日課練習013.5.
お題は
「天」
「箱」
「新しい目的」
でした。
「初羽くん、好きだよ」
彼女はボクの机に座り、真正面から見下ろしながらいつものように、恥ずかしげもなくボクに言葉をかける。
「あ……ありがとう……姫路さん」
それにボクはいつものように、慣れることなく顔を赤くし返事をする。
そんなボクを満足気に見つめながらいつものように、彼女は話を振ってきた。
「ねえ初羽くん、私ってビッチっぽく見えない?」
◇ ◇ ◇
「…………」
今日はなんて答え辛い質問から来たのだろう。
……って、あれ?
「今日、コノは来てないの?」
「いや~、昨日の放課後にネネと色々と話しをしてさ……どうも私のやり方が間違えてたみたいで……でも私個人は納得してないのよ」
「……いや、それって来てないことの理由の説明にはなってないような……」
「ま、その確認のために、久しぶりに私と初羽くんの二人で会話させてって昨日の内に言ってたの。だから今日は来てないって訳」
マジか……出来れば一緒にいてくれた方が良かったのになぁ……。
「で、どう?」
「どうって言われても……」
……まあ、正直に話すべきか。
「ぶっちゃけ、思ってた」
「ですよねっ!?」
「えっ!? 嬉しそうっ!?」
普通嫌がる言葉だと思うんだけどっ!?
「いや~……ちゃんとビッチっぽく見えてたか。良かった良かった」
座ったまま腕を組み、うんうんと頷いている。
「……なんで喜んでるの?」
不思議すぎてつい、質問が口をついた。
「ん? だってその方が初羽くん的には良いでしょ?」
「え? なんで?」
「えっ? だって男子って簡単にヤれそうな女が好きだって雑誌に……」
「それは色々と違う気がする!」
いつものからかいのせいで、つい顔が赤くなる。
「…………あれ?」
と思いきや、ボクの顔を見てニヤついていない。
むしろ本当にどういうことか分かっていない表情をしている。
「えっとね……」
どう説明したものか……と、頭の中で必死に言葉を探す。
「確かに、一部の男子はそういう女の子が良いって言う人はいると思うよ?」
「あ、だよね? 友達の男子二人もそう言ってたし」
「でもね……そういうこと言う男って、多分ほとんどがただ……その、エッチなこと……を目的としてるだけの、軽い男……だと思う」
「マジでっ!?」
「マジで……」
そうか……もしかして昨日までのアレって、そういうことだったのか……。
……でもそれであの親父ギャグのようなド直球な下ネタってのもどうなんだろ……。……思えば、言い慣れてないせいで、あんな感じになっていたのだろうけど。
「そんな……。……ちなみに、初羽くんは……?」
「ボクは、そういう軽い男じゃないし……エッチなことは、こっちも恥ずかしいし……」
「でっすよね~! ぐっは~……! 間違えてた~……!」
崩れ落ちるように頭を抱える。
「というか、友人たちに騙されてた……!」
「友達は選んだ方が良いよ……」
そう当り障りのない言葉を掛けてから、ふと、さっきの彼女の言葉が引っ掛かった。
「……友達の男子二人に……?」
「そうだけど……」
「……多分だけど、狙われてたんじゃない?」
「何が?」
「何が、って……」
彼女、自分のこととなると疎すぎやしないか……?
「……その、エッチなことを、姫路さんに、するために、そんな、嘘を……」
言うだけで恥ずかしくなる。
でも今日は、ボクの顔を見てニヤけることもない。
「え~? まっさか~。だって向こうは友達だって言ってたし~」
「大学で新人歓迎会で飲み会とかあったら絶対行かないほうが良いね、姫路さんは」
確実に喰われる。
「小説で読んだこと無い? 思いっきり飲ませてホテルに連れ込むって話……」
「や~、無いな~」
「テレビで見たりとかは……?」
「それならある」
「あるんかいっ!」
だったら分かって欲しいものだ。
「いやでも、アレってそういう隙のある人だけっしょ? 私はほら、初羽くん一筋だから」
「その言葉は嬉しいけど……」
照れるけど。
「でも、今現にボクの好みとは違うことを言われて言うこと聞いちゃってるよね?」
「あっ……!」
「え、今気づく……?」
「じゃあ私……今現在進行形で騙されてた……!」
「うん、まあ、そういうこと。だからまあ、大学の飲み会でもあの手この手で上手いこと言いくるめられると思うから、止めた方が良いかと」
「そっか……気をつけるよ、初羽くんの言葉だし」
「うん」
「……あれ? もしかして初羽くん、私にそういうことして欲しくない?」
「そりゃ……まぁ……」
「そっか……」
えへへ、と嬉しそうに笑う。……可愛い。
「でも、外見は結構気に入ってるしな~……変えちゃうのはな~……」
「いや、変える必要な無いんじゃない?」
「でもビッチっぽいって」
「それは内面といつもの言動の話な訳で……気に入ってるんならそのままで良いんじゃない?」
「そう? 可愛い?」
「可愛い」
あ。
「~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
そうして、お互いが照れたところで、チャイムが鳴った。
そそくさと席に戻る彼女の背中を見て……改めて、ボクは思うのだった。
……いや、意識を植え付ける、か。
そう。
自分はまた騙されているだけなのかもしれないと、念を押すように。
というわけで、お題未消化なので、このお題は明日に回します。




