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会誌第二十号

 風で黒龍の応援団員がまとう黒い長ランがひるがえる。グラウンドには舞台へ向かう応援団員の足音だけが響く。その場にいる全ての人が聖司率いる黒龍の動向を見守っていた。

 舞台に上った聖司の手の合図で応援団員が四方に散らばる。聖司を中心として、真浩が黒龍、康文が赤龍、邦弘が青龍、透が白龍の応援席の方を向いて立つ。これまでの応援は自分のチームの方を向いて行われていたため生徒の間にはかすかにざわめきが広がる。そんな周りの様子を気にすることなく、聖司は一度手袋をはめなおすと大きく息を吸い込んだ。


「俺は、龍徳学園体育祭に参加する全ての生徒の健闘を祈っている。黒龍としてだけでなくこの学園の代表として(


 静寂に包まれたグラウンドで聖司が高らかに宣言した。その言葉を合図として大太鼓の音が鳴り始め、黒龍の応援団による演技が始まった。一糸乱れぬ機敏な動きでエールを送る応援団員たち。

 各色のチームの前に立っていた真浩、康文、邦弘、透はチームカラーの龍が描かれている旗を持ち、他の団員の演技に合わせて声援を送っている。一方、聖司は生徒会の象徴である四頭の龍が描かれた旗を持ちながら舞台中央を移動していた。演技が進むにつれて、徐々にグラウンドが熱気に包まれていく。そんな中、両手で旗を持ち声のみを発している真浩たちと違い、聖司の演技は旗を片手で持ち空いている方の手を大きく開いたり振り上げたりといったものであった。そんな激しい演技をしながら、常に舞台を移動し続けている聖司の負担は相当のものである。まるで舞ってるかのように華麗な演技を披露する聖司の額には汗がにじんでいる。それでも聖司は表情を変えることなく、いつも通りの自信に満ちた笑顔を浮かべている。真浩はそんな聖司の姿を横目に見てより一層声を張り上げた。


「自らの果たすべき役割を全うし、自らに打ち勝て! それでこそ龍徳学園の生徒というものだ」


 最後にそう聖司が高らかに宣言して演技はひとまず区切りとなった。熱気に包まれて手拍子や声援を送っていた応援席の生徒は、聖司の言葉に水を打ったように静かになる。しかし、演技はこれで終わったわけではない。この後に残されていることこそ、真浩にとって本日もっとも緊張する一瞬であった。


「主将!」


 早鐘を打つ心臓に今だけは気づかないふりをして真浩は叫んだ。その声に聖司が真浩の方を向く。


「我々が目指すのは黒龍の勝利ただ一つ。しかし、貴方は全ての生徒の勝利を望むと言う。貴方は我ら黒龍の勝利をお疑いか」


 真浩の言葉は黒龍の応援席にいる生徒が少なからず抱えていた疑問であった。他のチームが自らのチームのためだけに応援を行ったのに対し、黒龍の応援は全ての生徒に向けたものである。聖司が生徒会長であるとはいえ、自分のチームだけを応援していないということには変わりない。そんな応援席からの注目を一身に浴びながら聖司は真浩の言葉に答えた。


「俺が望むのは全ての生徒が全力でぶつかりあうことだ。黒龍の勝利を信じていないわけではない」


 そう言って首を振る聖司に真浩はなおも続ける。


「確かに、おっしゃる通りかもしれません。しかし、それでもただ純粋に我らの勝利を信じていらっしゃるとは言い難い」


 真浩は言い終わると体の向きを変え応援席の方を向いた。


「黒龍の皆さん、我らが主将に絶対の勝利を約束しようではありませんか」


 真浩の言葉に黒龍の応援席からざわめきがおこる。


「完全で絶対な勝利を我らの手に!」


 力強い真浩の言葉に応援席にいた生徒は一斉に立ち上がり勝利を誓う言葉を口々に叫んだ。その様子に真浩は笑顔を浮かべると手に持っていた黒い龍が描かれている旗を聖司に差し出した。


