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第73話: 再会! 勇者たちと乾杯する夜

彼らと最後に会ったのは、

もう何ヶ月も前だった。


この世界に召喚されてから、

ゆっくり腰を据えて言葉を交わしたことなんて、一度もない。


互いに別々の戦場で戦い続け、

ただ遠くの報告書や噂だけで存在を知る――

そんな、関係だった。


(……今さら、どんな顔して会えばいいんだか)


喉の奥で小さく自嘲の笑いが漏れる。


笑いともため息ともつかないそれは、

街に染みついた火薬と血の匂いに溶けていった。



背後で軽い靴音が止まり、セレスが肩越しに声をかけた。


「肩に余計なテンションがプラス二〇%ってとこね」


「……数字で言うなって」


「ええ。あなたは彼らとは違う形で戦ってきたわ。

でも、その結果が今、この街を救ったのよ。

――そこに、誇りを持ちなさい」


セレスの皮肉めいた口調が、今日は少しだけ柔らかかった。


リィナもくすっと笑う。


「悠真がそわそわしてるの、久しぶりに見たかも」


「そわそわしてないってば。

ただ、考えてただけだよ」


悠真は苦笑して肩をすくめた。



やがて、仮設の広場にざわめきが走った。


王国軍の青いマントをなびかせた一団が、

石畳を踏みしめてこちらへ歩いてくる。


先頭に立つのは――坂本一真。

その横に青山美咲。

少し後ろに高橋健吾。


鎧は土埃にまみれ、傷だらけ。

それでも、三人の眼光は戦場をくぐり抜けた者だけが持つ、研ぎ澄まされた輝きを失っていない。


リオナスの兵士たちが、自然と道を開けた。


誰もが知っている。

王国に召喚された「勇者たち」――

伝説の担い手である三人が、

今、この焼け焦げた街に足を踏み入れている。


悠真はゆっくりと立ち上がった。


「……久しぶりだな」


自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


鉄と血の匂いがまだ漂う街の中で、

まるで時間がゆっくり巻き戻ったような錯覚に陥る。


一真が悠真を見据える。わずかに目を細めたが、

かつてのような軽蔑や敵意は、そこにはなかった。


ただ、戦場を生き抜いた者同士だけが共有できる、

冷たく、しかし深い視線だけが残っていた。


「ここが……お前の戦場か」


短い言葉に、悠真は静かに頷いた。


健吾が口元をほころばせ、

いつもの調子で言った。


「すげぇじゃねえか、悠真。

あの屠魔将を落としたって話、もう噂になってるぜ」


その言葉に、茶化す色はなかった。

純粋な、認めざるを得ないという響きだけがあった。


「それによ、お前がくれたあの盾……

あれがなきゃ、今頃俺の腕はなかった」


美咲は穏やかで、どこか優しい瞳で悠真を見つめる。


「リオナスが持ちこたえたのは……

あなたがここにいたからよ」


悠真はわずかに目を伏せ、首を振った。


「違うよ……俺一人じゃない。

ここにいる誰もが必死だった。

全員が、命をかけて戦ったんだ」


一真は何も言わず、腰に下げた剣――

悠真から受け取った《烈火の刃》に視線を落とした。


刃はまだ赤く熱を帯び、戦いの余韻を残している。


「……助かったぜ」


それだけ、短く呟く。


かつてなら決して口にしなかった言葉が、

今は素直に零れた。


悠真は小さく笑った。


「道具が勝手に戦うわけじゃない。

お前たちの腕があってこそだよ」


それ以上、言葉は続かなかった。


戦いを生き延びた者たちの間にだけ流れる、

奇妙で、でも心地よい静寂が訪れた。


健吾が両腕を組み、肩をすくめて笑った。


「ま、何にせよ……こうしてまた会えたのは、悪くねぇ。

ゆっくり話したいもんだな」


美咲も頬をほころばせ、柔らかく微笑む。


「そうね……この街で一息つけるのは、

きっとそのためかもしれないわ」


やがて、健吾が目を輝かせてニヤリと笑った。


「野暮用が片付いたら、

一杯ぐらい飲めるんだろ?」


一真は何か言いたげに口を開きかけ――

しかし、すぐに閉じた。


彼の視線は悠真を捉え、

そして街の奥、焼け落ちた建物の向こうへと移る。


「……まあ、俺たちもここに長居はできない。

戦力の把握と作戦を伝えに来ただけだからな」


だが、その声には以前のような刺々しさは、もうなかった。

むしろ、否定できない――そんな、静かな敬意のような響きが込められていた。


悠真はその視線を追いながら、小さく返す。


「そうだな。

俺たちも、まだ途中だからな」


美咲が一歩近づき、優しい笑みを浮かべた。


「でも、こうしてまた同じ場所に戻ってこれたわ。

あの時より、お互い、ずっと強くなってね」


健吾も力強く頷く。


「ああ、全員な」


リオナスの夕闇の中で、

四人はしばし立ち尽くした。


かつて同じ世界から召喚されながら、

別々の道を選んだ者たち。


その距離感は、まだ完全に埋まりきってはいない。


だが、今この焼け跡の街で――

彼らの道は、再び交わった。


遠く、王国軍の旗が夕風にはためく。

戦いはまだ終わっていない。


けれど、ここに確かに、一つの節目が訪れていた。


ーーー


――陽が完全に沈みきると、

リオナスの街は一日の緊張をほどいたように静まり返った。


あの地獄のような戦場が、まるで遠い夢だったかのように思えるほど。


瓦礫の山と焦げ跡はまだ残っているが、

仮設の灯りが並ぶ通りには、

わずかながら笑顔と人々の声が戻りつつあった。


悠真は救護所からの帰り道、

ふと背後を振り返った。


そこには、一真、美咲、健吾の三人が並んで立っていた。


ほんのり漂う香草と酒の匂い――

この街が、まだ確かに生きている証だった。


「……今夜くらいは、落ち着けるんだろ?」


健吾が肩をすくめて目を細め、ニヤリと笑った。


「ね?」


美咲が淡い、優しい笑みを浮かべる。


「せっかくだから、四人で飲みに行かない?

