楽園へのパスポート〔後編〕(5)
「ゼアァッ!」
蒼光が奔流となって空間を薙ぐ。
ティマリウスの斜め上方から降り注いだ光線が、鋼の馬体の背に直撃する。
天文学的な熱量を一身に浴びながら、しかし黒金の殺戮者はシールドを張らなかった。キャリルの目にはそれが、憎たらしいほど冷徹な判断として映る。シールドをキリエスの側に回せばシグナが正面から弱点を狙う――あいつはそのことを読み切っているのだ。
金属を擦り合わせたようなティマリウスの咆哮。稲妻が大気を焦がして迸り、キリエスの肩口を撃った。
空と大地で爆発が起こる。
キャリルと興一の眼前に、キリエスの体が落ちてくる。岩や樹木の破片が混じった土煙が濃霧のようにあたりを覆い、その中で巨人は辛うじて身を起こす。
荒い息遣いと、時を追うごとに速さを増す鼓動音。限界が近いことを匂わせながらも、闘志を宿す双眸は未だ爛々と燃えている。
土色の靄の向こうから、重厚な足音。
「……マジか。あれで倒れねぇのかよ」
キリエスの光線が直撃したにもかかわらず、ティマリウスは健在だった。
黒く輝いていた装甲が、背中から腹にかけて広範囲に赤熱している。立ち上る陽炎によって背後の景色を揺らめかせながら、一歩ずつにじり寄ってくる。
「おい、あいつ弱点とかねえのか?」
「腰のあたりにハッチを塞いだ痕があるよ。そこだけは脆いはずなんだけど……」
興一が舌を打つ、
「バリアが鉄壁すぎんだよ。何かねえのか、何か――」
打開策を求めて彷徨った視線が、再び、地面に転がったスタンボールを捉える。
「……これさっき電気流れたよな。ってことはただの鉄の塊じゃねえんだな?」
「え――うん、違うけど」
キャリルには興一が何を言いたいのか分からない。
興一の見立てどおり、もちろんスタンボールは単なる鉄の塊ではない。敵機を無力化するための放電装置を金属の殻で覆って芯とし、まわりを特殊なカーボン樹脂で固めることでスタンボールは出来上がる。すべてを金属製にするより重量も電導性も抑えられるからこそ、暴徒鎮圧用の装備として機能するのだ。
キャリルがそのことを説明する間に、興一はスタンボールをシグナの左手で拾い上げていた。
「なら構造は似たようなもんだな。あとは隙さえできりゃ……」
そのとき、猛然とティマリウスに襲いかかった者がいた。
空を疾駆する機影――レーベン一号機だ。
キャノピーが割れているのがわかった。操縦席のあるべき位置はぽっかりと空虚で、遠くの山中へとパラシュートが降下してゆくのが見えた。
「機体を棄てたの!?」
キャリルはパイロットの判断と、それを許したのであろう指揮官の度量に舌を巻く。
彼らはきっと、こう考えたのだ。
武装が一つとして通じず、機体そのものにも異常が生じた今、もはや飛び回っていても満足な援護はかなわない。
ならばいっそ、まだ数時間は航続していられるだけの燃料をタンクに残し、主翼下に二発のミサイルを抱えたままの戦闘機を、まるごと最大加速で一直線に突っ込ませてはどうか――と。
これまでレーベンの攻撃を端から無視していたティマリウスが、初めてシールドを張った。
レーベンの機首がシールドに触れる。
静寂が凝縮し――轟音。
烏色の翼が木っ端みじんに爆砕した。
