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第65話: 重力の魔獄 ~黒曜鉱区の底なし罠~

「あれは魔王陛下の力を媒介に造り上げられた、飛行戦用の究極兵器だぞ!」


「勇者どころか竜族ですら正面からは倒せぬはず……一体誰が……?」


仮面の魔将が低く唸る。


「まさか……新たな勇者が現れたというのか?」


「いや、それはあり得ぬ」


別の魔将が首を振った。


「報告では、勇者一行は黒炎の城にいた。あの刻限に谷へ顔を出せるはずがない」


「竜族の仕業か?」


「いや、竜族はむしろ我らが追い詰めている最中だ」


沈黙が広間を支配した。燭台の炎がゆらぎ、影が不気味に歪む。


「……では何者だ」


バルザークは長く息を吐き、玉座からゆっくり身を起こした。


黒い鎖の床を踏み鳴らし、闇の奥に鎮座する〈冥紋核〉へと視線を向ける。


その巨大な魔石の内部で、赤い閃光が脈打っていた。


封じられた“何か”が、ずん……と低い鼓動を響かせる。


「……魔王陛下の封印は、もはや形だけだ」


その言葉に、ドルクが槍の穂先を床に突き立て、火花を散らした。


グローデンが牙を打ち鳴らし、短く唸るように言った。


「ついに来たか……」


リシュヴァは三つ首の蛇の頭を優しく撫でながら、恍惚とした笑みを浮かべた。


ヴァルミラは唇の端を吊り上げ、鉄仮面の奥で舌なめずりをする。


「残るは、最後の供物と――いくつかの戦果」


バルザークの声が低く響く。


「血と魂が揃えば、陛下は完全なる御姿を取り戻される」


「《竜王レイグ=アズル》の首を持ち帰れ。竜族に、我らが真の牙を示すのだ」


リシュヴァが興奮気味に続けた。


「――狩りを始める」


バルザークが静かに、しかし力強く告げた。


「血を。鱗を。そして恐怖を、この大地にばらまけ」


燭台の炎が一際大きく揺らめき、魔族たちの笑い声が地下深くへいつまでも響き渡った。


ーーーーー


赤銅色の空が燃える火山帯。


深紅の霧が渦巻く血の湿原。


瘴気の森で蠢く巨大キノコ――。


この数週間、悠真たちは息つく暇もなく、危険と名のつく土地を踏破し続けていた。


魔族との衝突は日常になり、新しい術式や装備の試行錯誤も、命を削るような戦闘をいくつも越えてきた。


それでも三人は確実に強くなっていた。


連携はより緊密に、判断はより鋭く。互いの癖や呼吸が、自然に噛み合っていく。


その中で、セレスの変化は特に顕著だった。


雪のような白いマントから夜空を思わせる濃紺のロングローブへ。


胸元から脚にかけて入った深いスリット、黒曜石の羽飾り、そして頭に載せたエメラルドの結晶を埋め込んだティアラのような帽子。


すべては悠真と共に歩んだ“進化”の成果だった。


今、彼女の手には闇を吸い込む《深淵の杖》。


《黒曜のグローブ》と《星紋のアンクレット》が、魔力の制御と機動力を高めている。


「ここが……黒曜鉱区ね」


セレスがつぶやいた。


魔族が古代から封印しつつ採掘を続けてきた地下鉱区。


天井の裂け目から射す赤黒い光が、突き出した黒曜結晶を鈍く照らしている。


空気は重く、息を吸うだけで舌が痺れるほどの魔力が満ちていた。


「魔精核を回収できれば、大きな突破口になる」


悠真が前を見据える。


「でも、ここに入った冒険者は戻らない、って噂もあるよ」


リィナが肩越しに笑った。


「噂は噂よ。ここまで来られた私たちなら、十分に通れるはず」


三人は息を合わせて進んだ。


しかし――


「……何かおかしい」


最初に違和感を察知したのはリィナだった。


足元の床石の奥から、心臓の鼓動のような“うねり”が伝わってくる。


次の瞬間。


「罠だ、下がって!」


叫びより早く、足元の空間がドスンッと沈んだ。


世界そのものが下へ傾くような、異常な重力のねじれ。


体が一気に引きずり込まれ、膝が折れ、呼吸が潰される。


「結界……!」


セレスの声が震えた。


見えない圧力が四方から押し寄せ、三人を巨大な魔法陣の中心へと縫い止める。


赤黒い膜が壁と天井を覆い、空気が急激に重くなった。


「……力が、引き剥がされてる」


セレスが苦しげに呟く。


「くそ……《蒼風の翼》が、展開できない」


悠真はマントを広げようとするが、風が下へ叩きつけられ、体が鉛のように重い。


背中に感じるはずの翼の感覚が、まるで泥に沈むように鈍く淀んでいた。


リィナの《雷迅の弓》を構える手が震え、矢にまとわりつく雷光が重力に引かれて散っていく。


セレスも杖を握りしめ、氷柱を形成しようとするが、詠唱の終盤で魔力が足元へ沈み込み、異様な遅延が発生する。


この場所そのものが“底なし”だった。


そして暗がりの奥で、無数の紫の瞳が光った。


黒曜の外殻を持つ重力番獣たちが、次々と姿を現す。


地を踏むたび、地面が悲鳴を上げ、火花のような魔力が散った。


「来るぞ!」


これまで幾多の窮地を切り抜けてきた三人にとって、


武具の補助がまともに働かないこの戦場は、紛れもない最大の危機だった。


重力の底なし沼に沈みゆく中、三人は互いの顔を見合わせる――。

第65話、ありがとうございます。


■セレス装備メモ


深淵しんえんの杖》

特性①:魔力吸収(周囲の魔素を吸い上げて魔法威力を増幅)

特性②:術式分割(複数魔法を同時展開できる)


黒曜こくようのグローブ》

特性①:詠唱短縮(魔法発動の遅延を軽減)

特性②:魔力制御(精密な魔力操作が可能になる)


星紋せいもんのアンクレット》

特性①:瞬間転位(短距離ワープが可能)

特性②:浮遊補助(地形に左右されず滑空できる)


次回『魔精核粉砕! 三人融合奥義《空断ちの槍》炸裂』


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