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会誌第四号

亜門の部屋についてからしばらくたった。来た時にはまだかすかに明るかった窓の外は、すっかり日が暮れてしまっている。


「よ~し、かんせ~い」

「うん、なかなかいいんじゃない?」

「悪くはない。俺には劣るが」

「ちょっとちょっと! 雑用くんをかまいすぎ~! あたしのデザインした制服もみてよ~!」


 満足げに笑う拓海の両隣りから、聖司と亜門が真浩を見て微笑んだ。その後ろでは、ヒカリが制服のデザイン案が書かれた紙をもって、不機嫌そうに文句を言っている。


「頼まれていたピアスだ」

「せんきゅ~んじゃ、ヒロちゃん、ピアスつけるよ~」

「え? もう、できたんですか?」

「なんだ。できてたら悪いのか?」


 姿の見えなかった祥一郎がピアスを片手にやってきた。準備の速さに真浩が驚くと、祥一郎は鋭い視線で真浩を睨んだ。どうやら、祥一郎にとって今回の計画を手伝うことは、あまり気乗りのすることではないらしい。


「あれ? ヒロちゃん右耳ピアス開けてないの?」

「あ、はい。左だけです」

「へ~ふ~ん、じゃ、右はまだ穴開けたことないんだ~処女耳なんだ~」

「……はあ……まあ」


 ニヤニヤと見てくる拓海に真浩は危機感を覚えた。


「あ、あの!」

「皆~! ゲームしま~す!」


 話しかけようとした真浩をよそに、拓海はぐるりと周りを見回しながら言った。


「これから、ヒロちゃんのピアス穴を開ける人をくじ引きで決めま~す!」

「えーーー!」


 止めようとする真浩を気にせず、拓海はいそいそと紙でくじを作り始めた。


「面白そうじゃないか」

「僕も参加していいの?」

「ふふ、あたしに当たったら、一気に十個くらい開けてあげる」

「ひっ」


 拓海の呼び掛けに聖司と亜門とヒカリがぞろぞろと拓海の周りに集まった。


「で~きた」

「ホントにやるんですか?」

「も~ちろん。ほろほら~ショウちゃんとクレ先輩も~」


 不安そうな真浩をよそに、拓海が紅とめんどくさそうにしている祥一郎を呼び、英以外のメンバーが全員そろった。


「じゃあ、一人一つずつくじを引いてくださ~い。星のマークが書いてあった人が当たりで~す」


 くじを全員が引き、中身を確認し始めた。


「星ってこれか?」


 そう言ってくじを拓海に見せたのは聖司である。


「かいちょ~大当たり~。そんなかいちょう~には~……じゃ~ん、ピアッサー!」


 当たりを引いた聖司に、拓海が持っていたピアッサーを手渡す。


「かいちょ~、ズバッといっちゃってください」

「ふん」


 少し芝居がかった様子で、拓海が真浩の耳を指した。聖司はチラリとピアッサーを見た後、それを真浩の耳にあてた。


「ああ、そうだ。一つ言っておくことがある」

「なんですか?」


 人にピアス穴を開けられるという状況に、少なからず恐怖を感じていた真浩は、恐る恐る聖司に答えた。


「俺は、人のピアスを開けた経験などない」

「は!?」

「では、開けるか」

「え、ちょっと、待!っ!」


 パチンという音とともにかすかな痛みが走り、真浩はギュッと目をつむった。すかさず、拓海が来て真浩の耳の消毒をおこなう。


「キャハハ、ヒロちゃん今の気分は~」


 拓海が、笑いながら真浩の顔を覗きこむ。


「はい……もう……いっぱいいっぱいです」


 ゆっくりと目を開けた真浩が、少し青ざめながら答える。


「俺に開けてもらえたんだ、光栄に思えよ」

「そうだよ、ヒロちゃん。ファンの子が聞いたら、ピアス引きちぎられちゃうかも」

「な!」


 満足げな聖司の横で、拓海が言った言葉に真浩は思わず自分の耳を押さえた。


「よ~し、ピアスもついたことだし、今日の作業はいったん終わり~。ヒロちゃんも自分の姿見たい~?」

「はい……」

「んじゃ、はい」


 拓海から渡された鏡をもち真浩は恐る恐る自分の姿を見た。


「うわー……」

「どうどう? ヒロちゃん」

「いや、これ……俺ですか?」


 真浩は、鏡に映った姿に言葉をなくした。髪は銀色になり、右サイドだけヘアピンでとめられている。耳には、最初からあいていた左耳のピアスに加え、右耳にもピアスがつけられていた。


「よく似合ってるよ」

「そ、そうですか?」

「奥村くん、元が悪くないし、それなら俺たちの中にいても十分やっていけるよ」


 後ろから真浩のもっている鏡を覗きこみ、亜門が言った。褒められるとは思っていなかった真浩は、少し照れながらそれにこたえる。そんな真浩の近くに、今まで様子を見ているだけだった紅が近寄ってきた。