焔が黒煙を巻き込んで渦巻き、ティマリウスの正面を包み隠してゆく。それは即ち、視覚センサーも熱センサーも、今だけはこちらの動きを捕捉できないことを意味していた。
「よしッ!」
興一が快哉を叫ぶ。その口角が見る間に吊り上がり、
「思ってたのとは違う形になっちまったが……キャリル、約束のもんを今見せてやるよ」
「約束のもの?」
「よく見とけ。こいつがオレの――」
興一はスタンボールを握ったまま、両腕を大きく頭の後ろへ振りかぶる。
右脚がぐいと上がり、体重が左足一本に乗った。前方に背中が向くほどまでに上半身が捻られ、腰を軸として総身のバネが引き絞られた。
キャリルの網膜にほんの一瞬、興一のユニフォーム姿がよぎる。
「――決め球だッ!!」
興一の体が竜巻のように回転した。
シグナの指からスタンボールが離れたのと、ティマリウスの視界を覆っていた爆煙が吹き消えたのが同時だった。
ティマリウスはシールドを張り直さなかった。その必要もなかったというのが正しい。興一の投げたスタンボールは、先程のレーベン同様に、シールドめがけて真っ直ぐに迫っていくように見えたからだ。
そして、それこそが興一の仕掛けた魔法だった。
ボールが、急速に落ちた。
焔と煙にセンサーを遮られていたティマリウスには、シグナがどのように球を握っていたかも、どんな体勢で投げたかも確認できなかったはずだ。――否、たとえ確認できていても、予測した軌道の変化に機体が対応できたかどうか。
興一の投球を完璧な精度でトレースしたシグナのフォークは、一切の反応を許さぬほどに速かった。
大気を震わせる破砕音。
シールドを避けた硬球がティマリウスの胴にめり込んだ。
「ざまあ見ろヘタクソ! 蒲生ならこのくらい捕ってるぜ!」
黒い金属片が宙に舞い散る。
キャリルの予想したとおりだった。いかなる攻撃も通さないかに思われたティマリウスの重装甲も、ただ一点、メンテナンスハッチの跡だけは脆弱さを克服できなかったのだ。
スタンボールが電撃を発する。装甲が剥がれた箇所から直接注がれた電流は、たちまちティマリウスの内部を駆け巡って全身へと浸透した。黒く輝くボディの至るところで滝のような火花が弾けた。
それでもティマリウスは倒れない。
半人半馬の体が力強く大地を踏みしめ、竜を模した首から上がスピンをはじめる。回転の速度はみるみるうちに速くなり、四秒を数える頃には赤い単眼が一本の線に見えるほどとなった。
鋼の顎門が開かれる。
災厄を排する裁きの雷が、三六〇度にわたって狂ったように放たれる。
「げっ――」
興一が反射的に仰け反る。シグナの足元がおぼつかなくなり、バランスを崩しかけたところに雷撃が容赦なく降り注いだ。緩衝ジェルで殺しきれなかった衝撃がコントロールブロックまで届き、球状の部屋全体を縦横にシェイクした。
キャリルは壁に固定されたラックを掴んで揺れを堪えた。とっさにスクリーンを見上げる。
シグナのメインカメラの視界を遮る、銀と蒼の色彩。
「クオォォォッ……」
キリエスだ。波打つ光の障壁を張って、乱射される雷からこちらを庇ってくれている。
その両腕が眩い煌めきを宿し、
「ゼイアアァ――――ッ!!」
十字に組み合わされた瞬間、溜め込まれたエネルギーがスパークを散らせた。
――二発目!?
