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会誌第七号

 朝食を終えたメンバーは、昨日真浩改造計画が実行されたゲストルームに移動した。


「では、まず初日の体育祭についてだ。無知なメンバーも混ざっているからな、体育祭の大まかな内容について説明する」

「よろしくお願いします」


 チラリと聖司に視線を向けられた真浩は急いで頭を下げた。その様子に満足そうに微笑むと、聖司による体育祭の概要説明が始まった。


「まず、体育祭は四つの寮の対抗試合だ。それぞれ、黒龍、青龍、白龍、赤龍にチーム分けされ、各色をチームカラーとして戦う。分け方は一般の生徒が生活するA棟と俺の住む北棟が黒龍、B棟と大徳寺たちの住む東棟が青龍、C棟と一条たちの住む西棟が白龍、D棟と亜門たちの住む南棟が赤龍だ。ここまでは理解できたか?」

「はい」


 聖司の言葉を必死に書き取りながら真浩が返事をした。


「各寮の大将は、俺、亜門、大徳寺、一条が務める」


 真浩は書き取る手を止めてこっそり紅と英を見た。聖司と亜門はともかく、紅と英が体育祭の大将を務められるとはとても思えない。


「種目については例年おこなっているものでいくことにする。これに関しては、俺たちではなく体育委員が動くことになる。今年も頼むぞ、鷹司」

「はい」


 聖司に名前を呼ばれ、祥一郎が当然のようにうなずいた。


「体育祭についてはこのくらいだ。細かいことはおいおい知っていけばいいだろう。四寮対抗の試合だからな。体育祭に関して生徒会が全員で話し合うことはあまりない」


 手に持っていた資料を軽く確認し、聖司がメンバーを見まわした。


「誰か質問は?」


 手は挙がらず聖司は一つうなずいた。


「よし、体育祭についてはこれでいいな。ああ、奥村。黒龍の副将をしてもらうからそのつもりでいろよ」

「え?」

「おお~とうとう黒龍にも副将誕生だね~」


 聖司の言葉に驚きすぎて声が出ない真浩の肩を、拓海が元気良く叩いた。


「ふ、副将って何ですか!?」


 目を白黒させる真浩に亜門が笑って答えた。


「副将っていうのは大将の補佐役みたいなものだよ。ちなみに、ヒカリと拓海と祥一郎もそれぞれのチームの副将だよ」


 面白そうに真浩を見ながら亜門が説明した。真浩は聖司の隣でチームの先頭に立つ自分を想像し、目の前が真っ暗になった。


 そんな真浩をよそに、聖司の話しは文化祭へと移る。


「さて、問題は文化祭だ。恒例のアレが今年もある」


 納得している様子の周りと違い、やっと現実に戻ってきた真浩は首をひねった。


「あの……アレって何ですか?」


 僅かに嫌な予感がしたが、一応聞いてみる。


「アレとは、生徒会恒例、文化祭での劇の上演だ」


 意外にもまともな答えが返ってきたことに真浩は少なからず安堵した。聖司の、次の言葉を聞くまでは。


「ただし、恋愛ものに限る」


 真浩は自分の意識が遠のくのを感じた。意図が全く分からない。


「なんで恋愛ものなんですか?男子校なのに……あえて恋愛ものをやる意味が……」

「これは俺たちが決めたことではない。学園の生徒会が代々おこなってきた恒例行事だ。ちなみに、これを決めたのも我らが紫龍生徒会長だ」


 さも得意げに話す聖司を見ながら、真浩は紫龍と呼ばれる人物について考えた。とても偉大な人物かと思っていたが、意外とそうでもないのかもしれない。


「まあ、恋愛ものとは言っても、童話をもとにする劇だから」


 話しを聞いていた亜門が衝撃を受けている真浩に話しかける。


「さすがに、僕たちも濃厚なラブストーリーをやろうとは思っていないよ。いわば、生徒会が親しみやすい集団であることを、アピールする一種のパフォーマンスだからね」


 それにしても、真浩の恋愛ものをやる意味があるのかという問いは消えない。


「去年は何を上演したんですか?」


 このメンバーでの恋愛ものということでいやな予感しかしない真浩だが、興味深くもあり聞いてみることにした。


「去年は、シンデレラだ」


 真浩は、信じられない言葉を耳にして一瞬凍りついた。これほどシンデレラという単語が似合わない人間は少ないだろうと真浩は確信した。


「ヒカリンがシンデレラで~、かいちょ~が王子だったよね~」

「あ、その人選はなんとなくわかります」

「でしょ~、んで、俺が魔法使いで~モン先輩が継母~」

「……それは……楽しそうな人選ですね…」


 真浩は後半の配役に、素直に納得することができなかった。適当な魔法をかける魔法使い、嬉々としてシンデレラを精神的に追い詰める継母。どちらも想像すると、昨年その場にいなかったことを心から嬉しく思う。