「……人を引き付ける……そっちの方が素敵…」

「えっと……ありがとうございます」


 真浩がお礼を言うと、紅はかすかに微笑んだ後、また菓子をほおばり始めた。


「紅が褒めることなんてなかなかないよ。よかったね」

「そうなんですか?」

「うん、まず彼は話さない」


 真浩は昨日亮介に聞いた、誰も声を聞いたことがないという言葉を思い出した。その部分は噂通りなのだと納得する。


「あとは、制服だね」

「鳳のデザインを見たが、なかなかよさそうだ」

「でっしょ~」


 聖司に褒められてヒカリはご満悦だ。


「じゃあ、ひと段落したところで、みんな、食事にしよう」


 亜門の提案により、全員で食堂に向かうこととなった。


 しかし、真浩が一歩踏み出そうとすると、聖司の腕が伸びてきて後ろから制服の襟をつかまれた。


「ぐっ!」

「お前には仕事があるだろ」

「ゲホッゲホッ、な、なんですか?」


 真浩と聖司の様子に、食堂に行こうとしていた生徒会のメンバーが振り返る。


「一条のこと、お前に任せるって言ったよな?」

「一条? あ、会計の…… 」


 真浩は思い出し、ソファーの上に寝かされている英を見た。


「あいつは、お前が連れてこい」

「え!」

「俺たちは先に行っているからな」

「ちょっと、待ってください!」

「一条と一緒でないとお前の食事は抜きだ。わかったな」


 聖司は、それだけ言い残すと、さっさと部屋を出ていってしまった。


「じゃあ、奥村くんがんばってね。あ、そうだ、これ英の眼鏡だからよろしくね」

「え? はあ」


 亜門は真浩に英の眼鏡を手渡し、手をひらひらと振って出ていった。


「ヒロちゃんがこれなかったら、俺がヒロちゃんの分も食べてあげるからね~」

「言っておくが、一条さんは簡単には起きんぞ」

「頑張って……」

「さっそく雑用くんね」


 他のメンバーも、それだけを言い残し去って行った。


 一人部屋に残された真浩は途方にくれ、ひとまず英を起こすことを試みた。


「あの~おきてくださ~い」

「……」

「あの~すみませ~ん」

「……」


 何度声をかけても反応のない英に、真浩は泣きたい気持ちになった。


「ええい、こうなったら強行手段!」


 真浩は腕まくりをし、英を盛大にゆすった。


「起きてください!」

「う、う~ん、なに~」


 やっと英、薄く目を開いた。


「あの、食事なんで起きてください」

「だれ?」

「あ、えっと……新しく生徒会に入った奥村です」


 正しくは強制的に入れられたのだという言葉を、今は必至で呑み込む。


「めがね……」

「ああ、はい」


 差し出された英の手に、真浩は亜門から預かった眼鏡を急いで手渡した。


「どうも」


 軽く礼を言うと、英はうっとおしそうに眼鏡をかけて真浩を見た。そして、数秒真浩を見た後、目を見開いた。


「な……」

「な?」


 英の様子に疑問を感じた真浩は首をひねった。すると、英の表情が満面の笑みに変わり、いきなりガバッと真浩に抱きついた。


「ぐえっ」

「なにこれ、かわいい! なにこの生き物!」

「く、苦しい」


 英は真浩をギュウギュウと抱きしめたまま頬ずりを始めた。


「ちょ、ちょっと!はなしてくーだーさーいー」


 真浩はなんとか腕の中から抜け出そうとするが、いっこうに離れる気配がない。今まで寝ているだけであったとは思えない力強さだ。


「あ、あの、食事! 食事に行かないと!」


 真浩がそう言うと、英はピタリと動きを止めた。そのすきに、真浩はようやく英の腕から逃れる。


「食事?」

「はい、皆さんはもう行ってしまいましたよ」

「そういえば、ここ、俺の部屋じゃない」


 部屋の中をきょろきょろと見回し始めた英に、げんなりしながら真浩は立ちあがった。


「ここは、副会長の部屋です」

「近衛くんの部屋?」

「はい」

「へーそうなんだ」


 このままではらちがあかないと思い、真浩はニコニコと屈託なく笑う英をソファーから立ちあがらせた。


「じゃあ、食堂に行きましょう」

「うん」

「な、ちょっと、なんで抱きつくんですか!」

「えーなんでって……かわいいから」


 ニコニコと嬉しそうに腰に抱きつく英をつれて、真浩は生徒会寮の食堂に向かった。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。

話が、かなりのんびりと進んでいますが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです。

 文章は、まだまだですが、今後ともよろしくお願いします。

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