驚愕に目を瞠るキャリルをよそに、光線が雷撃を蹴散らしながらティマリウスへと邁進する。
ティマリウスは攻撃を諦め、今度こそシールドを発生させて守りに入った。だが出力が乏しい。スタンボールの電流が内部にダメージを与えたのか、発生した光波の盾からは鉄壁の強度が失われていた。鉄砲水のように押し寄せるエネルギーに耐えられず、だんだんと亀裂に蝕まれてゆく。
『警告する――』
ティマリウスの眼が赤く点滅する。
『生命の存続する宇宙が持続不能に陥ることは、当機の計算によって立証されている。君たちが知性を有するならば、ただちに反逆を止め――』
「ゼェヤッ!」
聞く耳持たぬとばかりにキリエスが攻勢を強めた。光線が明るさを増し、ティマリウスのシールドのヒビをさらに広げる。
いける、とキャリルの心が昂ったのは一瞬だけだ。
キリエスは消滅しつつあった。
満身創痍の銀の巨人は、光の粒子と化して風の中に溶けようとしている。結晶体から鳴り響く鼓動の音は早鐘の域をとうに超え、ひとつの連続した音のように聞こえる。時間とともに透けてゆく身体を、己が魂を振り絞るようにして現世の空間に引き留めながら、なおもキリエスは光を両腕へ送り続ける。
シールドが砕けた。
もう遮るものはない。蒼光がティマリウスの竜頭を灼いた。
「今だ! 突っ込むぜシグナぁっ!」
興一の合図に応え、鋼の騎士が地を蹴りつける。力を使い果たして膝をつくキリエスの頭上を越したところでスラスターに点火。コントロールブロックが加速の衝撃を受けて静かに震える。白い機体が水蒸気の雲を曳いて、ティマリウスの魁偉な容貌へと肉薄する。
ティマリウスの右手が反応する。
が、その凶剣が振るわれるよりも早く、興一はこちらの左腕を回し込んだ。ティマリウスの肘から先を、シグナの脇が締め上げる。
そして興一は、天井のスピーカーに向かって大声で命じた。
「右腕のロック外せッ!」
シグナは異論を挟まなかった。ガチャリと短い音が鳴って、コマンド用のプロテクターが興一の右腕から自由になった。
興一が腕を振る。
プロテクターが勢いよく飛んでくる。
「使えキャリル!」
キャリルは渾身の力で跳躍した。プロテクターを掴み取って装着まで終える。山猫のように身を翻して、操縦ブースのど真ん中、興一の隣に着地する。
シグナとリンクした右腕を、ティマリウスの胴体に押しつける。黒い装甲の剥がれた傷痕。興一が作ってくれた突破口。
この距離なら、ティマリウスはシールドを起動できない。
「たぶん計算は正しいよ。でも――」
シグナの前腕が変形し、多連装ランチャーを露出させる。
「冷たい宇宙に意味はないんだっ!!」
六つの砲門が獣のような咆哮をあげた。
密着状態から撃ち出された破壊の嵐が、心なき神の腹を食い破っていった。
◇ ◇ ◇
興一とて覚悟の上ではあったが、父と母にめちゃくちゃ怒られた。
まあまあそのへんで、と二人を宥めてくれたのはメガネをかけたSSSCの副長だ。巻き込まれる前にこうして我々が保護できたわけですし、何よりお子さんの功績は勲章ものなんですよ。お子さんが我々の協力者にフォークを教えてくれていなければ、我々はもっと苦戦を強いられていたに違いありませんから――。見た目どおり弁の立つ人だと感心する興一に、彼はこっそりとメガネの奥で片目を瞑ってみせた。
つまり、そういうことになったのだった。
「念のため検査を受けてもらう規則になってますんで、それが終わったら我々の車で息子さんをご自宅までお連れしますよ」
周防と名乗ったメガネの副長は、最後にそう約束して、父と母をすっかり丸め込んで家に帰してしまった。鮮やかな手際というほかない。
「……あざっす」
「なに、君の勇敢さに報いるにはこのくらいのことはしなければね」
「でも法的にはアウトっすよね?」
「自分が不利になることを言うもんじゃないよ。今回島を守ったのは法律じゃなかろう?」