「大変だったのが他の三人だよ~。ショウちゃんとクレ先輩は話さないし、ハナ先輩は劇の途中で寝ちゃうんだもん~」


 困り顔で話す拓海に、真浩はその部分にだけ多少同情した。下手をすればセリフさえ覚えていなかった可能性もある。


「さ~て、今年はどうなるかな~」


 拓海は困り顔を一変させ、今度は楽しそうに周りの様子をうかがっている。すると、突然ヒカリが手を挙げた。


「は~い! 今年もお姫様が登場するのがいい!」


 意気揚々と発言したヒカリにその場の全員の視線が集まった。


「あたしとしては~、眠れる森の美女がいい!」


 ニコニコと嬉しそうにしているヒカリに、いつものごとく拓海が茶々を入れた。


「それ去年とあんまり変わんないじゃ~ん」

「いいのよ! あたしは、お姫様やりたいんだから! あんたは悪い魔法使いでもしてれば!」

「え~……俺、別に魔法使い好きじゃないんだけど~」


 ヒカリの提案に拓海は渋い顔をする。そんな二人のやりとりをしばし黙って聞いていた聖司が発言した。


「別に、何でもいいんだが……今年は、聖アンと合同文化祭だということを忘れるなよ」


 それまで楽しそうにしていたヒカリが急に押し黙って聖司を見た。


「聖アンと合同なら、ヒカリがお姫様をやるのはちょっと難しいかもね」


 急にテンションの下がったヒカリを見ながら亜門が苦笑した。


「男のくせに姫役など。その考えがそもそも間違いだ」


 ソファーにもたれて沈黙をまもっていた祥一郎までが冷たく言い放つ。周りの言葉にだんだんヒカリの瞳に涙がたまっていくのを真浩は見た。なんとなく放っておけなくなり、できるだけ優しく声をかけてみた。


「あ、あの……俺はいいと思いますよ」


 正直何でもいいという言葉は呑み込み、真浩はこっそりヒカリに囁いた。ヒカリは真浩の囁きに少し驚いた顔をした後、「雑用くんのくせに」とだけ言ってそっぽを向いてしまった。真浩は何か余計なことを言ってしまったのかとも思ったがどうしようもない。


 場が落ち着いたのを見計らい、聖司が再度文化祭について話し始めた。


「まあ、劇の演目はこちらでいくつか案を出す形でいいだろう。一人一つずつ思いついた童話を言え。では、亜門から」


 聖司の言葉に紅が筆記用具を用意し、記録の体制に入った。ただし、左手には棒付きキャンディーが握られている。名指しされた亜門は楽しげに考えながら答えた。


「う~ん、そうだね~親指姫とかどうかな?あれ、モグラやヒキガエルが出るでしょ? それを誰がするのか見ものじゃない?」


 クスクスとさも楽しそうに笑いながら亜門が提案した。おそらく、亜門自身はモグラやヒキガエル役になることはなく、哀れな役者を楽しげに見つめていることだろう。真浩はなんとなくその役が自分にまわってきそうで内心冷や汗をかいた。


「……まあ、いいだろう。次、京華院」


 聖司はさりげなく亜門から目をそらしながら話しを拓海にふった。


「え~俺は~シンデレラ~」

「それは去年やっただろ」

「いやいや、原作のやつ」


 ニヤニヤとする拓海に、その場の全員はなんとなくいやな予感がした。


「継母殺しちゃったり、姉の足「却下だ!」」


 拓海の言葉を聖司が遮った。舞台でそんな惨劇がおきれば劇どころではない。生徒会の親しみやすさが上がるどころか全校生徒を震え上がらせかねない。しかし、当の拓海は周りの雰囲気を気にすることなく楽しそうにしている。

 

 気を取り直すように、聖司が次の人物を指名した。


「次、鷹司」


 全員が視線を向けると、祥一郎はしばらく考えて答えた。


「去年も言いましたが、恋愛ものの童話に心当たりはありません」


 その場が静まりかえる。それでも、聖司は食い下がった。


「だが、何かあるだろう」

「いえ、結構なので次にいってください。自分は会長の言葉に従いますから」


 それだけ言うと、祥一郎はまた黙ってしまった。しばらく様子をうかがっていた聖司であったが、見込みがないと判断したのは小さくため息をついた。


 一連の様子を見ていた真浩は、なんとなくこのメンバーのこれまでの会議の様子が想像できた。おそらく昨年もこのような感じで、まともな意見がほとんど出なかったのであろう。真浩の予想が正しければ、紅と英の意見はなく次は自分の順番となるだろう。


「大徳寺……と一条はいいだろう。次、奥村」


 予想通りの展開に真浩は反射的に顔をあげた。聖司と目が合うと、心なしか期待の籠った眼差しで見られているように感じた。


「えっと、かぐや姫とかどうでしょう?」


 恐る恐る答えると、聖司が思案顔の後周りを見回した。


「かぐや姫か、うん。みんなはどう思う?」

「僕は賛成だよ」

「さ~んせ~い」

「いいんじゃないですか~?」

「この場の意見に従います」

「……いいと……思う……」

「zzz……」


 約一名を除き、テンションに差はあれど概ね全員が賛成した。


「では、こちらの案はかぐや姫ということにする。あとは、聖アンの意見を聞いて決定することとする」


 メンバーがまばらな拍手をして決定した。


 その後は学園祭の細かな予算案や、当日の設備などの詳細が話し合われた。劇の内容を決めるた時に見られたのんびりとした様子と違い、てきぱきと作業をする生徒会メンバーに真浩は置いていかれまいと必死に話しを聞き続けた。やっと、大体の計画のめどがたったころには、窓の外は日が沈み夜の闇が広がっていた。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 書き溜めていた話をひとまず投稿させていただきます。


 なかなか最近は時間がとれず、投稿頻度が遅くなっておりますが今後ともお付き合いいただきますようよろしくお願いします。

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