会誌第五号
食堂に着くと、先に着いたメンバーが既に席についていた。真浩と英が入ってくると、皆が一斉に視線を向ける。テーブルの様子から、まだ食事をはじめてはいなかったようだ。
「意外と速かったな」
「ヒロちゃん優秀~」
聖司が真浩と英の方を見てニヤリと笑った。拓海に関しては大きく手を振っている。真浩はそんな二人の様子に溜息をついた。
「はあ~あの、そう言うことはいいんで、この人なんとかしてください」
真浩の腰には英がいまだ抱きついて離れない。
「一条、そのくらいにしておけ」
「はーい」
やっと離れた英に、真浩がホッと肩をなでおろす。全員が席に着くと料理が運ばれてきた。その場の全員が料理に手をつけ始めたころ、亜門がおもむろに話し始めた。
「そう言えば僕たち、奥村くんにちゃんと自己紹介してないよね?」
「あ、え、はい」
急に話を振られた真浩は食べていた料理を急いで呑み込み返事をした。
「それじゃあ、せっかくだし自己紹介といこうか。やっぱり最初は、我らが生徒会長からだよね」
そう言いながら亜門が聖司を見た。聖司は自分が指名されるのがわかっていたように、優雅にフォークとナイフを置くと真浩の方を向いた。真浩も食事を中断して聖司と向き合う。他の生徒会メンバーも各々聞き耳を立てているようだ。
「御門聖司。龍徳学園三年A組、生徒会長。学園は俺の国と言ってもいい。わからないことがあれば聞くといい。ただし、無意味な質問はするな。覚悟して来い。無能な奴は不要だ。以上」
「はい……よろしくお願いします」
いつもの不敵な笑みを浮かべながら聖司が真浩を見て言った。そんな聖司の様子に、真浩は乾いた笑みを浮かべながら返す。
「じゃあ、次は僕かな。近衛亜門。龍徳学園三年D組、生徒会副会長。価値のないものには興味がないから、そのつもりでね。よろしく」
「……よろしくお願いします」
亜門の表情は終始笑顔だが、その口から発せられる言葉には何かしら毒がある。真浩は顔をひきつらせながらあいさつした。
「じゃあ、次は英だね」
「ん? 俺? 一条英。龍徳学園三年C組、会計だよ。好きなものは可愛い生き物と寝ること。ちなみに、子ウサギちゃんのことはロックオンしちゃったから!」
「子ウサギって……まさか、俺ですか?」
「うん、他に誰がいるの?」
「……はあ~……」
英は星の跳びそうなウインクをしながら真浩を見た。その様子に、真浩はどう対応してよいのかわからず言葉が続かなかった。
「はいはい、次は紅かな。紅?」
皆が亜門の見た方に目を向けると、一心不乱に料理を食べている紅の姿があった。
「ああ、そっか。ごめんね、奥村くん。紅は食べることとなると周りが見えなくなるから。代わりに僕が紹介するよ。大徳寺紅。三年B組、書記ってところかな」
「あの……」
「まあ、次にいっちゃおうか。次、ヒカリ」
「え~あたし~? 鳳ヒカリ。二年D組、文化委員。あたしに迷惑かけないで~それだけ~」
「あ、はい……気をつけます」
ヒカリは自分の髪の毛をいじりながら、真浩を見ることなく自己紹介を終えた。
「次は、正一郎」
「……鷹司祥一郎。龍徳学園二年B組、体育委員長」
「……あ、えっと、よろしくお願いします」
必要最低限のことだけを言って黙ってしまった祥一郎に、真浩は戸惑いながら返事をした。
「最後は、拓海だね」
「待ってました~。京華院拓海。龍徳学園二年B組、中央委員長で~す。好きなものは、女の子。言ってくれたら、良い子紹介するよ~」
「はあ、いえ、結構です」
「え~ざ~んねん、キャハハ」
全く残念そうではない拓海が、笑いながら自己紹介を終えた。真浩にとって、拓海は理解しがたい相手として認識された。
「よし、これで生徒会メンバーの自己紹介は終わったね。次は奥村くんに自己紹介してもらおうか」
ニコニコしながら亜門が真浩を見た。亜門の言葉に、紅を除いた他のメンバーも真浩の方に視線を向けた。
「あ、はい。奥村真浩。一年A組です。梅園高校から転校してきました。以後、よろしくお願いします」
周りからの視線を感じながら、真浩はなんとか自己紹介を終えた。すると、その様子を見ていた拓海がいきなり手をあげて言った。
「は~い、しっつも~ん! ヒロちゃんて、前の学校でどんなだったの~?」
「それは、僕も興味があるね」
「お前の過去か、悪くない、話してみろ」
「知りたい知りたい!子ウサギちゃんの知られざる過去」
「え……どんなと言われても……」
拓海の質問を聞いて、聖司と亜門と英も興味深そうにしている。心なしかヒカリと祥一郎も真浩に関心を向けているようだ。質問などされるとは思っていなかった真浩は、急いで過去の記憶をさかのぼった。