和泉の上司だけのことはある、と言うべきだろうか。ECOという組織のイメージを考え直す必要があるかもしれない。
「ところで、検査ってのは?」
「むろん方便だとも。王女様がお待ちかねだよ」
「コーイチ――――っ!!」
医療スタッフの詰めている仮設テントを潜った瞬間、ものすごい勢いで体当たりされた。
「ありがとう。コーイチのおかげだよ!」
テントの外ではECOの処理班がせわしなく行き交い、ティマリウスの残骸の撤去作業を進めている。
戦いに勝利した直後のキャリルは不気味なくらい静かだったのだが、どうやら時間差で理性が吹っ飛んだらしい。
とても「王女様」なんて柄じゃねえよな、と改めて思う。
「――左手は看てもらったか?」
キャリルの興奮が落ち着くのを待って、興一は気になっていたことを問いかけた。
キャリルはつい先程まで、こちらの肩に右手を置いてがっくんがっくん揺さぶってきていた。感極まった最中でさえ片方の手しか使っていなかったということは、やはり無事ではないのだろう。
「折れてはいないって」
テーピングで固めた左腕を持ち上げつつ、キャリルはまだ喜び足りない様子で飛び跳ねる。
「打撲。二週間あれば治るだろうって」
よくあることだな、と思った。興一自身、野球の接触プレーで似たような経験をしている。ぶつかった瞬間は間違いなく大怪我だと感じるのに、数分も経つ頃には痛みがけろりと収まっているのだ。
「そんなに酷くなくてよかったな。……けど、二週間ってのはネリヤ星人にも当てはめていい話なのか?」
「言ったでしょ、ネリヤと地球はよく似てるって。ボクの体は地球の女の子とほとんど変わらないよ。……力はボクのほうがちょっと強いみたいだけど」
興一は「ちょっと」という言葉の意味について真剣に検討を始めようとする。しかし、ぐいぐいと言葉を浴びせてくるキャリルがそれを許さない。
「ねえねえコーイチ、二週間で宿題片付けちゃおうよ」
「は……なんだよ藪から棒に」
「それでさ、夏休みの残り半分でいっぱい遊ぶの。また野球の勝負したり、商店街でお買い物したり、洞窟の中とか探検したり。――あ、そうだ、せっかくだし泳ぎも教えてよ! ちゃんと泳いでいいビーチもあるんでしょ?」
――ま……いいか。
この世に生まれ落ちたときからコンピュータに管理されて暮らし、十一歳で星を出て、そこから一切の時間をティマリウス討伐のために捧げてきた。それが興一の知った、キャリル・メロ・ネリヤカナヤという女の子の半生だ。
そんな日々も今日で終わった。
キャリルは今、初めて本当に自由なのだ。
こいつが自分の意志で掴んだ自由だ。
ひょっとするとキャリルには、目に映る全てが新しいものに見えているのかもしれない。やりたいことが溢れ出して止まらないのは、キャリルの心がキャリル自身の時間を取り戻そうとしているからなのかもしれない。
「わかったよ。いくらでも付き合ってやらあ」
このときにはもう、ひとつの予感が興一の頭の奥底に芽生えつつあった。
キャリルに別れを告げる日は、きっと、そう遠くないだろう。
◇ ◇ ◇
――ちなみに。
和泉のことについて言えば、彼はキャリルよりよっぽど重傷だった。
島に一つしかない総合病院が和泉への面会を受け付けたのは、戦いが終わってから三日も経ってからのことだ。聞けば、担ぎ込まれてから二昼夜もの間、ずっと意識が戻らなかったらしい。
「まあ、このくらいならセーフさ」
何でもないかのように笑い飛ばす和泉だが、それはまともな人間の感覚じゃないというのが興一の偽らざる本音だ。
鼻骨骨折。左肩にⅡ度熱傷。背中にも複数の火傷。極めつきに左膝靭帯損傷。
身体の至るところを包帯とギプスで覆った格好は、どう見ても「セーフ」の一言で済ませていいものではないと思う。外見のインパクトのせいで詳しいことを聞きそびれてしまったが、元通りの生活に戻れるまで最低三ヶ月はかかる怪我だ、というのが興一の抱いた印象であった。
