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会誌第三号

 聖司が戻り帰り支度を終えた一行は、生徒会寮にある亜門の部屋にむかった。未だに眠ったままの英は祥一郎が背負っていくこととなった。


「あの~、俺、寮監に連絡しないと……」

「それなら、さっきしておいた」

「は?」

「全く、頭の弱いやつだな。お前の寮の寮監には、先ほど俺が連絡をしておいたと言っている」


 その行動の速さに、真浩は感心するやら末恐ろしいやらで、呆気にとられて聖司を見た。


「じゃあ、せっかくだから泊って行きなよ。今日は金曜日だから、明日、明後日と休日だしちょうどいいじゃない」

「え、いいんですか?」

「せっかく可愛い後輩が入ったんだ、部屋に招待するくらいなんてことないよ」


 亜門が、自分に気を使うなど信じられない真浩は、この招待の裏に何か意図があるのではないかと勘ぐってしまう。


「お前がそう言うなら泊らせてもらおう」


 そう言うと、聖司は、後ろを歩いているメンバーに宿泊の件を伝えた。ヒカリと拓海がそのことに大喜びしたのは言うまでもない。


「あの、生徒会寮ってどんな……」

「ん? ああ、そろそろ見えてくるころだよ。ほら、あそこ」


 亜門が指さした先を真浩が見ると、正に邸と表現するにふさわしい建物が建っていた。真浩が生活している学生寮も大きいが、ここはまた格が違うといった様子だ。


「これ、ホントに寮ですか……」

「ふふ、ここに住めるのは生徒会のメンバーだけなんだよ。ちなみに、寮は北棟、東棟、西棟、南棟に分けられてて、北棟が四階建てなのを除いて他三棟は三階建て。それぞれの棟のワンフロアを一人で使えるんだ」


 邸の大きさに驚いていた真浩は、亜門の言葉でさらに驚いた。


「ワンフロアって……」

「言っておくが、お前は条件を満たしていないからここには住めないぞ。まあ、お前の頑張り次第では、いつか住めることになるかもしれんがな」

「……はい……あの……がんばります」


 聖司が腕組みをしながら人の悪い笑みを真浩に向ける。真浩はむしろ入れと言われても、こんな広いところは落ち着かないだろうと思った。


 そんな話をしているうちに、一行は生徒会寮の門前に到着する。


「ようこそ、生徒会寮通称四龍殿へ」


 生徒会のメンバーが全員そろったところで、聖司が帽子をとるようなしぐさをしながら、改まって真浩に挨拶をした。不敵な笑みを浮かべる聖司の後ろに視線を向けると寮の荘厳な扉が見えた。扉には絡み合った四頭の龍が彫られている。それぞれの瞳には、黒、赤、青、白のガラスがはめ込まれていた。


「うちの生徒会はこの寮の名前と外観から四龍会とも呼ばれてるんだよ。ずっと前の先輩が学園の制度に甘んじるのではなく、生徒自らが学ぶ環境を作れるようにって願いのもと、独立した生徒組織を作ったのが今の生徒会なんだ」


 穏やかに微笑みながら亜門が真浩に説明した。


「だから生徒会と学校のシンボルマークは違うのよ。学校のマークは金の龍だけど、うちのマークは四頭の龍でしょ?」


 少し得意げに、真浩の横で生徒会のシンボルマークを指しながらヒカリが言った。ヒカリの言葉を聞き、真浩は理事長室にあった学校のシンボルマークを思い出した。


「ちなみに~今の生徒会を作ったときの生徒会長は、その功績から敬意をこめて紫龍って言われてるんだよ~すごいよね~」


 今度はにこにこと寮を見つめている拓海がそう言った。


紫龍(しりゅう)四龍(しりゅう)をかけることで、当時の生徒会長を讃えているといったところだ。どうだ? お前の頭では許容オーバーか?」


 聖司の嫌味を聞き、げんなりしながら真浩が顔を上げると、意外にも熱のこもった瞳で四頭の龍を見る聖司の横顔が目に入った。その様子に周りを見回すと、その場の誰もが四頭の龍をどこか熱っぽく見つめていることに気づく。真浩はつられるようにもう一度、門に刻まれた龍を見たのであった。


迷いなく進むメンバーについて行きながら、真浩たちは亜門の住む南棟へ向かう。生徒会寮の広さは昨日から真浩が寝泊まりしている寮とは比べ物にならない大きさだ。そんな寮内を歩きながら、真浩は近くを歩いていた聖司に尋ねた。


