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会誌第二十一号

 体育祭が無事終了し一息ついたのもつかの間、四龍会のメンバーは次のイベントである学園祭に向け準備を始めていた。短期間で内容をつめ、練習や備品の準備も行わなければならないためメンバーに休息はない。それは例え授業のある日の昼休みであっても例外ではなかった。


「全員そろったな」


 聖司の一言で全員が居住まいを正す。いつもの温室には大きめの机が運び込まれており、聖司を正面に四龍会のメンバーが並んで座っていた。


「では、学園祭の内容について。鳳、始めろ」

「は~い!」


 聖司に指名されたヒカリは意気揚々と立ち上がって説明を始めた。


「みんなも知ってるように、学園祭は三日間あっりま~す。一日目はパレード、二日目は模擬店、で、最後に劇ってな感じです。今日はぁ、パレードについて決めたいんですけど、今年は聖アンと合わせなきゃだから~どうします?」


 さして困った様子も見せずヒカリが聖司と亜門の方を向いて問いかけた。


「ああ、そのことに関しては僕が説明するよ」


 急に不機嫌そうな顔をつくり、心なしかイライラし始めた様子の聖司に代わり亜門が答えた。なぜかわからないが機嫌の悪そうな聖司に、真浩をはじめとした学年違いのメンバーは若干縮こまった。


「この間、僕と聖司で聖アンに行ってパレードの衣装については話し合ってきたんだよ」


 聖司の様子に苦笑を漏らしながら亜門は続ける。


「まあ、簡潔に言うとうちの衣装は悪魔をモチーフにするってことになったんだけど」


 そう言って亜門は聖司の方を見た。


「俺は納得していない」


 苦虫を噛み潰したような顔で聖司が言葉を発した。そのことに状況が掴めないメンバーは一様に首をひねる。そんなメンバーの様子を見かねて亜門が口を開いた。


「いつものことと言えばいつものことなんだけど、聖司が出した案と九条さんが出した案がぶつかってね」


 亜門の言葉にやっと他のメンバーは納得し、同時に過去の会議の状況を思い出して遠い目をした。亜門自身の表情も若干疲れているように見える。おそらく終わりの見えない二人のやり取りを終結させるため相当な労力を使ったのであろう。


「結局、妥協案として天使と悪魔をモチーフにするってことで一応会議はお開きになったんだよ」


 困ったように笑う亜門の話が終わると拓海がすかさず手を挙げた。


「は~い。ちなみに、うちのかいちょ~の案と聖アンのかいちょ~さんの案ってどんなだったんですか~」


 興味津々といった様子で問いかけてくる拓海に、亜門は困ったような笑顔のまま答えた。


「聖司の案が妖怪で、九条さんの案が妖精」

「「「「「……。(それ、なにが違うの?)」」」」


 会議冒頭から爆睡中の英と昼食を食べることに夢中の紅を除き、全員の心の声が一致した瞬間であった。メンバーの言いたいことがわかったのか亜門が聖司に視線を向ける。しかし、そんな周りの様子に構わず聖司は苦々しげに吐き捨てた。


「我ら伝統ある龍徳学園が妖精などと浮ついたものの格好などできるはずがないだろう。まったく。侮辱も甚だしい」


 未だ納得できていない様子の聖司に小さくため息をつくと亜門はヒカリに向き直った。


「そういうことだから、ヒカリちゃん、衣装のデザイン頼んだよ」


 亜門の言葉を受けてヒカリが嬉しそうに微笑む。


「任せてください! ヒカリ頑張っちゃう!」


 亜門に頼まれたことがよほど嬉しいのか、わずかに頬を染めながら興奮した様子でヒカリが答える。そのまま意気揚々と資料をめくったヒカリは次の話題に移った。


「じゃあ、次ですぅ。次は後夜祭のダンスパーティーについて」

「ああ、それに関してもとりあえず話はついてるよ。まあ、こっちはさっきと違ってパーティー衣装と言えば決まってるからね。そっちに関しては問題ないよ」

「じゃあ、あとはペアの相手と当日のプログラムと―」


 さも当然のように進められていく後夜祭の話を聞きながら真浩は凍りついた。聞き間違いでなければ、今ダンスパーティーとヒカリは言っていた。実際に参加したことがないのではっきりしたことはわからないが、ダンスとつくからには実際に踊る場面があるはずだ。その場合、四龍会のメンバーが踊らないという選択肢が存在するとは考えにくかった。そこまで考えて真浩はおずおずと手を挙げた。


