日課練習017.
「北風と太陽、ってあるよね」
不意に、いつもの告白じみた話をせずに、彼女はそう切り出してきた。
「あれって、女の子で置き換えたら途端にエロくない?」
「急に何の話っ!?」
◇ ◇ ◇
「何、って……いつものことじゃん。忘れたの~? 私が話を振る理由なんて、三題噺のお題によって決まるってことを」
「いや覚えてるけど……いつもはこう、何か言ってきてから振ってこない?」
「あ、いつもみたいに好きって言って欲しいの~?」
いつものように机の上からニヤニヤして見下される。
それにいつものように照れてしまうボクを見て、ふふん、と鼻を鳴らされる。
「ま、私も段々と理解してきたからね。ああいうのを改めて言うと、コッチが照れるってことねっ!」
バーン! と背後から聞こえてきそうな程のドヤ顔だ。
「というわけで、いきなり話題から振ろうと思ってね。成長する生き物だよ、私は」
「なるほど……」
「これで前までみたいに、初羽くんを照れさせることも出来るしね」
「やっぱりそこなのっ!?」
「ま、それよりも北風と太陽の話。アレって女の子でやったらめっちゃ興奮するよね」
「いつの間にか男目線!?」
「いやでも、ネネだってそう思うっしょ~?」
「い、いや~……」
超反応に困ってる。
まあそりゃそうだ。
「なんで!? だって北風が思いっきり風吹いて捲れた外套の中は裸なんだよっ!?」
「いや北風と太陽の性別以前に主人公を露出狂にしてる事のほうが問題じゃないっ!?」
あれ? と首を傾げられた。
「でもアレって、マントを脱がすって話だよね? 暑くするか風を吹かせるかで」
「それでなんでマントの中が裸になるの?」
「……それが見たいから」
「それ読者の感想じゃね?」
「男の旅人の裸を見たがってるんだよ? だからきっと読者じゃなくて腐女子だよ」
「コノまでいきなり入ってきて何言ってるのっ!?」
っていうか、問題はそこじゃない。
「そもそも、裸じゃないから」
「そっか~……じゃあやっぱり女性の旅人で、ミニスカートにしよう」
「そしたら次は風だけを目当てにしない?」
強風でスカートを抑える女性の旅人……まあ確かに悪くない絵面ではある。
「というか、この話なに? もしかして姫路さん、漫画でも描くつもり?」
「そんな能力私には無いって。大体、目的を話すなら三題噺の消化だから」
「北風と太陽がお題だったの?」
「ううん、北」
「だとしたら回りくどすぎない!?」
「でも思ったら、今までも三題噺から話題を振ってたんだよね?」
隣に立つコノが、彼女の手の中にあるスマフォを指差す。
「その割には巧く会話に繋げてたね?」
「まあ、そこは私のトーク力よ」
そんな威張れる程かなぁ~……無理矢理なのばっか見てた気がするんだけど。
「でもやっぱりそろそろ限界でね。というわけで、ちょっとゲームしよう」
「ゲーム?」
「ま、内容は簡単。私のお題を当てるの。さっきみたいに」
「なるほど」
それなら簡単だ。
「お題を話したと思ったら指摘して」
「オーケー。分かった」
「ネネも良い?」
「うん。まあ、やってみる」
「じゃあ早速次のお題だけど、笛をね――」
あ、あまりにも露骨過ぎる……! 次のお題とか自分で言ってるし……!
……いや、やっぱりここは違うか。
「あ、ダウト」
「正解」
「まさかのっ!?」
素直にいったら正解とか……!
「やっぱり簡単すぎたか~……やっぱ面白くないかな」
「でも、話題が無いんでしょ? 初羽くんと無理矢理喋ってるんでしょ?」
「ちょっとコノ、その言い方は酷くない?」
「そうだよ、ネネ。これは私がしたがってることなんだから」
うんうん。
「私が! 初羽くんとっ! 話したいからしてるのっ!!」
……おいおい、まさかこの方法で照れさせにくるとか……止めてくれよ。
「……ま、たまには初羽くんから話題振ってくれないかな~……とか思うけど」
「それは……うん、ごめん」
「いやいやだから、私の勝手な気持ちだから。大丈夫大丈夫。気を遣わないで」
「…………」
「過酷な罠とかじゃないから」
「いや……そう言われても」
「あ、ダウト」
「正解」
「それもかよおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーー!!」
「ま、そういう訳だから、本当に気にしないで」
「なるほど……こういう手法で照れさせることも出来るからゲームにしたいってわけね」
「そういうこと。さすがネネ」
「面白いわね。これからはこれでいきましょう」
なんだその合意……直接的な照れから間接的な照れまで可能とし、さらにそれによって相乗効果も期待する方法……。
北風と太陽か……本当、色々と慣れてきたってのはホントっぽいな……せっかく彼女を照れさせることだって出来てたのに……。
……勘弁してくれマジで。
お題は
「北」
「笛」
「過酷な罠」
でした。




