日課練習011.
しばらくは三人で様子見。たまに二人で会話させたくなったら二人にする。
「初羽くん、好きだよ」
彼女はボクの机に座り、真正面から見下ろしながらいつものように、恥ずかしげもなくボクに言葉をかける。
「あ……ありがとう……姫路さん」
それにボクはいつものように、慣れることなく顔を赤くし返事をする。
そんなボクを満足気に見つめながらいつものように、彼女は話を振ってきた。
「ねえ初羽くん、今日は友達を紹介しようと思うの」
◇ ◇ ◇
「友達?」
彼女に言われて思い浮かぶのは、ボクと彼女の関係が始まった例の件の時、顔を覗かせた三人だった。
あの中に一人、女子が混じっていた。その子かもしれない。……正直、良い気がしない。
「……なんで友達?」
「正直、二人で話してるのも限界でね~」
それなら無理に話しかけに来る必要なんて無いのに……。
「というわけで、もう一人加えようかと」
それで加わるのがあの時一緒に居た子はちょっとなぁ……。
「……で、どこに?」
「そこに」
指差したのは、ボクの間隣。窓側を背に一人の女子が立っていた。
「うおっ!」
いつも誰も立っていないことに慣れ過ぎていたせいか、そこに人が居たことすら気付かなかった。
「……って、あれ?」
そこに立っていたのはボクが想像していた人物ではなかった。
「コノ?」
「うん、久しぶり……」
小さな声で返事をしたのは、ボクの幼馴染――と言って良いのかどうか微妙な関係の女子だった。
「コノ? なんでコノ? ネネの苗字って……コノ要素なんて無くない?」
彼女の反応は最もだろう。
「真ん中の二文字から取ったんだ。まあ、子供の頃に付けたアダ名だから、特に深い意味は無いよ。あ、子供の頃ってのは――」
「ああ、その辺は知ってる知ってる」
説明を始めようとした彼女が手をヒラヒラとさせて遮った。
「幼馴染なんでしょ? 幼稚園から一緒の」
「と言っても、中学から同じクラスになったことはないんだけどね」
困ったように微笑みながら、コノは彼女の言葉にそう補足する。
「…………」
座ったまま隣にいるコノを見上げると、やはり背が高くなったな、と思う。
中学の三年間、別のクラスになっている間に、彼女の身長はメキメキと伸びた。同じ高校を受けていて、そして同じ高校に合格していたと知った時には、既に男子顔負けの背丈になっていたから驚きだ。
正直言って、男子の中では平均より少し下のボクから成長力を吸ったのではと疑ってしまうほどだ。
「あ、ちなみに、私が初羽くんのこと好きってのは、とっくに伝えてるから」
「……はあ……」
そういえば、さっき好きって言ってるのも聞いたんだよな……それに何のツッコミも無かったってことは……そういうことなんだろう。
「にしても中学か~……私の中学って何にも無かったな~……初羽くんがいてくれたらそれだけで魅惑的な中学校だったのに……ホントネネが羨ましい」
「…………。……えっと……ふ、二人はいつから友達になったの……?」
だからホント、さっきさり気なく言ってきたことといい、反応できないから。
特に今日は子供の頃のボクを知っている人が隣りにいる。
余計に、どうしろと、って感じだ
「つい最近」
「へ?」
「天からのお告げが来てね……初羽くんの幼馴染が別のクラスに居るよ、って。だから会いに行った」
「いやそれ絶対何かしらの情報網だよね?」
天からのお告げって……そんなことあるはずもない。
「ま、ともかくそこから話をするようになって、さっき言ったように初羽くんと二人じゃ気まずくなってきたら、これから呼ぶつもりで今日ここに呼んだって訳」
「え? じゃああたし、これから毎朝ここに……?」
「うん」
コノがなんとも言えない表情を作る。
「どうせ朝暇っしょ~?」
「……まあ、特に何かしてるわけじゃないけど……」
「じゃあ良いじゃん」
ちょっと無理矢理っぽいが、それを咎める程の度胸がボクにはない。
それに、コノが毎朝何をしているのかなんて、ボクだって知らない。もしかしたら彼女なりに、コノに気を遣ってる可能性だって十二分にある。……その辺を聞く度胸も無いんだけど。
「大体さ~、蜃気楼が見えそうなぐらい暑いのにクーラーも点けれない教室の中でジッとしてるなんてバカっぽいじゃん? それなら話でもして気を紛らわせてた方がマシっしょ~?」
この言葉にはさすがのコノも苦笑い。
「あ~、にしてもホント暑い。プール行きたくない? プール」
プール……プールか~……。
確かに、授業でのプールではなく、遊びに行く意味でのプールは行きたいかも。……ボクはあんまり泳げないけど。
「もし初羽くんと一緒に行けるんなら水着だって新調するのにな~……」
新調……。
「あ、今想像した?」
「そ、そんなことないから……!」
想像する前に口を挟まれた。
「今のはね、パレオがついた水着なんだけど……エッチな初羽くんの気を惹きたかったらもうちょっと大胆にならないといけないからさ~……それならやっぱ、もうちょっとこう、胸元を強調できるような……」
「っ……!」
そう言いながら、腕で寄せて上げて胸元を強調するのは止めて欲しい。シャツの上を開けているせいか、ちょっとだけ谷間が見えてしまった。
……これじゃあ余計に暑くなる。
「……良いなぁ……」
ボソリと、隣からそんな呟きが聞こえた。
つい、視線を向けてしまう。
「あ、いや、その……」
照れながら、両手を胸の前に持っていって、さり気なく隠すような仕草。
……あ~……まあ、大きさが全てではないと思うけど……服の上からじゃあ全く無いように見えるのはそりゃ……。
「……ハネ、エッチになってる……」
「いや、それは……ごめん」
つい、ジッと見てしまったのは確かに悪かった。素直に謝る。
「いや、おかしくない?」
「え?」
彼女の言葉に自分でも分かるぐらい、マヌケな声が出た。
「私のも見てたくせになんで私には謝罪が無いの? おかしくない?」
「いやだって……姫路さんは自分から見せに来てるし……」
「くっ……! 足りないのは恥じらいか……!」
……まあ、一理あるかも。
でもそれをあえて言うのも何かと怖い。
……こういう時、かなりの期間が開いていたとはいえ、コノになら平気で言えるのになぁ……。
そうして素直になれるって意味では、コノとは確かに幼馴染なんだろう。
……これから一緒に話せるようになるのは、なんだかんだで、ちょっとだけ、楽しみかもしれない。
お題は
「天」
「蜃気楼」
「魅惑的な中学校」
でした。