「あの~……すみません。少しいいですか?」


 言いにくそうにしている真浩に、他のメンバーの怪訝そうな視線が突き刺さる。


「そのダンスパーティーって、俺たちも踊るんですか?」


 真浩の質問に今度はメンバーが驚いた表情をつくる。各々顔を見合わせると、聖司が呆れたように口を開いた。


「踊らないダンスパーティーがあるのかこちらが訊きたいくらいだ。それともお前の知るダンスパーティーとは踊らないものなのか?」


 聖司の言葉に真浩はさらに嫌な予感がして冷や汗を流した。


「ちなみに、どんなダンスを?」


 真浩の疑問に聖司が少し思案したのち答える。


「まだ詳細は決まっていないが、おそらくワルツになるのではないかと思うが?」


 悪い予感が当たり凍りついた真浩の表情を見て、聖司は合点がいったという表情をした。


「お前、ダンスが踊れないのか?」


 確信をもって放たれた問いに真浩はゆっくりとうなづく。途端に、周りのメンバーが騒ぎ始めた。


「うっそ! ヒロちゃん踊れないの? キャハハ」

「困ったね」

「これだから雑用は困るのよ」

「ダンスが踊れないとは……」


 それぞれのメンバーからかけられる言葉に真浩は椅子の上で縮こまった。


「でも、前の学校では踊ることがなくて……」


 ぼそぼそと訴える真浩に、ヒカリが眉間にしわを寄せながら答える。


「あのね、今回は踊れませんじゃだめなのよ! なんせ後夜祭では最初に四龍会と花園会のによるダンス披露があるんだから!」


 ヒカリの言葉に真浩は勢いよく顔を挙げた。しかし、何と言われても真浩が踊れない事実は変わらない。真浩は泣きそうになりながら聖司を見た。それに倣い周りの視線も聖司に集まる。当の聖司はしばらく思案した後、ゆっくりと顔を挙げた。


「奥村がダンスを踊れないというのは非常に由々しき事態だ。だが、俺たちが教えようにも各々当日の準備もあって難しい。だからと言って一人で練習というのも無理な話だ」


 聖司の言葉に英と紅以外のメンバーがうなずく。


「そこで、奥村はとりあえず練習につきあってくれる友人を探して自主練習を進めておき、時間があいたら俺たちも時々見に行くこととする」


 聖司から言い渡された内容に真浩は弱弱しくうなずく。


「幸いにも奥村は劇練習に参加しないからな。その時間を練習に充てることができるだろう。ダンスのペアが決まるまで形だけでも踊れるようにしておけ」


 そう言うと聖司は座っているメンバーをぐるりと見回した。


「さて、時間がおしてしまったのでこの時間の話し合いは終わりとする。鳳は衣装の試作を担当してくれ。補助として亜門をつける。大徳寺、鷹司、京華院は四龍会と花園会のメンバーをどのようなペアにするのか決めてくれ。俺は一条と当日のプロクラムをつくる」

 