「我らの覚悟受け取っていただけますか」


 真浩と一瞬見つめあった後、聖司は力強くその旗を受け取った。


「皆の覚悟しかと受け取った」


 その様子に応援席はいよいよ沸き立ち、その後演技を終えた応援団が一礼の後去って行ってもその熱はなかなか覚めることはなかった。


 そんなにぎやかな応援合戦が終わると、体育祭は午後の種目を怒涛の勢いで消化していった。途中、まったく似合わない亜門の大玉ころがしや嫌にキラキラした汗を飛ばしながら聖司が走るリレーなどがあったが、結局最後まで種目において英の姿を見ることはなかった。それでも何食わぬ顔で閉会式には参列しており、真浩は狐につままれたような気持ちでちらりと英の様子をうかがった。開会式と同じく吹奏楽部の演奏で始まった閉会式は、例にもれず幾人かの気絶者と共に幕を閉じた。

 これをもって龍徳学園体育祭の全日程が終了した。



 一般の生徒たちより早めに引き上げた四龍会のメンバーはいつもの温室に向かって校舎内を歩いていた。それぞれのメンバーが思い思いに会話する中、真浩の前では亜門が聖司に話しかけていた。


「あれは、反則なんじゃない?」

「いったいどの部分が?」


 苦笑を浮かべている亜門と視線を合わせないまま聖司が答えた。二人が話しているのは体育祭の応援合戦のことである。結局応援合戦は黒龍が優勝し、その応援によって士気を高めた黒龍が総合優勝を飾ったのであった。


「全体応援なんて他には真似できないよ」

「それでも規則に違反してはいない」


 口をとがらせて抗議する亜門に対して聖司は飄々と返す。


「それに、あの奥村くんの口上。見事だったね」


 聖司に何を言っても無駄だと思ったのか亜門は後ろを歩いていた真浩に視線を向けた。急に話をふられた真浩は焦って答える。


「いえ、あれは俺が考えた言葉じゃなくて、決められてた台詞で」


 あたふたする真浩の様子に微笑んで亜門は聖司に視線を戻した。


「聖司が考えたの?」

「まあな」


 亜門の問いに聖司がぶっきらぼうに答える。その様子を見て亜門は笑みを深くした。


「台詞もだけど奥村くんの雰囲気とか仕草とかすごく様になってたよ」

「え~っと、それは、ありがとうございます」


 くすくすと笑われて真浩はどうしていいかわからずとりあえずお礼を言った。そんな真浩と聖司を見比べながら亜門は未だに笑っている。そんな亜門の様子に疑問を感じながら、ちょうど到着した温室に先に歩いていた紅、ヒカリ、拓海、英そして聖司、亜門についで入ろうとした真浩の肩が叩かれる。振り返るとそこには四龍会一長身の人物、祥一郎が立っていた。


「少しいいか?」


 眉間に深くシワを寄せながら祥一郎が呟いた言葉に、真浩はわずかな恐怖をにじませながら無言でうなずいた。他のメンバーは先に温室の中へ入ってしまったようで周りには二人以外誰もいない。


「その……体育祭準備の件、礼を言う」


 気まずいといった様子でそう言った祥一郎を真浩は唖然と見上げていた。真浩にとって祥一郎から文句を言われることはあっても感謝を伝えられるなど考えてもいなかったからである。


「い、いえ」


 やっとそれだけ返して真浩は視線をさ迷わせた。正直どのような反応をすればよいのかわからなくなった。そんな真浩の様子を少し伺ったあと、祥一郎は言葉を続ける。


「それと、すまなかった。ついカッなって。手をあげた過去はいまさら消せるものではない。お前が許せないというのであればそれでもいい。だが、謝らせてほしい。本当にすまなかった」


