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会誌第二十二号

 晴れ渡る空、そよぐ風。太陽は傾いているものの、それさえも穏やかに感じてしまう。そんな窓の外にちらりと目を向けて、真浩はため息をついた。目の前では、窓の外とは対称的な雰囲気を醸し出している二人の生徒がいた。聖司と百合華である。

 四龍会のみの会議を数日続けた後、聖アンシェル女学院と学園祭の内容調整のため両校の生徒会による会議が四龍殿で行われていた。お互いの学校のみで決められるところはあらかた決めてしまったため、今回は出し物の内容やプログラムの最終調整などが主である。そんな会議において、前回の様子などから想像できていたとはいえ、両校のトップが繰り広げる戦いを両生徒会員はまたかと言った様子で見守っていた。


「ですから、先ほどから申し上げているとおり、花園会は野点のだてを希望していますの。それ以外は認めません」

「こちらも先ほどから再三それでは花がないと申し上げているではありませんか。やはり、ここは我々のドキュメンタリー映画を上映する案の方が妥当でしょう」

「そのようなもの、撮るのにも内容を考えるのにも時間がかかるのではなくて?」

「ならば短編にすれば問題ありませんね」

「浅はかな考えですこと。お話しになりませんわ」


 二人が白熱した議論を交わしているのは学園祭の模擬店についてである。模擬店といっても、何かを売るだけでなくちょっとした出し物のようなものでもかまわない。言い換えれば、出展する団体のセンスと個性が発揮される部分である。その内容について聖司と百合華はかれこれ一時間ほどこの状態を続けていた。

 何度か亜門や淳が止めようとしたが効果はない。他のメンバーに関しては興味がないか口を出せないかのどちらかである。そんな緊迫した状態にやや間延びした声が響いた。


「ねえねえ~、アタシお腹すいちゃう~。もうさ~間とって一年生に訊いてみればいいじゃ~ん。新鮮でさ~いいんじゃないの~」


 発言したのはやや不機嫌そうにしている紫織であった。手持ち無沙汰なのかトレードマークともいえる頭頂部の団子に結われた髪をいじっている。そんな紫織の言葉に、勢いよく聖司が真浩を百合華が美咲を見た。他のメンバーも視線を二人に向けている。全員この状況に飽き飽きしているせいで若干すがるような視線を真浩と美咲は感じた気がした。しかし、話しを振られた一年生二人はたまったものではない。


「ちょ、待ってください! 何で急に俺たちに?」

「そ、そうです、お姉さま。今お二人が議論しておられる内容は、両生徒会が決めた内容ではありませんか」

「それ以上にいい案なんて、急に考えつきませんよ」


 必死に言い募る真浩と美咲であったが、聖司と百合華は紫織の意見にすっかり乗り気で聞く耳をもたない。


「奥村、庶民の視点から柔軟に考えてみろ」

「そうですわ、毎年似通ったことしかしていないからもめるのですわ。ここは少し違った視点から内容を考えてみるのが重要です」

「心配するな。お前たちが各生徒会で考えた案より良いものを提案できるとは思っていない」


 完全に意見を待つ体制に入ってしまった聖司と百合華を前にして、真浩と美咲は非常に焦った。そのためなかなかいい案が思いつかない。そんな二人を見かねて拓海が声をかけた。


「二人が思いつく庶民の出し物を考えてみなよ」


 にっこりと花を飛ばす拓海の言葉をうけて、思いついた内容を真浩と美咲は同時に声に出した。


「執事喫茶」

「メイド喫茶」


 似通った内容だったことに、真浩と美咲は思わず顔を見合わせる。そんな二人の様子にかまわず聖司が質問した。


「なんだ、その執事喫茶とメイド喫茶とは」


 聖司の問いに真浩が答える。


「その二つは、簡単に言うなら執事役やメイド役の人がお客さんにお茶やお菓子を振舞う出し物です」


 真浩の話しをうけて聖司と百合華が顔を見合わせる。


「執事やメイドなどめずらしくないのではなくて? それのいったい何がよろしいの」

「ええ、その意見には同意します。奥村、ちなみにその執事とメイドはどこから連れてくる? 各家から募ってということになるのか」


 心底わからないと言った様子の聖司と百合華に、今度は美咲が答える。


「いえ、違います。主催者が執事やメイドに扮してゲストを楽しませるんです」


 そんな美咲の言葉を聞いた瞬間、聖司と百合華は絶句した。


「なんですって……」

「おい、奥村。それは本当か?」


 真浩は二人の反応を疑問に思いながら首を縦に振った。実際、美咲の説明に間違った部分はなかった。ただし、その出し物の内容を知っている者にとっては、である。信じられないことを聞いたといった様子で聖司と百合華が顔を見合わせる。それぞれの隣に座っていた亜門と淳が苦笑しているところを見ると事態はあまりかんばしくないらしい。