しかし、見舞いに訪れた興一とキャリルを前にして、和泉はまったく深刻さを感じさせない表情で豪語するのだ。
「しぶといのが一番の取り柄なんだ。ひと月もあれば動けるようになるよ、たぶん」
二人とも真に受けなかった。キャリルに気を遣ってくれたのだということは、中学生の身でも容易に理解できたからだ。
ところが驚くべきことに、和泉は翌月本当に退院してしまった。
そのときキャリルと和泉が交わしたやりとりを、興一は生涯忘れることはないだろう。
「イズミって、実は人間じゃなかったりしない?」
「まさか君に言われるとは……」
◇ ◇ ◇
結局、話したことを全部実行した。
夏休みの最初の二週間で、興一とキャリルは図書館に通い詰めた。宿題が片付く頃にはキャリルの腕は完治していて、そこからは島のあちこちを回った。夜の里山でホタルやフクロウと戯れたり、鍾乳洞で天然の彫刻と出くわすたびに、キャリルの瞳は一等星のように輝いた。泳いではバタ足で進める程度には上達したし、バットを握っては興一の変化球――はともかく、ストレートなら外野まで運べるくらいにはなっていた。
クラスの連中に囃し立てられるかもしれない、なんて心配をしていたのが、もう何年も昔のことのような気がする。
こんなに楽しい夏休みはなかったと、興一は心から思っている。
「……心残りはねえか?」
夏休み最後の晩、星空を映した海辺で、興一はキャリルと肩を並べる。
「ないよ」
キャリルから返ってきたのは屈託のない笑顔だ。
彼女は今日、星に帰る。
散り散りになったネリヤの生き残りをもう一度集めて、故郷を再建するのがキャリルの次の夢なのだという。
「ボク、幸せだよ。地球の思い出をいっぱい持って帰れるんだもん。コーイチのおかげだ」
「そいつはよかった」
興一もつられるように相好を崩す。
考えてみれば、自分は女の子をエスコートした経験などろくになかった。我ながらよくやったものだ。
「――イズミも。いろいろお世話になったね」
見送りには和泉も来ていた。
仕事をしただけだよ、とやんわり首を振る和泉だが、実際にはキャリルの言うとおり、彼は功労者だった。
ECOはこの一ヶ月、シグナの修理や燃料の提供を施してくれた。それもこれも最初に和泉が交渉してくれなければ起こりえなかったことだ。
「――『魂なき者に、運命を定める資格はない』」
和泉は空を見つめて、唐突にそう言った。
「キリエスに助けられたとき、そんな声が聞こえた。君はそのことをよく分かってる。きっといい星になるさ」
「ありがとう。……イズミも、いつか故郷に向き合うときが来たら、自分の心に正直になってね。そしたら後悔しないと思うから」
「貴重なアドバイスとして受け取っておくよ」
「キリエスによろしく。今度会ったら、ボクがお礼を言ってたって伝えておいてね」
和泉がしっかりと頷いたのを見届けて、キャリルは首から提げたペンダントへと手をかけた。ペンダントには瑪瑙のような宝石が填まっていて、宝石の中には電子回路が仕込まれている。
回路の上を光の点がなぞる。
亜空間ゲートが開いて、シグナの巨影が現れる。
「――コーイチっ」
そこでキャリルは、興一の体に腕を回してきた。
興一はキャリルの体温を感じ、潮の香りの中にキャリルの匂いが混じるのを感じた。吐息とともに紡がれた声を、耳元で聴いた。
ずっとトモダチだからね。
囁きを興一の耳朶の奥に残して、キャリルは身を離した。そのまま走り去って行く背中が、シグナのハッチの中に消える。
シグナが変形する。
白い騎士のようだった機体が、翼ある船となって浮き上がる。
「キャリルーっ!」
もはやどんな言葉も聞こえまいとわかっていながら、それでも興一は声を限りに彼女の名を呼んだ。
「元気でな――――っ!!」
シグナのアフターバーナーに光が灯り、船影がぐんぐんと駆け上がってゆく。
遠ざかるその光が、興一には、新しい星のように見えた。