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三題噺をふる少女  作者: ◆smf.0Bn91U
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日課練習015.

「初羽くん……好きだよ」


 彼女はボクの机に座り、真正面から見下ろしながら、恥ずかしさを誤魔化すように平然とした態度を作りつつ、ボクに言葉をかける。


「ありがとう、姫路さん」


 対してボクは、相手の照れが分かるせいなのか慣れたせいなのか、いつもとは違い顔を赤くすることなく返事をする。

 それは隣に立つ幼馴染のコノも同様なのだが、彼女はいつも通りその告白を聞こえないフリをして答える。

 そしてその言葉を発した当事者たる彼女は、照れないボクに不満気な視線を向けつつも、いつものように話を振ってきた。


「ねえ初羽くん、BLに興味ってある?」


◇ ◇ ◇


「いや無いよっ!?」


 今日はいきなりなんて質問からぶつけてくるのか。


「ネネは?」

「知っては、いるけど、興味は無い、かなぁ……」


 コノにまで質問をぶつけてるが……。


「そういえばコノってオタク寄りな趣味ってあった?」

「う、ううん。実は、そんなには……」


 友達が知ってるからある程度は知ってる、程度だろうか。

 もしアニメ系のブームが来ていなければ何も知らない子だったのかもしれない。


「えっ? っていうか、ネネの趣味ってなに?」

「な、なんだろ……特には……」


 まさか自分にスポットライトが当たると思っていなかったのか。ちょっと焦っている。


「ホントに? なんか人に言えない趣味でもしてんじゃないの~?」


 机の上に座ったまま身体を傾け、隣に立つコノの肩を軽くコツく。

 なすがままにコツかれ、少し後ずさりするも――


「そ、そんなことないって、ホントに」


 ――結局趣味を明かすことはなかった。


「ホント~? 冷蔵庫の駆動音を録音するような趣味持ってない~?」

「ホントに分からない趣味だねそれ」

「洗濯機の回ってる中を見続ける趣味?」

「それ精神的に病んでる人なんじゃ……」

「じゃあ掃除機を使って皮膚を吸引し続けるような……」

「セルフ脂肪吸引みたいなことはしてないよ」

「マッサージ器を股間に当てるような」

「それ同じ女性が相手でもセクハラって分かってる?」


 不意に下ネタをぶっこんでくるのは止めて欲しい。

 聞いてるだけでも恥ずかしくなる。


「というか、そういうのを止めた方が良いってアドバイスしたばっかりだよね?」


 コノに咎められた彼女が、うっ、と仰け反るような仕草をする。


「ご、ごめん……つい……。無理矢理言ってたはずなのに、頭のなかに思い浮かんでつい口から出しちゃって……」

「そういうのを止める癖をつけよう、うん」

「悪の魔法みたいに私を呪ってるね、これは」


 ごほん、と一つ咳払いし、彼女は仕切りなおす。


「BLの話に戻るんだけど……アレってボーイズ・ラブの略語で良かったんだよね?」


 ボクを見ながら問いかけてくるので、ボクに向けての疑問なのだろう。


「そうだけど……それがどうしたの?」

「いや……今まで初羽くんにしてた私のアピールが間違えてたのは理解したけど……それを差っ引いてもちょっとあまりにもなびいてなさすぎる気がするの」

「いやそれでBL認定はおかしくないっ!?」

「あ、それは違くて……」


 おっと、先走ってしまったようだ。


「初羽くんって男性にこそモテるんじゃない?」

「何が違うと否定したのか!」

「いや、初羽くんが女性好きなのは分かるよ? でも男は――」

「だとしても! だとしてもっ!」


 ちなみに断固としていうが、ボクは男性にモテたことはない。

 告白なんて以ての外だ。


「そう? ネネだって初羽くんは男にモテると思わない?」

「いや……それはどうだろ……」


 良かった。コノは常識人だ。


「もうちょっと小柄で子供っぽくて女の子みたいな顔立ちだったりしたらいけるかもだけど……」

「コノさんっ!?」


 外見を全否定されたような気がする。

 ……いやだからって男性にモテる外見だって言われるのも困るんだけど!


「そっか~……初羽くんがモテそうって思うのは好きになったからこその贔屓目か~……」

「……………………」


 サラッととんでもないことを言う。

 だから照れた。


「……あれ? 照れてる?」

「て、照れてない……!」


 我ながらバレバレの嘘だった。


「う~ん……どこに照れさせる要素があったの?」

「そこを自分で考えて分かるようになりましょう」


 コノが彼女の質問をバッサリと切り捨てていた。


「……下ネタも色仕掛けもしてないのに……男性のツボが分からない……いや、この場合は初羽くんのツボが特殊なだけ……?」


 いや、確かにボクは照れやすいけど、こと今回の場合は男の人全員がキュンとしてクラっと来ると思う。

 ……まあ言うとややこしくなるから言わないけどねっ。


「そ、そもそもさ、それを言うなら姫路さんの方が同姓にモテない?」

「えっ?」

「友達とかいっぱいいるでしょ?」


 嘘告白の時にいた女子一人は元より、クラスのほとんどの女子と話しているのを見かける。女子はグループを作るものだと聞くのに、彼女の場合は特定のグループに所属しているようには見えない。その癖ハミられているとか、クラスのトップだとか、そんな感じもしない。

 きっと嫌っている人もいるだろう。

 しかしそれでも、彼女と話せばその嫌っている気持ちが、話している間だけでも無くなる。

 そんな妙な魅力が彼女にはあった。

 ボクも含めて、だけど。


「友達な~……でもあくまで友達であって、恋人には発展しないっしょ?」

「いや、普通はそこからじゃない?」


 まあ百合についてはボクも詳しく無いんだけど。


「そうなの? だったら初羽くんの友達も……。……あれ? 初羽くんって友達いる?」

「いやいるけどっ!?」


 ただここ最近、毎朝彼女と話しているせいか少し距離を置かれるようになってしまったけれど。


「でも見かけないし……あ、強が――ごめん。じゃあやっぱり初羽くんはBLじゃないか……」

「その納得のされ方は不服だっ!」


 そのツッコミを合図にチャイムが鳴ってしまったせいで、生憎と訂正が出来なかった。

 ……いやまあ、友達がいないが間違いなだけで、少ないのは事実なんだけどさ……。

お題は

 「音」

 「洗濯機」

 「悪の魔法」

でした

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