 ゆっくりと頭を下げる祥一郎に真浩は慌ててその肩を押した。


「そんな、顔を上げてください」


 必死で言い募る真浩に祥一郎はやっと顔を上げ視線を合わせた。


「あれは、確かに驚きましたけど、でも鷹司先輩の思いもわかります。いきなりよくわからないヤツが来て、いきなり生徒会の一員面してたら不快に思うのは当然です」


 祥一郎との一件の後、真浩自身もあの日のことを振り返って考えていた。祥一郎から暴力を受けたのは事実でありそれを正しいとは決して思わないが、真浩自身でさえ戸惑っていた生徒会入りをメンバー全てが受け入れらるはずがないのだ。それに気づいてからは祥一郎の行動も理解できるような気がした。


「俺、最初は事故みたいな形で生徒会入りしてしまって、四龍会のメンバーだと言われてもいまいち実感が湧いてなかったんです。だから、鷹司先輩だけでなく周りのことを考える余裕どころか考えることさえしていませんでした」


 ゆっくりと話す真浩の様子を祥一郎は黙って見つめていた。


「でも、最近やっと四龍会のことが少しわかってきて、例え最初がどうであれ今この場にいる以上はできることをしたいと思えるようになったんです。ちゃんと考えるべきことや感じるべきことは自分の心の中に留めておこうと思っています。まあ、こんな偉そうなことを言っても俺は雑用期間が終わればお役ご免なんでしょうけど」


 そう言って困ったように笑う真浩に向けていた視線を一度そらすと、祥一郎は意を決したように再度顔を上げた。祥一郎に強い視線を向けられ真浩はわずかにたじろぐ。


「正式に四龍会のメンバーになりたいか?」


 祥一郎の言葉に少し悩んだ後真浩は答えた。


「なりたいとか、なりたくないとか俺には恐れ多いというか」


 真浩が今の率直な気持ちを答えると祥一郎は視線を外さないまま一歩前に出た。


「方法ならある」

「え?」


 祥一郎の真剣な目に見つめられて真浩は身動きがとれない。


「お前が望むのなら俺の」

「奥村」


 祥一郎の言葉を遮るように温室の方から声が響く。慌てて真浩が振り返るとそこには仏頂面の聖司がいた。なぜか横には拓海が立っている。


「何をしているのかと思えば、いつまで油を売っているつもりだ。体育祭の反省会をする。早く来い」

「あ、はい!」


 それだけ言うと足早に去って行った聖司を追いかけようとして一歩踏み出した真浩は、はっと気づいて祥一郎の方に向き直った。


「あの、俺に何か言いかけてましたか?」


 そう問いながらも温室の方を気にしている様子の真浩を見て、小さくため息をつくと祥一郎は首を横に振った。


「いや、たいしたことじゃない。それより会長が呼んでいただろう。行かなくていいのか?」


 祥一郎の言葉を受け、真浩は弾かれたように頭を下げると温室の中に消えていった。その様子を黙って見つめながら祥一郎は今度は大きくため息をついた。そんな祥一郎の肩をたたいた人物がいた。言わずもがな拓海である。


「ざ~んねんだったね、ショウちゃん」

「うるさい黙れ」


 ニヤニヤと横で笑う拓海に祥一郎は即座に返した。そんな祥一郎の様子に構うことなく拓海は続ける。


「だ~めだよ、あの子は。俺らなんかには手が出せない代物だよ」


 真浩が消えていった温室の入り口に祥一郎と拓海はそろって視線を向けた。


「ま、完全に無理ってわけじゃないと思うけどね~。最終的に選ぶのはヒロちゃんだし~」


 未だニヤつきながらそう話す拓海を祥一郎は横目で見たが、すぐに視線を戻した。


「でもま、やっぱり……ね。さ~て、俺たちも早く戻らないと怒られるね~」


 そう言うと拓海は祥一郎を置いて温室の中に入っていった。その様子をしばらく見つめていた祥一郎であったが、また一つため息をついた後ゆっくりとその背中に続いたのであった。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


 この間投稿してからしばらく経ってしまい申し訳ありません。

 いついつに投稿というとそれをやぶってしまいがちな自分がいることに気づきました。

 ですが、次話の番外編はほぼできているので今度こそ近々投稿させていただきことができると思います。


 今後ともよろしくお願いします。

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