもなって怪談なんて信じて怖がる人なんているの?」

「…………」

「…………え?」


 あれ?


「じゃあ、北枕とか、そういう迷信は?」

「迷信は……まあ、ゲン担ぎ程度には。あ、でも北枕はあんまり意識してないかな~……」


 答えて、ふと、さっき感じた疑問を解消するためにも、ある質問を彼女に投げかけた。


「そういう姫路さんは? 北枕は?」

「わたし? まあ、意図して避けてはいるけど……念のためよ、念のため」

「念のため?」

「……ほら、悪い夢とか見て、目覚めが悪かったり、睡眠が浅かったりしたら、ダメじゃない?」

「…………」


 珍しく、彼女のほうから視線を逸らした。

 ……やっぱりそうだ。

 彼女、自分から振っておいて、怖い話が苦手なんだ!

 三題噺で振ると何故か決めている以上、きっと渋々、いやいやに、この話題から始めたに違いない。


「あ、そういえば青空に見える雲が――」


 多分、迷信から段々とズラしていくつもりだったのだろう。……そうはさせないけど。

 たまにはボクが、彼女を追い詰めたって良いだろう。


「じゃあさ、蜘蛛が益虫っていうのは?」

「えっ、く、蜘蛛っ!? ま、まあ信じてるけど……ほら、ゴキブリとか食べてくれるかもしれないしね」

「それは色々な蜘蛛の情報と混じってる気もするけど……でもそっか、良かった」

「良かった?」

「ほら、蜘蛛を殺すと呪われるって――」


 デマを話し始めたその途端、顔を真っ青にしだした。

 ……ああ、なるほど。

 ボクが顔を赤くするのを好きだとよく彼女は言うけれど……きっと、こういう気持ちなのだ。


「ああ、ボクの勘違いだったかも。ごめんごめん」

「そ、そうよね~……うん、そんなはずないよね~……っていうかそもそも、わたし蜘蛛は殺してないしね、うん」

「蜘蛛は家を壊したら家を壊されるって話だった。だから巣は壊さないほうが良いよ」

「そ、それこそ外でやってたかも……!」


 その驚愕に染まった驚きは無視して、ボクは話題が変わらぬよう再び自分から話を振る。


「そうなんだ……まあ大丈夫だって、うんうん」

「そ、それよりも最近、トイレが――」

「トイレといえば、小学生の頃にトイレの花子さんとかあったよね~。懐かしいな~……」


 強引に話題を掻っ攫う。


「アレってやっぱり真のトイレにしか出てこないのかな?」

「そ、そうかもね~……いや、真のトイレってなに?」

「学校の怪談っていう映画から考えると……やっぱり旧校舎とか?」

「旧校舎とか、この学校に無いから、ね、あり得ないよね」

「でもほら、メリーさんがメールで来る時代だし」

「えっ!? そうなのっ!?」

「らしいよ~……」

「ど、どうやれば防げる!?」

「どうやればって……知らない人からのメールをブロックするとか……」

「よ、よしっ! ではさっそ――」


 と、そこでボクの視線に気付いた。

 きっと今、いつも彼女がボクに向けてきているのと同じ視線をしているのだろうと思う。


「ん、んんっ! ま、ほら、対処法として、ね」


 一つ咳払い、そんな言い訳をする。


「だってさ、この話を友達にしたとしてさ、じゃあどうするのって聞かれて答えられないとさ、皆困るじゃん?」


 ボクのニヤついた笑みを見て必死に続けているが……うん、なんか日頃、彼女がボクにこういうことをする理由、分かったな。

 だからといって、これからも続けられては困るけど。

 でもまあ、うん……可愛いと思う。

 ……とはいえ、やっぱり続けられたくないと思っているのなら、ボクも程良いところで止めるべきだろう。


「そうだね、うん。確かにその通りだ」

「し、信じてないよねっ!?」

「いや、信じてる信じてる」

「その反応は信じてないって!」


 そう彼女が言ったところで、チャイムが鳴った。


「あ、タイムアップだ」


 つい、いつもは言わないそんな言葉を呟いてしまう。


「あ、そうだね」


 それに、彼女も応える。

 いつものように、静かに机を降りて。


「……と、そうだ。初羽くん」

「ん?」


 珍しく、数歩離れてから、少し歩いて話しかけてきた。


「今日はちゃんと、初羽くんが三題噺の話題を消化してくれて、ありがと」

「…………………………………………えっ?」


 もしかして……もしかして。

 ボクは彼女に、乗せられていた……?

 そうだ……蜘蛛も、トイレのことも、何か不自然なことを呟かれた。

 そんな……じゃあ彼女は、別に怖い話が、苦手じゃない……?


「…………」


 ……どうやら、今日もボクは、彼女にからかわれただけのようだ。


◇ ◇ ◇


「……ふぅ~……あぶないあぶない……なんとか誤魔化せた……」

お題は

 「北」

 「蜘蛛」

 「真のトイレ」

でした。

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