「特に、面白味のあるものじゃないですよ。成績も運動も、平均的だったと思いますし……。ただ、あまり、周りの人には好かれてなかったかも……」
「なぜそう思う」
少し伏し目がちに話す真浩に聖司が静かに問いかけた。
「それは……その……俺が、学校に行くと、悲鳴をあげて離れていかれたり、挨拶しても、目をそらされてそのまま走っていかれたりで。ほとんど女子だったんですけど、ときどき男子もそんな感じで……。あとは、身に覚えもないのに、彼女をとったという理由で体育館裏に呼び出されたり……」
「「「「「「…………」」」」」」
「嫌われているらしいということを自覚した後は、笑顔でいることを心がけたんですけど、そうしたら余計に皆あまり話してくれなくなって……。話してても、いっこうに目が合わないし……」
あまり思い出したくない過去を話し、恐る恐る顔をあげると、生徒会のメンバーが唖然としながら真浩を見ていた。祥一郎までが難しそうな顔で真浩を見ている。
「……ヒロちゃん……それ、マジで言ってる?」
珍しく真面目な顔をして、恐る恐る話しかけてくる拓海に、真浩は疑問を感じながらうなずいた。
「……うっわ~こりゃ、天然たらしだよ……」
「え? なんですか? それ」
聞き慣れない言葉に真浩は首をかしげる。
「失念してたけど、奥村くんなんだかんだ言って髪染める程度で、僕たちの中でも見劣りしないレベルに達してるもんね」
亜門は少し困ったように笑いながらチラリと真浩を見た。
「俺は、子ウサギちゃんの可愛さに最初から気づいてたよ!」
英が興奮したように真浩の可愛さについて力説し始めた。
「自らの完璧さに、客観的な判断を欠いていたらしい。失態だな」
聖司が腕を組みながら、少し眉間にしわを寄せて真浩を見る。
「あの、皆さんが言っていることがよくわからないんですが」
様子の違う生徒会メンバーに、真浩は戸惑いながら質問した。すると、聖司がおもむろに真浩をジッと見つめはじめた。生徒会メンバーの中でも特に整った容姿の聖司に見つめられ、目をそらしたくなる自分を必死に留めながら、真浩は聖司の瞳を見返した。すると、聖司がにやりと笑い話し始めた。
「今、おまえどう思った?」
「え?えっと、あまりにもジッと見られていたので……目をそらしたくなりました。先輩の顔が……その……とても整ってますし……」
言ってしまってから、ものすごく恥かしいことを言っているような気がして、真浩は視線をテーブルに落とした。心なしか頬が熱い気がする。
「………まあ、おまえが前の学校で体験したのはこういうことだ」
聖司は真浩から不意に目をそらし、少し間をおいた後そう言った。その言葉に、真浩はもう一度視線をあげる。
「つまり、その前の学校の生徒たちは、今のおまえの状態だったということだ」
「今の、俺?」
「そうだ。今俺に見つめられたとき、目をそらしたくなっただろ? そう言うことだよ」
「……あ、そういうことだったんですか……俺、友達になりたくて人の顔を一生懸命見てしまってたんですね。確かに、この学園に来てからは気楽に話せるからジッと顔を見ることはなかったです」
一つの解決策を見つけた真浩は、嬉しそうに聖司を見た。しかし、聖司の表情は晴れない。
「あの……俺、間違ったこと言いましたか?」
真浩が不安になって聖司に聞くと、聖司は大きなため息をついた。
「はあ~、いや、まあ、それでいい。間違ってはいないからな」
「えっと……」
「この学園の生徒なら、俺たちを見ているから大丈夫だろ。おまえは、今までどおりにしておけばいい」
「あ……はい」
呆れたような聖司を気にしつつ真浩はうなずいた。
それからは各々自由に会話を楽しみながら食事を終えたのであった。
全員が食べ終わったところでまたしても亜門が話し始めた。
「さて、寝る場所を決めないといけないね。ちなみに、僕以外は基本二人で一つのベッドを使ってもらうからね。まあ、キングサイズだしなんとかなるよね」
その言葉に拓海が反応する。
「誰と誰が一緒に寝るの?」
「辰と雛で一つを使ってもらおうと思ってるんだけど、拓海と紅のところにはヒカリを。聖司には奥村くんと寝てもらおうと思ってるからそのつもりで」
ニッコリと微笑む亜門を見て、真浩は血の気がどんどん引いていくのを感じた。ギギギっと音がなるように首を回し、聖司を見るといつもの不敵な笑みがそこにあった。
「一定以上俺の領域に侵入したてきたら、どうなるかわかるな?」
聖司の言葉に真浩は勢いよくうなずいた。今夜は眠れそうにない、とひそかに心の中でつぶやく。
「じゃあ、寝る支度をして各々寝室に行こうか。けっこう時間も遅くなってしまったからね」