……私、ちょっと着替えてくるわ」


一真は渋い顔のまま、観念したように大きく息を吐いた。


「明日は補給日だ……まあ、いいだろ」


――その後、作戦会議を簡単に済ませ、夜が更けていく頃。


四人は、リオナスでも比較的無事だった裏路地の小さな酒場へ足を運んだ。


店内は戦士や市民でごった返していたが、

運良く二階の隅に空いたテーブルを確保できた。


美咲は戦場の重装備ではなく、

淡い灰色のワンピースに着替えていた。


髪を軽くまとめ、首筋には銀色のペンダントが控えめに輝いている。


ほんの少しおめかししたその姿は、戦場で見せる鋭さとは打って変わって、

ひどく柔らかく、優しい印象を与えた。


「似合ってるじゃん」


健吾が素直に言うと、


「ありがと」


美咲が小さく、照れたように笑みを返す。


その笑顔が、悠真の胸にそっと残った。


悠真は何も言わずジョッキを手に取り、視線を逸らす。

だが、耳の奥に微かな熱が、じんわりと残ったままだった。


四人は木製のジョッキを高く掲げ、

軽く、静かに乾杯した。


カチン。


戦場の張り詰めた空気が嘘のように、

麦酒の甘い香りがテーブルを包み、心地よく和ませていく。


「こうして普通に飲める日がくるとは思わなかったな」


健吾が豪快に喉を鳴らし、一気に飲み干す。


「次の戦いまで、ほんのわずかでも息抜きが必要だと思ってね」


美咲が優しく笑うと、悠真の方に視線を向けた。


「あなたも、ずっと走りっぱなしだったんでしょ?」


「まあ、道具作りばっかりで肩はこってるかな」


悠真が自嘲気味に苦笑いすると、健吾が吹き出した。


「冗談になってねぇよ、それ」


「……それにしても」


一真がジョッキを軽く掲げ、静かに口を開いた。


「城塞でもないリオナスを、

ここまで持たせるとはな。

俺たちじゃ、到底無理だったろう」


悠真は肩をすくめ、穏やかに返す。


「お互いさまだ。

お前たちが北部で踏ん張ってくれたおかげで、こっちも息ができたんだ」


一真の口元に、かすかな――しかし確かに笑みが浮かんだ。


「……まあな」


その一瞬、かつての険悪な空気はもうほとんど残っていなかった。


むしろ、テーブルを囲む空気が少しずつ溶けていくのがわかった。


互いの立場、互いの力を認め合った結果生まれた、

奇妙で、でも心地よい信頼感――

それが、ようやく芽生え始めていた。


やがて、話題は自然と装備のことへ移っていった。


「そういえばよ、悠真」


健吾が豪快に笑いながら、自分の巨大な盾を床にドンと置いた。


「なぁ、例の“進化”。

もう一回、頼めねぇか?」


「私も」


美咲が微笑みながら、長杖を軽く掲げてみせる。


「前にもらった炎光のランタン、

今でも大事に使ってるの……

それに、この杖ならどうなるのか、かなり興味があるわ」


悠真はジョッキを置き、静かに頷いた。


「ああ、もちろんそのつもりだ。

でも……実のところ、

どんなものができるのかは、俺にも選べないんだ」


「ああ、聞いてるよ」


一真が低く、落ち着いた声で言った。


以前のような疑いや棘は、もうどこにもなかった。


「それでも――前にもらったこの剣は、

予想をはるかに超えて凄かった」


そう言って、一真は腰の《烈火の刃》の柄に軽く手を置く。


刃はまだ微かに熱を帯び、卓上の灯りを赤く反射していた。


健吾が目を輝かせて身を乗り出した。


「選べないってところが、逆に燃えるんだよ!

次はどんなチート装備が出てくるか、楽しみで仕方ねぇぜ」


そう言って、ジョッキを豪快に煽る。


美咲も照れくさそうに頬を緩めながら、悠真をまっすぐに見つめた。


「私も、どんな風になるのか……

今からドキドキしてる」


悠真は少し顔を赤らめ、視線を逸らすと、ジョッキを軽く掲げた。


「期待されるとプレッシャーだけど……

まあ、せっかくだから、やらせてもらうよ」


四人のジョッキが再び軽く触れ合い、

小さな、でも温かい音が響いた。


戦場の外で、こうして笑い合える時間が訪れたこと――

それだけで、今夜の酒は格別に美味かった。

第73話、感謝です。


すべてはここに繋がります。


次回『灼斬・蒼紋・重絶! 勇者三人の新武装』


面白ければ★お願いします。

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