 不安に思った真浩と美咲が、聖司と百合華の様子をうかがっていると二人が同時に口を開いた。


「ありえませんわ!」

「ありえない!」


 心底信じられないといった様子で聖司と百合華はなおも続ける。


わたくしたちが使用人の真似事など」

「それを俺たちにしろというのか。信じられない」


 熱く語り続ける聖司と百合華に、真浩と美咲は泣きそうな顔で視線をさ迷わせた。強制的に意見を言わされたにもかかわらず攻められ、二人にとってはとんだとばっちりである。

 あわあわと戸惑っている真浩と美咲をよそに、なぜか息の合った様子で議論している聖司と百合華に声をかけたのは拓海であった。


「あの、それについて考え付いたことがあるんですけど」


 そう言った拓海はいつもの何か企んでいるような、食えない笑顔を完全に隠し少し困ったような悪意の欠片もない笑顔を張り付けている。真浩と美咲は前回の会議と同様の展開になっていることに悪い予感を隠せなかった。そんな二人の考えをよそに、聖司と百合華が意識を拓海に向ける。


「あなたは確か、この間も劇の内容について意見していらしたわね」

「どんな意見か興味があるな。言ってみろ」


 聖司と百合華の言葉を受けて拓海が意見しようとした時、これまで黙っていた詩乃が手を挙げた。


「申し訳ありません。その前に一年生二人はダンス練習に行くべきではないでしょうか」


 表情を一切動かすことなく詩乃が発した言葉に、聖司と百合華が思案顔で答える。


「そうでしたわね。一年生の二人にはダンスの練習があるのでしたわ。ここからは私たちだけでも進められるかしら?」

「京華院の意見にもよりますが、我々だけでも問題はないでしょう。どうだ、京華院」


 聖司に問いかけられた拓海が首を縦に振ったことで、真浩と美咲はゲストルームからの退場を言い渡された。もちろん、しがない一年生の意思が反映されるはずもなく、結局出し物の詳細がわからないまま真浩と美咲は言い渡された練習室へ足を向けたのであった。


 練習室への道すがら、非常に疲れた表情で真浩と美咲はポツリポツリと会話していた。


「まさか私たちが意見を求められるとは思いませんでした」

「俺もです。しかも説明した瞬間の信じられないものを見るような会長たちの目……悪いことをしていないはずなのに即座に地面にひれ伏しそうになりましたよ」


 二人同時にその時のことを思い出し、重い溜息をついた。


「お互い大変ですね」


 そう言ってふわりとした微笑みを向けてくる美咲を見て、真浩もつられて微笑み返した。


「そうですね。お互い頑張りましょう」


 真浩の言葉に美咲が笑みを深くした。


「私たち同士って感じですね。あの、よかったら敬語で話すのもやめませんか?」

「いいですね。あ、いや、いいね。そうしよう」


 美咲の提案に真浩は迷いなくうなずく。二人の間には心なしか穏やかな空気が流れていた。そんな空気のなか、不意に真浩が困ったような表情を美咲に向けた。


「あ、えっと、そういえば、俺のためにダンスの練習つき合ってもらっちゃってごめんね。そのせいで会議追い出されちゃったし」


 バツが悪そうにおずおずとそう言った真浩に、美咲は少し驚いたような表情をつくった後すぐに微笑んだ。


「いいよいいよ、ペアなんだから一緒に練習するのはあたり前だし」

「でも、佐倉さんは踊れるのになんか悪いなって」

「ううん、気にしないで。それに、あの会議の空気私たちには少し重たかったから、ちょうどよかったかもしれないよ」


 少しいたずらっぽく笑った美咲に、真浩も笑顔を取り戻す。


「ありがとう」


 お礼を言った真浩に、微笑み返し元の穏やかな空気が戻ってきた。そして、二人はそのまま取り留めのない話をしながらも、両校の生徒会メンバーが呼びに来るまでダンス練習に励んでいた。



 その後、着々と学園祭準備が本格化していく中、真浩はダンス練習に加えパレード衣装をつくるヒカリの補佐役に任命された。これにより、劇、出し物ともに関わることが極端に少なかった真浩は、結局当日まで出し物の内容を知ることができなかった。これが二校の会議によって一年生二人に仕組まれたことである事実を真浩は知る由もなかった。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 投稿時の編集ミスで最近投稿した話が携帯で読んでくださっている方々には非常に読みにくくなっていました。

 修正しましたので、以前と同じ改ページありの状態になっております。


 このように拙いものではありますが少しでも楽しんでいただけると幸いです。

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