亜門の言葉に真浩が食堂に置かれているアンティークの時計を見ると、針は夜の九時を指していた。
「明日は食堂で学園祭について会議をする。皆、八時までには食堂に集まるように。では、解散」
聖司の言葉を合図に、メンバーは各々散らばっていった。
部屋に備え付けられたシャワーを浴び、用意された軽装に着替え、真浩が寝室に向かうと、そこにはノートパソコンと向き合う聖司の姿があった。近眼なのか、先ほどまではしていなかった眼鏡をかけて作業をしている。
「会長はまだお休みにならないんですか?」
一人だけ蒲団に入ることに気が引けた真浩が、おずおずと問いかけた。
「気にせず寝ろ。明日起きられなくても知らんぞ」
聖司は、真浩に視線を向けることなく答えた。しばらく聖司を見つめてから、真浩はいそいそと蒲団にもぐる。しかし、その視線は聖司に向けられたままだ。
「あの~」
「なんだ」
真浩が話しかけたことで、聖司が作業を中断する。怒られるのではないかと、少し身を縮めていた真浩の考えに反して、聖司の表情は穏やかだ。
「あの……会長はなぜ雛をもたないんですか?」
「……」
「会長が、声をかければ断る人なんていないのでは?」
真浩が言い終ると、聖司の眉間に微かなしわが寄った。
「おまえ、この学園の生徒会長が誰にでも務まると思っているのか?」
「え?」
「俺の雛になるということは、次代の生徒会長になることとほぼ同義だ」
そんな仕組みになっていたのかと真浩は軽く驚いた。
「この学園の生徒会長になるということは、生半可なことではない。つまり、誰にでもこなせるわけではないということだ」
聖司はゆっくりと瞬いて、まっすぐに真浩を見ながら続ける。
「全ての生徒の先頭に立つにふさわしく、この学園のために尽力できる者でなければならない。それが理由だ」
静かな、しかし、どこか熱のこもった聖司の視線に、真浩は言いようのない情熱を感じてドキリとした。
「会長は……この学園を大切に思ってるんですね」
真浩が硬い表情で答えると、聖司はいつもの不敵な笑みを作って言った。
「まあ、俺ほどの逸材はそうそういないということだ。まったく、嘆かわしいことだろう?完璧すぎるというのも、困りものだな」
ニヤリと微笑む聖司を見て、真浩は聖司の性格を思い出し顔をひきつらせた。おそらく後半の言葉も、まぎれもない理由の一つであろうと確信する。
「そろそろ寝ろ。明日も早いぞ」
聖司は話しは終わったとばかりに作業を再開した。
「あの……おやすみなさい」
「ああ」
黙って寝てしまうのも悪いと思い、真浩は聖司に軽く声をかけて目を閉じた。部屋に小さく響くタイピング音を聞きながら、真浩はゆっくりと眠りについた。
真っ暗な部屋の廊下を、迷うことなく進む人影が一つ。その人影は少しだけ開かれているドアの前に立ち、そっと押し開いた。部屋の明りは消されているが、月の光が差し込み十分な明るさを保っている。するりと部屋に入ると、人影は静かにドアを閉め、窓枠に腰かけて月を眺めている部屋の主に近づいた。
「人の部屋で深夜徘徊?」
微笑みながら、部屋の主、亜門は近づいてくる聖司を振り返った。投げられた質問に答えず、聖司は近くに置かれた椅子に腰かけた。その様子を、亜門は困ったように微笑みながら見つめていた。
「奥村くんはどう? 寝ちゃった?」
「ああ」
「彼、なんか一生懸命だよね。ちょっとかわいいな~」
楽しそうな亜門に対して、聖司は無言で返した。
「ねえ、聖司はなんで彼を生徒会に入れたの?」
いたずらっぽく笑いながら、亜門が聖司にまた問いかけた。
「こちらのことを知られたからな。手元に置いておくにこしたことはない」
「うそ、それだけじゃないくせに」
「……学園祭が近い。人手が多いにこしたことはない」
「それも、うそ」
ピクリと眉を跳ねさせて聖司が亜門を見ると、いつもの穏やかな瞳ではない真剣な眼差しがそこにあった。
「ホントは奥村くんを」
言いかけた亜門の言葉をさえぎるように、椅子から立ち上がった聖司は亜門を見ることなく扉に向かった。その様子に少し驚いた後、亜門はまた困ったような笑顔を作った。
「ごめん。余計なこと言っちゃね。だめだな~やっぱり…」
亜門が、窓ガラスにコツリと額を当てながらつぶやいた。
「……早く寝ろ」
亜門の様子をチラリと見た後、聖司はそれだけ言い残して部屋を出て行った。
月明かりが静かに照らす中、一人部屋に残された亜門は、知らず小さなため息をついた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
やっと主人公の学校生活二日目が終了しました。
未だに、安定しない文章ですが、今後ともお付き合いいただけると幸いです。