 指示をうけたメンバーが各々うなずいたのを確認すると聖司が続けた。


「誰か意見や質問、言い残したことがあるやつはいるか?」


 メンバーが顔を見合わせた後、首を横に振るのを見て聖司は一つうなずいた。


「よし、では、解散」


 聖司の言葉を受け、四龍会のメンバーは散らばっていく。その背中を見送り、未だに眠り続けている英を起こしに向かいながら真浩の頭の中はダンスのことでいっぱいであった。



教室へ戻ると、待っていましたとばかりに亮介と透が駆け寄ってきた。


「お疲れ様、マッピ」


 笑顔を向けてきた亮介に、真浩はやや疲れた笑顔を向けた。そんな真浩の様子に亮介と透は不思議そうに顔を見合わせる。


「何かあったんスか?」


 心配そうに話しかけてくる透に一度視線を向けると、真浩は顔の前で手を合わせた。


「二人に頼みがあるんだ」


 そう言って頭を下げる真浩を驚いたように見た後、亮介と透は顔を見合わせて微笑んだ。


「な~に言ってんのさ、マッピ。俺たち友達じゃん!」

「ヒロぽんからの頼みごとなんて腕がなるッス!」


 笑顔で快く自分の頼みごとを引き受けてくれた二人に、真浩は盛大に感謝しながら頼みごとの内容を説明した。真浩の説明を受けて、亮介が思案顔で話し始める。


「ダンスね~。まあ、とりあえず放課後に基本的なことから練習していこっか」

「あんまりダンスは得意じゃないけど…できることは何でも手伝うッス!」

「なら、透が女性役をするのはどう? 透なら適任でしょ」

「ああ、俺より背が低いから?」


 真浩がそう言った瞬間亮介が苦い顔をし、急に透がうつむいてぶつぶつと何かを呟き始めた。その様子に真浩は疑問を感じ、透の顔を覗き込んでぎょっとした。真浩が驚いてのけぞると同時に勢いよく顔を挙げた透が泣き叫び始めた。


「にぎゃーーー、ひどいッスーーーーー」


 真浩は突然の出来事に目を白黒させる。クラス中の視線を浴びながら未だ火がついたように泣き叫ぶ透を、亮介はなぜかうんざりとした様子でなだめようとしているがあまり効果がない。泣き止まない透に真浩は焦りを感じて問いかけた。


「透、ちょっと、どうしたの? なんか気に障るようなこと言った?」


 真浩の言葉にえぐえぐと泣き止まないまま透が答えた。


「背、低いって、ひっく、言ったッス、う、っひ、ちっちゃいって言ったッス」


 透の話した内容にやっとこの場の状況を理解した真浩は亮介の方を見た。そんな真浩の視線に苦笑で返し、亮介は透の頭を撫でながら声をかける。


「あー、マッピも悪気があったわけじゃないよ」

「う、うん、透、ごめん」

「ほら、マッピもこう言ってることだし」


 しかし、二人の説得もむなしく透は泣き止まない。真浩が困っていると、亮介がそっと耳打ちしてきたので、その内容を透に伝えた。


「お詫びに透の好きな苺牛乳おごるよ」


 真浩が言い終わると同時に、透は泣いていたのがウソのように目を輝かせた。


「了解ッス! うは! 楽しみ!」


 急変した透の表情に真浩が驚いていると、亮介があきれ顔でため息をついた。


「透には身長に関することがNGワードなんだよ。言われるとさっきみたいに大泣きする。俺はマッピより透といる時間長いから、前にもこういう経験があるんだ」


 疲れた様子で説明する亮介に、真浩は戸惑いがちに問いかけた。透は未だ嬉しそうに跳ねている。


「でも、なんで苺牛乳?」


 真浩の問いに亮介が苦笑しながら答える。


「まあ、簡単に言えばそれが泣き止ませる手段だから」


 亮介の言葉を聞いて透を見ると、キラキラした瞳で真浩を見ていた。


「ホントに買ってくれるんスか?」

「う、うん。でも、そのくらい自分で買えるんじゃ……」


 この学園の生徒であれば苺牛乳くらいと思って問いかけた真浩であったが、透のおごってもらうからこそおいしいのだという言葉に諦めた。その後、恐ろしく厳選された食材により製造された桁の違う苺牛乳を買わされることになるとは、この時の真浩が知る由もなかった。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 学園祭編始まったばかりですが、今後話の内容を深めていけたらと思います。

 しばらく続くと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

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