「あの、四つの寮ってどういうふうになっているんですか?」

「なんだ、俺に質問するとはいい度胸だな」

「あ、いえ、すみません」


 ニヤリと笑う聖司に、質問したことを真浩は激しく後悔した。


「まあ、いいだろう。特別に教えてやる」

「はい、あの、ありがとうございます」


 質問一つで寿命の縮む思いをした真浩であった。


「ふん。まず、正面にある北棟は、一階が玄関ホールになっていて、ここから全ての棟に行けるような仕組みになっている。今通っているのは南棟への渡り廊下だが、東と西にも同じような廊下が通っている」

「廊下で繋がってるなんてすごいですね」

「生徒会の人間が、いつでもすぐに直接会えるようにするためだ。食堂は四つの寮の真ん中にあって、そこで生徒会の活動内容について会議をおこなうこともある」

「なんか……さすがとしか……」


 真浩はこの学園にとって生徒会という存在が、いかに大きな役割を果たしているのかが改めてわかった気がした。


「そして、北棟は生徒会長、南棟は副会長、東棟は書記、西棟は会計が管理している。それぞれが最上階に住み、その下二階分を管理者の雛が使うことになっている」


 真浩たちは話しながら、中央にある食堂を抜け、生徒会のメンバーと共に豪華なエレベーターに乗り込んだ。


「雛って、この学園の師弟制度でしたよね」

「そうだ。ちなみに、北棟には俺のみ、南棟には亜門と鳳、東棟には大徳寺と京華院、西棟には一条と鷹司が住んでいる」

「ということは、鳳先輩たちは皆さん雛ということですか?」

「そうだ、少しは理解が早くなったな」


 少し満足そうに聖司が真浩を見る。


「あいつらはいわゆる玉雛だ。まあ、この制度に関しては色々と複雑なこともあるからな、おいおい教えてやる。ほら、着いたぞ」


 聖司が視線を向けた方を真浩が見ると、そこには見事な細工のされた扉があった。


「いいな~あたしもこの部屋にすみた~い」


 部屋に入るとヒカリが中をきょろきょろと見ながら少しふてくされたように言った。


「でた、ヒカリンのいいな~攻撃」

「なによ! 先輩の部屋がうらやましいのは、当たり前でしょ!」


 そのヒカリの様子を拓海がからかう。


「テメエら、うるせえ!」

「「は~い」」


 二人がギャアギャア騒いでいると、祥一郎が一喝しその場に静寂が訪れた。


「ふふ、じゃあひとまずゲストルームで作業をしよう」


 一行が亜門に案内されたのは、いくつかある部屋の中でも大きめの部屋にあたるゲストルームだった。


「ひゃっほ~ヒロちゃん大改造計画開始~!」

「ええっと……やっぱりするんですか?」

「何のために来たと思っているんだ?」


 ここに来ることですっかり忘れていたが、自分の今後がかかっていたことに気がついた真浩は焦りを覚えた。


「あわわ……で、でも、校則が……」

「校則? 誰にものを言っている?」

「……そうでした……」


 学園の頂点にいる聖司に、校則について説くなど無意味なことである。横から亜門も会話に参加する。


「こっちには風紀委員のトップもいるわけだしね」

「でも、髪を染めるだけならまだしも、銀色とか……」

「ふふふ、奥村くんはこの学校に来たばっかりだからね、軽く説明してあげよう」

「……なんですか?」

「つまりね、この学園では成績がそこそこよくて家柄が申し分なければ、特に容姿を注意されることはないんだよ。それが生徒会の人間なら、なおさらね。だから、髪染めてる子とかたくさんいるでしょ?」

「確かに……」


 一般的な学校に比べ、龍徳学園の生徒には髪の色を変えたり、装飾品をつけている生徒が多い。


「それが比較的放任主義な学園の姿勢であり、その容姿を取り締まることができる唯一の存在である風紀委員には、絶大な権力が集まることになるんだよ。だから、風紀委員がなにも言わなければいいってこと」

「風紀委員……」


 真浩は、部屋の中を興味深そうに見ているヒカリに視線を向けた。真浩の容姿に関する提案をしたのはヒカリである。ならば、それはすなわち風紀委員公認と言うことだと考えていいだろう。


「おい、つべこべ言ってないではじめるぞ」

「あ、ちょ、ちょっと!」

「ヒ~ロちゃ~ん、こっちこっち~」


 亜門と真浩が話していると、聖司が近づいてきて真浩の腕をつかんで置かれている椅子のほうに連れていった。椅子の横では、拓海が楽しそうに手招きしている。真浩にはその椅子がさながら処刑台のように感じられた。


「じゃ、いっきま~す」


 拓海の元気な声を合図に、真浩の改造計画がはじまったのであった。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

前回より更に短くなりましたが、長いのも読みにくいのでこのくらいで載せました。

 なかなか話が進みませんが、気長に読んでやっていただけると嬉しいです。

 今後とも、よろしくお願いします。

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